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6.問題がないことが問題

 さぁさぁ、やって来ました二度目のジャイアン。紆余曲折あったが、やっと視察ができそうだ。巨人族の街……一体どんな無理難題が待ち受けているのか!


「……私はジャイアンよりもブラックバーの方が気になりますが」


 隣にいる美人秘書の表情は浮かない。あー、アベルの事?大丈夫だろ?ちゃんとボーウィッドには事情を説明来たわけだし、暴れたところで問題なし。魔法が使えないからただの下僕……労働力だよ。


「まー、セリスの言いたい事もわかるけどな。だったらあのまま見殺しにした方が良かったか?」


「それは……夢見が悪くなりそうなので勘弁願いたいですね」


 うんうん、やっぱりセリスは基本的に優しいな。酷い事をされた相手とはいえ、殺されるところは放って置けないんだよな。アベルが襲われている時に幻惑魔法を使ったのも、俺の指示じゃなくてセリスの独断だし。


「あのバカがやった事は世間一般じゃ普通の事だからな。人間の勇者として魔族の街を攻めただけっていう」


「……確かに。そう言われるとそうですね」


 セリスが俺の言葉に納得したように頷いた。


 性格がクソだけどアベルの行いは、むしろ人間界だったら賞賛を浴びる行為だよな。性格はクソだけど、ほとんど単身で敵の地に殴り込みを仕掛けたんだから。誉められることがあっても、貶される事はない。性格はクソだけど。


 そんなアベルを国が殺そうとしたなんて俄に信じられなかったな。やっぱり人間ってのは解せない相手だよ。アベルでそうなんだから、魔族に寝返った俺なんか確実に抹殺されるな。まじで正体がバレないように注意しないと。……既に色々と手遅れなような気がしないでもないが。


「またブラックバーには様子を見に行けばいいだろ。真面目に仕事をしてなかったら、俺が城門の前に送り返してやるよ」


「そうですね。あまり気に病んでも、何も変わりませんしね」


「そうそう、そういう事。つーわけで、ジャイアンについて教えてくんね?」


 俺は自分を取り囲む巨大な建造物を見渡しながら尋ねた。なんかこの街にいると自分が小さくなった錯覚に陥るんだよ。


「ジャイアンですか?特に説明する事はないと思いますが……巨人族の方達の街です。彼等の身体に合わせているため、私達のと比べてひと回りもふた回りも建物が大きく作られています」


「まぁ、それは見ればわかるわな。巨人族が俺に対してフレンドリーなのはなんでだ?」


 手を振って来た巨人族の子供に手を振り返しながら、俺はセリスの方に目を向ける。


「元々、巨人族は人間に悪感情を持っていません。と、言うよりも大体の巨人族は悪感情を持つということがほとんどありません。彼等は温厚な種族なのでよほどの事がなければ、激昂する事はありません。初対面の時、ギガントはクロ様に普段と変わらない態度で接してましたよね?」


「あー、そういやそうだったな」


 フェルに無理矢理連れてこられた初めての魔族会議の時、殆どの魔族達が俺に対して負の感情を向けている中で、ギガントは優しく挨拶してくれた。


「セリスはめちゃくちゃ怖かったけどな」


「……その時のことはあまり覚えておりません」


 僅かに頬を赤くしながら、セリスは俺から顔を背ける。俺は絶対に忘れんぞ。まじでビビってたんだからな。


 いやー、それにしてもやっぱりセリスがいるといいな。最初にここに来た時は一人だったけど、なんとなくきつかった。知らない土地に一人ってのもあるけど、隣にセリスがいないってのが一番堪えた。もうあの時からセリスに依存してたんだな。なんか悔しいから素直に認めたくないけど。


「そろそろギガントの屋敷だな。……って、あれ?」


 一際大きい屋敷の前で、巨人族の男と誰かが話をしている。一人はギガントだ。相変わらずでかいな。あいつは絶対に俺の小屋には入れない。玄関をくぐろうとした瞬間、あのボロ小屋は燃えるゴミへと早変わりするだろ。


 問題はギガントの話相手だ。見慣れた、いや見飽きたイケメンがニコニコ笑っていやがる。


「なんでフェルがいるんだよ……」


「あー!クロとセリスじゃーん!こんな所にいるってことは視察に来たのかな?」


 愛嬌たっぷりの顔を向けているが、俺は顔をしかめたまま。セリスは頭を下げて挨拶したが、顔は困惑しているようだった。


「おー、セリスと指揮官様じゃねぇか。久し振りだなー」


「おう、久し振りだな」


「ご無沙汰しております」


「……なんか僕と反応違くない?」


 ギガントに対して愛想よく応対する俺を見て、フェルが唇を尖らせる。当たり前だろ。ギガントは無害、お前は有害物質。少量で致死量に至る猛毒だ。できれば関わりたくない。


「はぁ……まぁ、クロが失礼なのはいつもの事だからもう気にしてないよ」


「そうだ、諦めろ。で?なんでお前はジャイアンにいるんだよ?」


「視察に来たんならクロにも言っておかないといけないね。僕はギガントに仕事を頼みに来たんだよ」


「仕事?」


 確か巨人族は建築業が生業だったな?つーことは何か建物建ててもらうってことか?


