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20.言葉は時に鋭利なナイフよりも鋭い刃となる


「に、人間達が俺達の所へ……!?」


 ロニの話を聞いたメフィスト達は皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。


 工場で衝撃の事実を聞いたロニは急いで自分達が住む洞窟へと走っていった。全身から汗を流し、息も絶え絶えで洞窟へと入ってきたロニを見て、他のメフィスト達は目を丸くしたのだが、息を整えたロニから人間が攻めてくる、という話を聞き、驚きは戸惑いへと変わったのであった。


「俺達は静かに暮らしているだけなのに……」


「一体どうすれば……」


「なんでこんなことに……」


 メフィスト達の表情は暗い。その中で一人、目を瞑って静かに考えを巡らせている者がいた。


「……ロニ」


 ゼハードはゆっくりと目を開けると、厳しい表情をロニに向ける。


「なぜそのような危険な場所に黙って行った?」


「そ、それは……!!」


「下手をすればお前は命を失っていたのかもしれないのだぞ?」


 研ぎ澄まされたナイフよりも鋭い視線から逃げるようにロニは顔をそむけた。


「お、俺もみんなの役に立ちたくて……!!」


「勇敢と無謀は違う。はき違えるな」


「ご、ごめんなさい……」


 ロニはがっくりと肩を落とし、視線を落とす。その目には少しだけ涙が溜まっていた。ロニが十二分に反省していることを見て取ったゼハードは、わずかに表情を緩める。


「だが、お前の無謀な行為によって、メフィストの全滅は免れた。感謝するぞ」


「ゼ、ゼハード!!」


 自分達のリーダーであるゼハードに認められた。そのことでロニの心に喜びが満ちていく。


 ゼハードはゆっくりと頷くと、他のメフィスト達に顔を向けた。


「小さな勇者がもたらした情報を我々は無駄にするわけにはいかない。あちらが攻めてこようとするのならば、こちらが先んじて攻め込むまでのこと」


「せ、攻める?人間の領土をか?」


「そうだ」


 迷いのない声でゼハードが告げると、メフィスト達は困惑した様に顔を見合わせる。彼らの種族であるメフィストは争いを好まない。いや、戦うことが苦手な種族なのだ。そんな彼らが戦いに行く、と言われても二つ返事で答えられるわけがなかった。


 そんな同胞達を見て、ゼハードの表情が険しいものとなる。


「みんな、忘れたのか?我らの村が襲われたときのことを」


 ゼハードの言葉に、この場にいる全員の身体がピクリと反応した。


「あの時、私の父は争うことをせず、耐え忍ぶことを選んだ。その結果があの惨劇だ」


 人間が攻めこんできたあの日、ゼハードの父である村長は戦うことをよしとしなかった。争いは何も生まない、こちらが手を出さない限り人間も非道な真似はできない、と。


「父の考えは物語の世界では称賛されるかもしれない美徳だが、現実は違う。我々は家族を失い、故郷を失った」


 無抵抗のメフィストを見ても人間達の手は緩まなかった。なんの感傷もなく、仲間達を次々と屠っていったのだ。


「私はこれをチャンスだ、と考えている。我々からすべてを奪った人間に復讐するチャンスだと!」


 ゼハードの言葉に熱がこもる。それに呼応するかのように、仲間たちの瞳に力が宿っていった。


「我々は人間などに屈しはしない!!私は戦う!!私は勝つ!!憎き人間達に目にモノを見せてやるつもりだ!!」


 ゼハードは仲間たちに背を向け、洞窟の出口を睨みつける。


「私の考えに賛同するものは共に行こう!!そして、メフィストの力を人間達に刻み込んでやるのだ!!」


 そう言うと、勇ましくゼハードは歩き出した。メフィスト達にもう迷いはない。互いに頷き合うと、一人、また一人とゼハードの後を追って行った。その中に、当然ロニの姿もある。


 全員の思いは同じ。もう二度とあの日の惨劇は繰り返さない。


 心が一つになった彼らはもはや強固な軍隊と化していた。倒すべき敵を目指して、一直線に進んでいく。


 そんな彼らの前に立ちはだかる者がいた。


 その姿を見たロニがハッと息をのむ。先頭を歩いていたゼハードは歩みを止めると、スッと目を細めた。


「我々に関わるな、と忠告しなかったか?」


「……人間さんたちの所に、みんなを行かせるわけにはいかないの」


 ひどく無機質な声で告げるゼハードを、アルカはまっすぐに見据える。


「行かせるわけにはいかない、というのはどういうことだ?」


「人間さんは危ないの。みんなが行けば、大変なことになっちゃう」


「ふっ……我々の心配をしているというのか」


 ゼハードはアルカの言葉を鼻で笑った。だが、アルカを見るその視線は変わらず鋭い。


「仲間にでもなったつもりか?」


「……アルカはみんなと同じメフィストなの。だから、みんながひどい目に合う所なんて見たくない」


「なるほどな」


 ゼハードはアルカから視線を切ると、後ろにいるロニに目を向けた。ロニは心配そうな顔でアルカを見つめている。


「……知っているか、ロニ?人間に村を襲われ、両親を失った可哀そうなメフィストの少女を魔王軍指揮官が養子にしたという話を」


「っ!?」


「…………え?」


 ロニがぽかんとした表情でゼハードの顔を見た。そんなロニの顔を見て、ゼハードは呆れたように首を左右に振る。


「やはり知らないか……アルカは話してはくれなかったんだな」


「は?だってアルカはチャーミルの街で暮らしてるんじゃ……」


 無意識にアルカの所へと足が動くロニ。こちらに向かってくるロニを直視することができないアルカは、唇を噛みしめながら顔を横へとむけた。


「う、嘘だよな……?お前が指揮官の養子だなんて……」


 信じられるわけがない。魔王軍指揮官は人間なのだ。自分の両親を殺した種族の養子になるなど、あっていいわけがない。


 縋るような思いでロニはアルカに近づく。


「……ごめんなさい」


 だが、その一言で希望は絶望へと様変わりした。


「……そういうことだ。友であるロニの事まで欺き続けた真の裏切り者なのだ」


「ち、違う!!アルカは裏切り者なんかじゃ……!!」


「そんな奴の言うことに耳を貸すものなど、この場に一人としていない」


「ア、アルカは……」


 それ以上の言葉が続かない。ゼハードは吐き捨てるように言うと、俯いているアルカの横を颯爽と通過していく。他のメフィスト達も、アルカに敵意の視線を向けながら、通り過ぎていった。


「ずっと俺のことを騙していたんだな」


「ロ、ロニ君……!!」


 いつものような親しげな雰囲気は一切ない。アルカが目を向けると、ロニは人間達に向ける目でこちらを見ていた。


「違うの!!騙すつもりなんて―――」


「俺はもうお前を仲間だとは思わない」


 アルカの声をかき消して告げられた言葉。それは死刑宣告よりもアルカに重くのしかかる。


 ロニは無表情でアルカから視線を外すと、先を行くゼハード達を追って行った。


 一人残されたアルカ。


 崩れるように膝をつき、目からは大粒の涙がこぼれる。仲間を救おうとしたのに、裏切り者の烙印を押された。


 どうすることもできない現実を前に、アルカは嗚咽をあげて、泣き続けることしかできなかった。


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