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13.類は友を呼ぶ……って趣味が合う人が集まるのは割と普通の事

 地下室を出た俺達は、そのまま大広間を抜け、階段を上っていく。前を行くピエールは鼻歌を歌いながらスキップをしそうなくらい軽い足取りで歩いていた。後悔の念に押しつぶされている俺とは大違いだよ。


「クロ様……?」


 隣にいるセリスが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。頼む、今はそっとしておいてくれ。


「だ、大丈夫ですよ!以前、人形相手に言い争いをしていた時に比べれば大分まともに見えました!」


 お前、それフォローになってないから。かさぶたに薬を塗ろうとして思いっきりはがしちゃってるから。


「くっくっくっ……実に素晴らしい!我輩の魔法陣をああも華麗に変容させるとは!深淵に愛されし男ということか!」


「そりゃ、どうも」


 もうこいつには付き合わない。怪我をするのは自分だけだって身にしみたから。


「指揮官の魔法陣を用いれば最高の門番が完成する!これでこの地は次元を凌駕するのだ!」


 黒い骸骨のオブジェクトを飾った残念な城になるだけです。


 はぁ……いや、なんとなくは予測していたよ?だって赤い月もどんより雲も黒い湖も全部魔道具の効果だったからな。あぁ、あと雷も。


 こいつはとにかく雰囲気のある城にしたいんだろうな。ピエールの考える雰囲気ってのがどういうものなのかはよくわからんけど。魔王を倒した後にひょっこり現れる裏ボスにでもなりたいのか?


 階段を上りきった先には、細い通路があり、フェルの城にあるような厳しい扉が何個も見受けられる。ピエールはその内の一つを開き、俺達を手招いた。


「しばし我輩の部屋で待たれよ」


 俺達が部屋に入ると、ピエールはそそくさと扉を閉め、どこかへ行ってしまった。


「……待ってろだとさ」


「そうですね。大人しく待ちましょうか」


 俺は部屋の中心にあるすこぶる悪趣味なソファにどかっと腰を下ろす。その隣にセリスがお行儀よく膝を揃えて座った。


 あいつの部屋って言ってたよな?なにここ、広すぎでは?


 今までも各幹部の部屋を見てきたけど、群を抜いて広いぞ。うちのオンボロ小屋の部屋を全部出したくらいはあんじゃねぇか?


 しかも、置いてあるのはよくわからないもんばっか。水晶だったり、髑髏(しゃれこうべ)だったり、紫色の液体が入った試験管だったり、はたまたま訳の分からん石像まで飾られてる。用途とか全然わからないけど、この部屋にあるものの8割はガラクタに違いない。


「すげぇ部屋だな……」


「あまり居心地のいい場所ではないですね」


「ここで生活してんのかな?」


「研究室のようなものではないですか?ベッドやタンスのような生活家具が一切ありませんから」


 ってことは、こんな広い部屋を持ちながら、居住スペースは他にあるってのか?ブルジョアめ。


 しばらく部屋を物色していたら、ピエールが戻ってきた。


「お待たせした」


「いやなに、気にすんなって。それよりここは下で試した魔法陣から魔道具を作る部屋なのか?」


「ふむ……貴殿の言う通り、ここで魔道具を作成するが、順序は少し異なる」


「順序?」


 魔道具を作るのに順番なんかあんのけ?魔法陣が出来たらすぐに埋め込むんじゃねぇのか?


「魔法陣が決まれば、大広間にある倉庫でそれに相応しい媒体を吟味し、魔力の巡りが最も効果的な魔力線を見つけ出す。そうする事で最上のパフォーマンスを発揮することができるのだ」


「はぁ……なるほど……」


 なんかわかるようでわからん話だ。魔力線ってのは何だ?


「本来であれば、順を追って案内するところであったが、貴殿の魔法陣の造詣の深さに感銘を受けてしまってな。逸る気持ちを抑えることができなかったのだ」


「そうっすか」


「というわけで、我輩の同胞を紹介する。入れ」


 ピエールの言葉を合図に部屋の扉が開いた。え?いきなりそんな感じ?まだ心の準備とか全然できてないんだけど。


「くっ……右目が疼きやがる……。こいつぁバケモノみたいな力を持った奴がいるなぁ!」


 あっ……(察し)


「冥府の神がおっしゃっています。終焉は近いと」


「だ……だめ。僕の中にいる悪魔が暴れ出してる」


 部屋に入ってきた三人のヴァンパイヤを見て、俺はゆっくりとセリスに視線を移す。セリスは何も言わずに遠い目をしていた。これはあかんやつや。


「この者達が我輩の同胞である!一人ずつ紹介していこう!まずは邪眼をさずかりし男、リードリッヒ!」


「こりゃ、右眼を解放しないとやべぇかもな!」


 リードリッヒはつけている眼帯を指でいじりながら、凶暴そうな笑みを浮かべた。なぜか両腕に包帯が巻かれているんですが、怪我をしているなら部屋で安静にしててもいいんですよ?