「そうだよ!二人はアラモ街道って知ってる?」


 俺はちらりとセリスの方に目を向けた。人間の俺は当然知ってるけど、魔族のセリスはどうかなって思ったが、その表情を見る限り問題なさそうだ。


「アラモ街道は人間界と魔族領を結ぶ唯一整備された道ですよね?尤も、人間達はチャーミルの事を欲望の街・ディシールだと認識していましたから、整備した人達は魔族領との架け橋とは知らずにいたと思いますけどね」


「そうだな。知ってたら呑気に工事なんかできなかっただろうし」


 大分大掛かりな工事だったみたいだしな。なんでも、貴族達もかなり出資していたらしい。どんだけディシールに行きやすくしたかったんだよ。欲望の街にどっぷりのめり込んでんじゃねぇか。


「二人が知ってるか分からないけど、アラモ街道はかなり拓かれていて、道路に沿って広大な平原が広がっているんだ」


「あぁ、見たことはねぇが話には聞いてる。間違ってもその道を通る人が魔物に襲われないように、邪魔な物を一切合切排除したんだろ?」


「そうそう!」


 なんでも、魔物も出なくて見晴らしもいいからピクニックに最適らしい。今は近くが魔族の街だって知られたから、そんな所に来る骨太な家族はいないだろうけど。


「そのアラモ街道の魔族領寄りの所に砦を建てたいんだ!」


「砦……ですか?」


「うん!正直、あそこまで拓けてると、兵士を集められたら厄介だからね。その牽制も兼ねて立派な砦をギガントに依頼してたんだ!」


「んだ。魔王様にお願いされたら断るわけにはいかねぇべ」


 予想外にまともな話だった。人間が住む所から魔族領に行くにはアラモ街道を使うか、馬鹿広いフレノール樹海を通って行くしかない。そのアラモ街道に魔族の砦が建てば、おいそれと人間は攻めてこれなくなる。


 ただ一つ問題が……。


「そうなってくると、街の視察ができなくなるんだが?」


 せっかくチャーミルの復興が終わって街に帰ってきたところを狙って来たのに、また出張だなんて、そんなんじゃいつまでたってもジャイアンの視察なんてできない。


「ジャイアンの街の視察はいいよ」


「は?」


「ここは問題なんて起こりようがないから」


 フェルが涼しい顔であっさりと告げてくる。いやいやいや……いきなり何を言い出しやがった、このショタ顔は。


「街を治めてれば問題の一つや二つ、出てくるだろ?なぁ、ギガント。なんか困ってることはないのか?」


「困ってることだか?……うーん…………」


 ギガントが腕を組みながら難しい顔をした。あれ?なんか既視感。このやり取り、前にもやった気がする。


「それよりも砦の建築を手伝ってくれた方が嬉しいよね?」


「おぉ!それは助かるべぇ!」


 フェルの言葉に、ギガントは笑顔を見せながら手槌を打った。まじかよ。


「クロ様。今回ばかりはルシフェル様の言う通りにした方がいいかもしれません。あなたと違って巨人族はトラブルを起こす種族ではありません。なので、視察をしても本当にただの職場見学に成り果てる可能性が高いです」


 むっ……セリスまでそう言うか。確かに、俺自身巨人族の何を見て回ればいいのか迷ってた節があるからなぁ。なんの意味もない視察よりも仕事の手伝いをした方が建設的か?つーか、俺とは違ってってどういうことだこら。


「それに砦建設はクロにとってもプラスに働くよ!結果的に人間領に一番近いチャーミルの安全性が高まるんだから、よく遊びに来るアルカの安全も」


「よし、すぐに取り掛かろう」


 この世界はアルカを中心に回っている。これ即ち、アルカのためになることであれば全てに優先される事項となるということ。それがこの世の理。


 食い気味で答えた俺を見ながらフェルは満足したようにうんうん、と頷く。


「クロがやる気になってくれてよかったよ!これなら砦も早く完成しそうだ!」


 当然だ。アルカの安全を確保すべく迅速に事を進めるつもりだからな。


「じゃあ、ギガント!後は頼んだよ!立派な砦を期待しているから!」


「任せてくだせぇ、魔王様。指揮官様と一緒に頑張るんだぁ」


 ギガントがニカッと白い歯を見せてフェルに笑いかける。ほんまにギガントはええ子やなぁ。


「あ、そうそう」


 転移魔法を組成していたフェルが何かを思い出したように俺へと顔を向ける。


「アラモ街道にはこの前の事件のせいで人間達の監視塔が建てられちゃったんだ。なんでも、最近そこにランクSの冒険者が顔を出すみたいだから気をつけてね」


「へ?」


「じゃっ、そういう事で」


 フェルは晴れやかな笑みを浮かべながら、この場から姿を消した。あの野郎、最後に爆弾を投下していきやがった。


 ランクS冒険者って言ったら人間の中でもずば抜けた力を持っている奴だぞ?城で会ったアニスのおっさんも、妙な格好はしていたが、魔法陣の組成は中々なもんだった。そんな奴が監視塔にいて、俺達が砦を建設しているところを見たら、間違いなく面倒臭いことになる。


「……厄介なことになりそうですね」


 セリスは考え込むように口元に手を添えながら眉をひそめる。俺は胸の中に溜まったモヤモヤを身体から絞り出すように、大きくため息を吐いた。


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