23.隕石は生命の起原という説もある
はーい。なんだか久しぶりなクロムウェル君です。片眼だけダークブルーにイメチェンして、神秘的なイケメンに様変わりしたよ!
なーんて、これはセリスの新魔法なんだよな。
前にセリスの幼馴染であるキールが使った"私はあなたであなたは私"って幻惑魔法があっただろ?あの中身だけ入れ替えるってやつ。
あれを参考にして、セリスが便利な魔法を作り出したんだよ。一応、原理は聞いたけどよくわからんかった。なんでも、五感を惑わして接続を組み替えるとか何とか。俺の頭が理解することを拒絶した。
まぁ、ようするに身体の一部を交換する感じだ。うん、自分で言ってて違和感バリバリだけど、この説明が一番しっくりくるから。
とりあえず、今の俺の右目はセリスの目で、右耳はセリスの右耳ってこったな。セリスの方は俺のね。右目と左目が違うものを見ていて頭が混乱するわ。慣れるのに多少の時間を要したくらいだからな。
つーわけで、セリスの目を通して工場の出来事は一部始終見ていたわけで。俺の怒りが有頂天なわけで。
いやー、セリスにアルカのことを見守るように頼んで正解だったわ。ギガントの視察にセリスは必要ないって判断して、そうした俺グッジョブすぎる。アルカに悪い虫がついていないかの確認だったが、くっついてたのは蛆虫だったな。
現在、工場上空を飛行中の俺は、セリスに色目を向けている変な科学者の口上を聞いている所。そしてこの蛆虫野郎……あっ間違えた、ゴミ屑以下の蛆虫くそ野郎はアルカに手を上げるだけにとどまらず、あろうことか俺の恋人を妻にしてやる、とかほざき出したんですけど。この世界から存在を抹消しても構わないよね?
『それはとても魅力的なお話ですね』
セリスの声が聞こえる。喋ればその声は自分の耳に届くもんだからな。この魔法は連絡手段としても重宝するぞ。あんまり長い間交換していると乗り物酔いしたみたいに気分悪くなってくるけど。
『どう思いますか?』
多分、これは俺に言ってるんだと思う。どう思いますかってお前……んなこと、聞かなくてもわかるだろうに。
「魔王軍指揮官として……いや、恋人として命じる。俺以外の男に靡くことは許さない」
『……わかりました。そう命じられてしまえば、従わざるを得ませんね』
なんかものすごい独占欲の強い男みたいな発言をしてしまった。まぁ、セリスの声は嬉しそうだったからいいだろ。
さて、と……俺の怒りメーターによって使う魔法を決めようかと思ったんだけど、振り切っちゃったんだから仕方ないよね。
俺は全身から魔力をひねり出すと、丁寧に魔法陣を構築していく。
その数は九個。四重に組まれた魔法陣のうち四つは火属性、四つは地属性、そして、残りの一つは十八番の重力属性。その出来栄えに満足した俺は静かに魔法を詠唱する。
「……“天上からの開墾者”」
*
ゴゴゴ……。
自分達の周りに影が落ちたのも束の間、すさまじい音が辺りに響き渡る。キョロキョロと周りを見回しても、特に変わったことはない。音のする方向に気が付き、アイソン達が空を見上げたのはほとんど同時であった。
目に飛び込んできたのは巨大な岩。いや、巨大という言葉では生易しい。その規模は工場を丸々飲み込むほど。夕焼けに染まる空が、その熱によって空が焼き尽くされたかと錯覚するくらいに凄まじい炎を纏ってこちらに落下して来ている。
「は……?」
アイソンは現実を受け入れることができなかった。目で見たことしか信じられない研究者である自分が、目の前で起こっている事態を信じることができない。
だが、それはアイソンだけではなかった。同僚の研究者達も、地面に倒れ伏しているゼハード達もまた、夢でも見ているかのように口をぽかんとあけて、飛来する破壊の申し子をぽけーっと眺めている。
そんな者達をあざ笑うかのように、隕石にも似たそれは重力に従い、グングンと速度を上げながら地上へと迫っていた。
セリスはゆっくりと手を前にかざし、自分とメフィスト達を守るように魔法障壁を展開する。人間達を守る義理も、理由もない。動き方を忘れてしまったかのように、その場に立ち尽くすアイソン達を、セリスは黙って見つめていた。
そんな彼らの前に、小柄な影が勢いよく現れる。
背の高い三角帽に黒いローブを身に纏ったその人物は、工場と人間達の間に強固な魔法障壁を生み出した。
ボゴゴォォォォォォォン!!!!!!!!!
鼓膜が破れるかと思えるほどの破壊音。震える大地。立ち昇る砂ぼこり。二人の魔法障壁に工場だったものの破片が幾度となくぶつかり、砕け散っていった。
段々と良好になっていく視界。静まり返る場。
思考機能が完全に停止した彼らの目に飛び込んできたものは無。完全なる無の世界。
森の中で異彩を放っていた建物も、その中にあった大量の魔道具も、希少なアーティファクトもない。最初からなかったかのように奇麗さっぱり消し飛んだ。あるのは、深々と刻み込まれた破壊の後だけ。
「すげぇ……」
セリスの隣にいるロニがぽつりと呟いた。単純な感想ではあるが、この状況を最も的確に表現した言葉である。
「あっ……あっ……!!」
アイソンはその場に尻もちをついた。立っていることはおろか、話すことさえ出来ない。ただただ、悪夢を見た子供のようにブルブルと身体を震わせていた。
そんなアイソンの前に浮かび上がる転移魔法陣。そして、そこから現れる紺の仮面をつけた黒いコートを羽織った男。
「ごきげんよう、人間の諸君。突然で悪いんだが、魔族の領土内に怪しげな建物を見つけたため、魔王軍指揮官の名のもとに破壊させてもらった」
魔王軍指揮官。そのワードを聞いたアイソン達に戦慄が走る。目の前に立つ男は、あの勇者を殺した者。第一級の危険人物。
「……反応がないようならゴミ掃除を続けたいんだが、構わないか?」
クロが仮面の下から研究者達に鋭い視線を向ける。更に震えが強くなったアイソン達を庇う様に、先程の黒ローブの人物が前に立った。
「フェフェフェ……こりゃ、久々に面白い相手が現れたものじゃ」
「フ……フライヤ様……?」
ガチガチと歯を鳴らしながら、アイソンが何とか名前を呼ぶと、フライヤがちらりと冷たい目を向ける。
「お主ら、巻き込まれとうなかったら、さっさとこの場を離れる方がいいのう。まぁ、死にたいというのなら話は別じゃが?」
「ひっ……!!」
アイソンは情けない声をあげると、恥も外聞も捨てて、赤子のように四つん這いになりながら死に物狂いで森へと逃げていった。他の研究者達もつられる様にしてその後を追って行く。
そんな彼らを、クロは黙って眺めていた。追うこともせず、攻撃することもしない。ただただ、ゴミでも見るように無様に逃げていくその背中を、何も言わずに見つめ続けていた。





