13.墓に向かって話しかけるのは人情
アルカには本当の両親がいない。クロとセリスの事を本当の両親のように慕ってはいるが、血の繋がりは一切ない。それもそのはず、クロは人間でアルカは悪魔族のメフィストなのだから。
アルカとクロが初めて出会った時、アルカが住んでいたメフィストの村は人間に襲われているところであった。人間に痛めつけられているところをクロに助けられ、アルカは命を繋ぐことができたが、他のメフィストは全滅。当然その中にはアルカの両親も含まれている。
クロと暮らし始めの頃は、両親を失った悲しみからクロに隠れて一人、涙で枕を濡らすこともあった。だが、それも次第になくなっていく。クロやセリス、他の魔族達とも仲を深めていくうちに段々と心の傷は癒えていった。
今は寂しさを感じることもない。血の繋がりなどなくても、二人は自分に溢れんばかりの愛情を注いでくれる。アルカもそんな二人が大好きだった。
そんなアルカだが、本当の両親を忘れてしまったわけではない。
朝の鍛錬のお陰で自衛の手段を得たアルカは、クロから自由に外出する許可をもらった。それからというもの、毎日のようにアルカはクロとセリスと三人で作ったメフィスト達の墓参りに行っているのだ。
今日もアルカは森で摘んだ花を片手に、仲間が眠る地に一人赴く。
*
アルカが転移してきたのは廃れたという言葉がお似合いな村。人間に壊滅させられてから誰も手を入れてないから当然といえば当然。そんな、ゴーストビレッジと化した村の中を、アルカは淀みない足取りで進んでいく。
真剣な表情で歩くアルカの前に現れたのは、土の小山の上に木でできた粗末な十字架が置いてある墓。アルカは静かに近づくと、十字架の下に置いてある花束の隣に自分が持ってきた花を置いた。
この花束はいつもアルカが来る前に置かれているもの。しかも、見るたびに花の種類が変わっているので、アルカの知らない他の誰かが、頻繁にここへ花束を持って来ているのは明白だった。
最初は戸惑っていたアルカであったが、今はもう気にしてはいない。自分と同じように故人を偲んでくれる人がいる、ただそれだけのことだった。
「……ママ、パパ。アルカは新しいパパとママのおかげで元気にしてるよ」
アルカが囁くような声で十字架に話しかける。返事など返ってくるわけもないのだが、それでもアルカは喋るのをやめない。ここに来たら話をするのがアルカの日課なのだ。
「本当は二人とも連れてきたいんだけど、なんだか恥ずかしくて……それにちょっと悪い気もしちゃってね」
アルカがクロに内緒で来ていたのはこの墓であった。自分の事を本当の子供のように愛してくれる二人を、前の両親の墓参りに付き合わせるのは、なんとなく申し訳ない気持ちになる。
「でも、二人とも本当に優しいんだ!他の魔族の人達もアルカの事を可愛がってくれるし……新しいお爺ちゃんも出来たんだよ!」
アルカの村はフレノール樹海の中でも外れの方にあった。ここに来る前は決まって、アルカはリーガルの屋敷に顔を出している。
「パパのお友達もみんないい人達ばかりでね!この前はライガ叔父さんの所で「手合わせ」っていうのをしてみたんだ!そしたら獣人さん達がアルカの事を『ちゃんぴおん』って褒めてくれたんだよ!『ちゃんぴおん』がなんなのかアルカはわからないけど……」
墓参りを終えると、アルカはいろんな街に転移して、その街の長に会いに行くようにしていた。今のトレンドは、最近仲良くなったばかりのライガの治めるゴアサバンナに赴いて汗を流す事。アルカは遊び感覚だが、ボコボコにされた獣人達はアルカの事を畏怖を込めてチャンピオンと呼んでいた。
「そういえば、パパ以外の人間さんがお城に来たんだよ!今日は何かのテストをするんだって……マリアお姉ちゃん、上手くいくといいなぁ」
本来であれば人間が魔王の城にいるなどあり得ない。だが、クロを追ってやって来たマリアは、今アルカ達が住んでいる小屋に泊まり込みで魔法陣の修行をしていた。
アルカが話しかけると、マリアは笑顔で答えてくれる。そんな優しいマリアがアルカは大好きだった。自分の村を滅ぼした人間と同じ種族だとしても、アルカにとっては関係ない。
「そんなわけでアルカは楽しく生きています!だから、ママとパパも安心して……」
ガサガサッ……。
背後で葉の擦れる音がする。アルカはゆっくりと振り返ると、音のした方に目を向けた。今のアルカは成すすべもなく人間にやられた頃のアルカではない。何が出て来てもすぐに対処できるよう、魔法陣を構築する準備を整える。
ガサガサッ……バッ!!
しかし、魔法陣が発動されることはなかった。
茂みから顔を出した少年を見て、アルカは大きく目を見開く。それは、茂みから現れた少年も同様であった。
「……ロニ……君……?」
アルカが震える声で名前を呼ぶ。その声を聞いて、少年はハッと息を呑んだ。
「まさか……アルカなのか!?」
朽ち果てた村での出会い。信じられないことに、それは死んだと思っていたメフィストの仲間との再会であった。





