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9.汗を流すのは気持ちいい


 上機嫌のままゴアサバンナにあるサバンナにやって来た俺は目当ての人物を探す。


 いやー、こんなに順調に仲を深められたのはボーウィッド以来じゃねぇか?他の奴らは何だかんだ仲良くなるのに時間がかかったし。特にバカ虎はマジで苦労した。


 ってか、そのバカ虎は街にいんのかな?むしろあいつの場合街にいる方がレアなのか。魔物狩りに行ってた時の事なんかまるで考えてなかった。


 キョロキョロとサバンナ内を見回していたら、訓練をする一団を発見。その前に偉そうな感じで立っているのはバカ虎に間違いない。


「あー、よかった。街にいたか」


「あぁ?……なんだクロか。って、そのふざけた仮面はなんだ?」


 訓練指揮の邪魔をされて不機嫌そうに振り返ったライガは、仮面を着けた俺を見て眉を顰めた。


「今は人間領のすぐ傍にいるからな。念のためだ」


「相変わらずよく分からん奴だ」


 俺の話をどうでもよさそうに聞き流すと、すぐに視線を走り込みをしている部隊の方に戻す。ぞんざいな扱いしてんじゃねぇよ。お前が聞いてきたんだろうが。


「流石に何度もお前のお遊びに付き合ってらんねぇぞ。つーか、誘うならもっと事前に声かけろ」


 事前に話をすれば遊びに付き合ってくれんのか。丸くなったもんだなー、バカ虎のくせに。


「今日はそういうんじゃねぇんだ。正当な依頼だよ」


「依頼?」


 ライガが怪訝そうな顔を俺に向けてきた。


「なんだよ?俺が依頼をするのはおかしいってのか?」


「まぁ、そうだな。お前がここに来る理由なんて酒か遊びくらいだっただろうが」


「確かに」


 俺、バカ虎に納得させられるの巻。くそが。


「今ジャイアンの、ってかギガントの視察をしてるんだけど、資材が足らなくてな。建築に必要な岩を死ぬほど集めて欲しいんだよ」


「なるほどな。そりゃ割とまともな依頼だ。資材調達は俺達の仕事だし」


「そういうこと。集めた岩はサバンナに置いといてくれれば俺が勝手に持っていくから」


「依頼となると報酬はどうなるんだ?お前が払うか?」


「国の公共事業だ。領収書には魔王様って書いておけ」


「わかった。せいぜいボラせてもらうとするか」


 ライガは話は終わりだ、とばかりに俺から視線を切ると、訓練している獣人達に目をやった。相変わらず訓練大好きっ子だな、お前ら。エルザ先輩と気が合いそうだよ。


「おう!マリアっ!!足が止まってるぞっ!!」


「は、はいっ!!」


 おー、マリアさんも訓練に参加しているのか。獣人達の身体能力は人間の比じゃないっていうのに、必死についていこうとしている。本当に努力家だなー、マリアさんは。そして、ジャージ姿のマリアさんもなかなか可愛らしくていいですな。


 さーて、マリアさんも頑張っているみたいだし、俺も見習わないとなー。


 …………って、おかしいだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!


 俺は慌ててライガにつかみかかる。


「おい!なんでマリアさんが訓練してるんだよ!?」


「あぁ!?身体を鍛えたいからに決まってんだろ?」


「そうじゃねぇぇぇぇぇ!!!」


 まるで違和感なかったわ!あまりにも溶け込んでたから、普通に見逃すところだったぞ!!


