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6.火蓋は切るもの、落としてはいけない


「ふぅ……こんなものかの」


 最後の一団を転移させたフライヤは小さく息を吐いた。城の中庭に集まったのはほんの一部。勅命を受けた冒険者ギルドは至急、各街に配置された支部に連絡を取り、冒険者を募っていた。それらの者達は冒険者ギルドに集められており、それも全員転移させたのだから、いくら卓越した魔法陣の実力を有しているフライヤでもかなり骨の折れる作業であった。そのおかげというべきか、今この場には王都の人口に匹敵するほどの人員が集っている。


「おう、ばーさん!お疲れ!!相変わらずガキみたいななりしてんのな!」


 やっとの思いで仕事から解放されたフライヤはうっとおしそうに声のした方へと目を向ける。そこには、極限まで動きやすさを重視した肌の露出が多い服を着ている短髪の女と、見慣れない服を着ている男がこちらを見ながら立っていた。


「なんじゃ、お主らか……妾は疲れているんじゃ。ほっておいてもらえると助かるんじゃがのう」


 フライヤは二人から視線を切ると、さっさとどこかへ行こうとする。しかし、なぜか二人とも自分の後についてきた。


「おいおい……これからパーティが始まるんだぜ?そんなんじゃ楽しめねぇぞ!なぁ、ガルガント?」


 乱暴な口調で話す女が隣にいる男に目を向けると、男は何も言わずに腰に携えた刀に手を添える。


「相変わらずみょうちくりんな格好をしているのぉ、お主は」


「……アーティクルの最新ファッションだ。『着物』というらしい」


「そんな事どうでもいいだろうが!!魔族と戦えるんだぞ!?もっと楽しい話をしようぜ!!」


 ガルガントと呼ばれた男がごにょごにょと蚊の鳴くような声で答えると、それをかき消すような大声で露出の高い女が前に出てきた。フライヤは盛大にため息を吐くと、持っていた杖でポンポンと自分の肩を叩く。


「レイラ……妾は疲れたと言っておるであろう?魔族と戦うつもりなんて毛頭ないんじゃ」


「はぁ!?耄碌したか、ばーさん!!」


 信じられないといった顔でレイラがフライヤの顔を見つめる。だが、フライヤは意に介した様子もなく、トコトコと歩き始めた。


「ははーん……破壊の申し子って言われていたあんたも、歳には勝てねぇってことか」


「……なんとでも言え」


「そろそろ後継者探しでもした方がいいんじゃねぇのか?オレ様みたいによ!!」


「なぬ?お主は後継者を見つけたっというのか?」


「おう!!」


 レイラが自信満々に自分のことを指さす。


「まだまだ尻の青いがきんちょなんだけどな、ありゃいい男になるぜ?才能も文句なしだ!十七、八でもうBランク冒険者になってんだ!!Sランク冒険者が一人増えるのも時間の問題ってやつだな!!」


「最近、レイラはその男の話しかしないな。名前は確かレックス・アルベールって言ったか?」


「その通り!あいつはオレ様のだから取るんじゃねぇぞ!!」


 レイラは豪快に笑いながら、ぼそぼそ話すガルガントの背中を思いっきり叩いた。ゲホゲホとむせているガルガントを無視して、レイラは鋭い視線をフライヤに向ける。


「Sランク冒険者としての誇りを失ったらおしまいだ、って教えてくれたのはあんただぜ?フライヤ」


「……その誇りというのは国に対して尻尾を振ることなのか?」


「ちげぇな。強い獲物を狩るってことだ」


 レイラは懐に忍ばせた二本の短剣を取り出すと、目にもとまらぬ速さで回転させ始めた。


「オレ様は魔王軍指揮官ってのに興味があるんだ。あのイケすかねぇ勇者を殺ったって男にな。今日ここに来たのはその男を狩るためだ」


 まるで生きているかのようにレイラの身体を這っている短剣を見ながら、フライヤは小さく笑みを浮かべる。


「それは見物じゃのぉ……妾は遠くからそれを観戦でもしておくかの」


「あんたはその男とやり合ったんだろ?聞いたぜ?工場で悪だくみをしていた連中を助けたってな」


「やり合ってなどおらん。そのお粗末な連中を怒れる魔王軍指揮官から逃がしただけじゃ」


 実際は砦を襲った時に、クロと戦っているのだがその話をするつもりはない。


「かー!あんなガラクタ作っているような奴らを助ける意味があったのかよ!!」


 レイラは呆れたように後ろの方へと目を向ける。ここにやって来た人間達のさらに奥、そこには異様な光景が広がっていた。


 見たこともない黒い鉄塊のような物体。それが整然と並べられている。


 フライヤはそれを見て、スッと目を細めた。


「魔族に勝つためとはいえ禁忌に手を染めるとは……嘆かわしいことじゃ」


「オレ様もああいうのは好きじゃねぇな。まぁ、あんなもんに頼らなくてもいいように気張ればいいって話だろ!!」


 笑いながらグッと力こぶを作り出すレイラを、フライヤはどうでもよさそうな顔で見つめる。


 気が付けば、三人は一番前までやってきていた。レイラは退屈そうに両手を頭の後ろに回して唇を尖らせる。


「あーぁ、いつになったら戦いが始まるんだよ。さっさと始めてくれよな」


「あそこで王が指揮を執るようだ。相手の出方を窺っているのだろう」


 ガルガントが監視塔へと目を向けた。レイラもつまらなさそうに監視塔を一瞥すると、遠くに見える巨大な砦に目をやった。


「あそこを潰しちまえばいいんだろ。目的がはっきりしてるんならさっさと―――」


 突然、魔族の砦からいくつかの黒い影が地面へと降り立つ。遠目ではよくわからないが、何かが砦の前に立っていた。その数は四十にも満たない。


 その集団の先頭に立つ者は、こちらを見ながら大きく息を吸い込んだ。


 グォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!


 まさに獣の咆哮。これほどまでに離れているというのに肌がひりつくような威圧感。隠しきれない強者の闘気。


 騒然としていた場が一瞬にして静まり返る。だが、レイラだけはそれを見て、獰猛な笑みを浮かべた。


「……ウォーミングアップには丁度いい相手だな」


 そう呟くとともに、風属性の魔法陣を組成する。無詠唱で発動された魔法はレイラの身体を包み込み、フライヤとガルガント以外の近くにいた者達を容赦なく吹き飛ばした。


「一番槍はこの”風の担い手(シルフィーナ)”がいただいたぜ!!」


 先程の咆哮にも負けない怒声で告げると、レイラは風に乗って魔族の砦へと突っ込んでいく。


 こうして、魔族と人間の戦いの火蓋が切られたのであった


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