「そして、冥界からの使者、ソフィア!」


「瘴気が濃くなっております。あなたも冥界に赴いたことがあるのですね」


 いや、ないです。


「最後は"悪魔を手懐けし者(デーモンテイマー)"、アウロラ嬢!」


「も、もう抑えられない!ぼ、僕から離れてっ!!」


 はい、あんまり近づきたくありません。というか、全然従えられてないじゃないですか、やだー。


 まじか。まじでヴァンパイヤってこういう連中しかいないのか。ピエールが特別だと信じたかったのに。


 三人とも顔色は悪いけど端正な顔立ちはしている。リードリッヒは活発系なイケメン。ツンツンに髪立ててるし、サッカーとかしてたらモテそう。ソフィアさんは清楚なお姉さん系。静かな佇まいで何となく知性も感じる。アウロラさんは少し小柄でおどおどしている感じ。マリアさんと同じで守ってあげたくなる系女子だな。


 でも、残念ながら三人ともお近づきにはなりたくないです。


 だって一人は包帯の使い方間違えてるし、一人は藁でできた気味の悪い人形持ってるし、最後の一人はブルブルと震えながら自分の身体を抱きしめてるからね。


「えーっと……魔王軍指揮官のクロです」


「悪魔族の長であり、クロ様の秘書も務めるセリスと申します」


 とりあえず自己紹介を返す。そんな俺達にリードリッヒが興味深げな視線を向けてきた。いや、お前の方が興味深い格好してるわ。


「へー……あんたがあの有名な魔王軍指揮官なのか。それで隣にいる綺麗どころが絶世の美女と名高い悪魔族の幹部さんね。お目にかかれて光栄だぜ!」


「魔王軍指揮官……冥府の神が私に注意するよう忠告していた男……はい、十分に警戒いたします」


 ソフィアさんが藁人形に耳を近づけて何やら独り言を呟いている。あぁ、それが冥府の神なのね。


「は、初めて会ったけど、僕の悪魔がこれだけ騒いでるってことは只者じゃないってことだね」


 俺の隣にいる悪魔は葬式に来たみたいな顔をしているよ。


「よ、よろしくお願いします……」


 だめだ……メンタルポイントが激しく削り取られていく。セリスのやつは早々に戦線離脱しやがった。俺の少し後ろに控えて、我関せずを決め込むつもりだろ。


「くっくっくっ……様々な過程を省略し、指揮官をこの場に招いたのは他でもない!」


 ピエールが自信ありげな笑みを浮かべながら、俺と他のヴァンパイヤの間に立った。物凄く嫌な予感がするのですが、どうしたらいいでしょうか?


「それはこの男の持つ力を、皆に体感してもらいたかったのだ!」


 もらいたかったのだ、じゃねぇよ。勝手に決めんな。


「指揮官の力だぁ?おいおい、大丈夫か?もしへぼいもんだったら、邪眼の力で指揮官様を消しちまうかもしれねぇぞ?」


「茶番であれば、冥府の神の怒りが下ることでしょう」


「ふ、不安だなぁ……バハムートは気が短いから気をつけてね?つ、つまらないとすぐに暴れ出しちゃうから」


 いやいや、何にもやらねぇよ?何で俺がこいつらに披露しないといけねぇんだよ。つーか、バハムートってなんだ。


 全員が期待に満ちた目で俺を見てくる。……まじで嫌なんだけど。


 俺は苦い顔をしながらダラダラと手を前に出し、魔法を詠唱した。


「…………”闇から馳せ参じた(ブラックメギド)漆黒に染まる黒炎の骸(ブラックスケルトン)”」


 さっきも見せたからもうこの魔法の説明良いだろ。なんか黒い炎が骸骨の形をしているだけの誰得なやつ。


 そんなくそといっても過言じゃない魔法を見たヴァンパイヤ達の反応はというと……。


「「「すごいっ!!」」」


 めちゃくちゃ興奮しています。


「すげー!!かっこいい!!天才かよ!!」


 おい、リードリッヒ。眼帯ずれてんぞ。邪眼で消されたくないからこっち見んな。


「十字架に髑髏なんて素敵すぎる!私の部屋に欲しい!!」


 ソフィアさん、興奮してぴょんぴょん飛び跳ねているのはいいんですが、キャラ崩壊してますし、興奮して落っことした冥府の神、踏んづけてますよ。


「いいなー!!僕のバハムートも黒い炎を吐くっていう設定にしよう!!」


 設定とか言うな。バハムートが身体の中で泣いてるぞ。


 ひとしきりはしゃいでいた三人だったが、何かを思い出したように急に静かになる。


「ふんっ!流石は魔王軍指揮官ってところか!俺の邪眼とどっちがすげぇか試してみたくなったぜ!!」


「十字架に張り付けにされた骸……冥府の神にささげる供物、ということですね」


「あ、危なかったよ……いきり立ったバハムートが僕の身体を突き破るところだった……」


 …………もうやだこの人達。


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