「なんでここで獣人達と一緒に訓練してるのかって聞いてんだよ!!」


「そんなの知らねぇよ。本人の希望だ」


「はぁ!?」


「突然セリスとやってきて、俺に頼み込んできたんだよ。まぁ、マリアは転移魔法が使えるから最近は一人でここに来ているが」


 ……マリアさんが原因かい。あの子は本当にアクティブすぎる。学園にいた頃はもう少しおっとりしていた気がするんだけど。


「おーい!マリアっ!指揮官様がお呼びだぞ!!」


「えっ?あ、クロ君!!今日はその素敵な仮面を着けているんだね!」


 ライガに呼ばれたマリアさんが汗をたらしながら、笑顔でこちらに走り寄ってきた。うん、仮面のこと褒めてくれてありがとう。とりあえず話を聞かせてください。


「えーっと……マリアさん。説明してくれる?」


「説明?」


「なんで獣人族の訓練に参加しているのかってこと」


 いや、言わなくてもわかるでしょうが。なんでそんな不思議そうな顔ができるの?どう考えてもマリアさんがここにいるのはおかしいっていうのに。


「なんだ、その事か!セリスさんと話して決めたんだよ!私は持久力がないから基礎体力から鍛えた方がいいって」


 ……立派な心掛けだなー。ところで、マリアさんって商人を目指しているんだよね?


「どっかの誰かさんとは違ってマリアは骨があるからな。鍛え甲斐があるってもんだ!」


 うるせぇよ、バカ虎。話に入ってくんじゃねぇ。つーか、マリアさんや。ライガに褒められて嬉しそうな顔しないでくれます?


「……商売の方は?」


「順調だよ!とは言っても、今は商談の内容が書かれた羊皮紙を持って、お父さんとマルクさんの間を行ったり来たりしてるだけなんだけどね。商品の移送もしてるけど……やっぱり、商談からなにまで一人で出来るようになりたいな」


「ってことは、空いた時間はここに来て身体を鍛えてるってわけね」


「そうだよ!」


 そんなに清々しい笑顔を向けないでください。マリアさんがゴリゴリマッチョになってしまったら、俺はブライトさんに顔向けできません。


「商売人は体力が命だってお父さんも言ってたし、今まであまりしたことがなかったから知らなかったけど、身体を動かすのって気持ちいいんだ!」


「そうですか……」


 これは手遅れですね。マリアさんが脳筋への道を歩み始めてしまった。


「……ほどほどにね」


「うん!じゃあ、私は走り込みの途中だから!」


 マリアさんは元気よく返事をすると、一目散に獣人達の集団に戻っていく。俺はそんなマリアさんの背中を顔を引き攣らせながら見送ることしかできなかった。


「無敵の指揮官も形無しだな、おい」


 俺達の会話を聞いていたライガがニヤニヤと意地の悪い笑みを向けてくる。


「うるせぇよ。マリアさんがあんなになっちまったのはお前のせいだぞ?」


「はんっ!元々素質があったってことだろ!」


 ライガは軽く鼻で笑うと、懸命に食らいついているマリアに目をやった。心なしか、その眼差しからは優しさを感じる。


「……意外だな」


「なにがだ?」


「お前は人間であるマリアさんの事を認めないと思っていたが」


「……俺は根性がある奴は嫌いじゃねぇ。敵地に単身で乗り込む命知らずなバカもな」


 そういやマリアさんはそんな無茶をやってのけたんだよな。そう考えると、単純馬鹿なこいつが気に入るのも当然と言えば当然だけど、以前のこいつなら人間ってだけで毛嫌いしていたはず。少しは視察の効果が出てるって思っていいのかな?


「あんまり無理させんなよ?」


「わかってる。過度なトレーニングは逆効果だからな」


 そういう意味じゃねぇんだけどな。まぁ、いいや。他の魔族と仲良くやっているなら、それに越したことはないだろ。


「じゃあ、仕事の方任せたぞ」


「あぁ、暇そうな奴らにやらしておく。適当なタイミングで取りに来い」


「りょーかい。近々、飲みに行くから予定空けとけよ」


「……わかったからさっさと行け。訓練の邪魔だ」


 ライガは面倒くさそうに返事をすると、うっとおし気に俺を手で払った。よーし、今できることはやったかな。早速戻ってギガントに報告するとするか。


 意気揚々と転移魔法を発動する。そんな俺の目に飛び込んできたのは、地面に倒れ伏したギガントの姿と、爆撃を受けたかのようにボコボコの地面。


「なんだ、これ?」


 脳を介さず出た言葉。砦まで戻ってきた俺は、何が起こっているのか全く理解できずにいた。

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