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俺のカラダを返せ!  作者: 道化師ピエロ
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第16話 黒髪の剣士②

 昼間の時間帯は宿屋の泊まり客も全員出立して、次の泊まり客のための準備をする。アリアも少しずつ仕事を覚えて、マギーも随分楽になった。

 カウンター席に座るエイジに、マギーは昼食をサービスしていた。普段はそんなサービスはやっていないのだが、アリアのために少しでも長くエイジを引き止めておきたかった。


「もう随分、貯まってるよ」


 エイジは人外の本体を売った金をアリアのために使ってくれと、度々マギーに渡していた。人外を討ち取るということは、命の危険に晒される。それだけ報酬も高額なのだが、それが度々となると家を一軒建てられるほどの金額になっていた、


「使い道は女将さんに任せるよ。別にアリアのためだけに使わなくてもいいんだ。この宿が豊かになれば、結果的にはアリアのためになるからな」

「アリアの両親が殺される前に人外を仕留められなかったからって、黒髪の剣士さんが責任を感じることじゃないよ。この国じゃ、よくあることだからね」

「俺は金が欲しくて人外を狩ってるんじゃないんだ。いずれ、この世界から居なくなる人間だからな。アリアのために何かを残して行きたいんだよ」

「なんだい、辛気臭い話しだねえ」

「女将さんだって、気付いてるだろう。俺が、この世界の人間じゃないって」

「そりゃあ、見たこともない武器を使って一撃で人外を仕留めるなんて、人間業じゃないからねえ。でも、アリアには言わないでおくれよ。あの子は、黒髪の剣士さんを慕ってるからね」


 そんな話しをしていると、二階で部屋を片付けていたアリアが階段を下りてきた。エイジに気付くと、満面の笑みを浮かべて駆け寄って来る。

 アリアは長い髪をリボンでまとめて、ヒラヒラとしたスカートの可愛らしい洋服を着ている。その姿を見れば、マギーに可愛がられていることはすぐに分かる。エイジに渡されたお金で買った物だが、洋服を選ぶという作業は愛情がなければ出来ないことだ。


「エイジさん、来てるなら声を掛けてくださいよ」

「その服、似合ってるよ。もう、すっかり宿屋の娘だな」

「そ、そうですか?」


 顔を赤らめているアリアにも、マギーは昼食を出した。カウンターで肩を並べる二人を見ていると親子ほど歳が離れているように感じるが、実際にはそこまでの差はない。同じ年頃のエルフと比べてもアリアは小さい方だから、余計に幼く見えてしまうのだ。


「嫁に行くまで、女将さんにしっかり面倒を見てもらえよ」

「アリアはうちの看板娘だから、どこへも嫁にはやらないよ。結婚するんだったら、婿養子を貰わないとね」

「そ、そんな、結婚だなんて…」


 結婚の話しをされて思わずエイジの顔を見てしまい、真っ赤になって恥ずかしがるアリアだった。それに対してエイジは冷静だ。自分がこの世界へ来ることが出来る間に、アリアの嫁入り姿を見るようなことはないだろう。そんな気持ちだった。


 昼食を食べ終わる頃に、表で馬車が止まる音がした。そのこと自体は誰も気にしていなかったのだが、やがて軍人らしい服装の男が宿屋の中へ入って来た。


「こちらに、黒髪の剣士殿は居られるか?」


 見れば分かることなのに、わざわざ聞くところが軍人らしい。


「俺に何か用かな?」

「貴殿に直接、依頼したい仕事がある。詳しい話しをしたいので、王宮へご足労願えないだろうか」


 王宮と聞いて、マギーは息を飲んだ。国王が直接エイジに仕事を依頼したいということだ。そのことはエイジにも分かってはいるが、この世界の人間ではないから、どこか他人事のような気がして緊張感がない。そしてアリアだけは、事情が分からずにキョトンとしている。


「わざわざ迎えに来てくれたんだから、お付き合いしましょうか」

「申し訳ない。助かる」


 エイジが軍人と一緒に宿屋を出て行くと、馬車が遠ざかって行く音が聞こえる。

 何事が起きたのかと、マギーはずっと緊張しっ放しだった。それが、軍人が出て行ったことでホッと溜め息をつく。そのままアリアの方に目をやると、せっかくエイジが落ち着いて話しをしてくれていたのに、不粋な軍人に不満な様子だった。



 エイジは小銃を常に携帯しているので、キャリッジタイプの馬車では、いささか邪魔だった。それでも決して、体から離そうとはしない。暴発でもしたら、とんでもないことになってしまうからだ。

 馬車の中で軍人と二人きりになると、襟に付いている階級章が目に入った。階級の名称は国によって違うのだが、エイジがよく知る階級に例えると一等陸佐だろうか。結構、偉い人物だ。

 先程までの堅苦しい態度とは打って変わって、一般人と変わらない口調で話し掛けて来る。


「申し遅れました、レクターと申します。個人的な話しですが、私は孤児院の出身なんです。少しでも子供達の助けになればと思って軍人になったのですが、黒髪の剣士殿が多額の寄付をされていると聞きました。お陰で孤児院も豊かになり、子供達の生活環境が良くなっているようです」

「人外に両親を殺された子供達だろう。子供達のために使うべき金を渡しただけだよ」

「敬服いたします」


 マギーの宿屋は王都にあるので、馬車で移動するのは大仰だ。景色を楽しむこともなく、すぐに馬車は王宮へ到着した。

 馬車を降りると、そのままレクターに案内されて王宮の中を進んで行く。王宮の中央に位置する広い空間が、国王に謁見するための部屋だ。


 謁見の間でエイジは、国王と相対していた。向かい合ってはいるが、その距離はかなり離れている。一介の賞金稼ぎが国王と謁見するだけでも異例なことだ。身の安全を考えれば、仕方のないことだろう。その両側には、近衛兵が立っている。

 国王に対しては膝を折って挨拶をするのが礼儀だが、この国の国民ではないエイジには、そんな義理はない。それも、一方的に呼び付けられたのだから、挨拶をしなければならないのは国王の方だ。ただ、喧嘩を売るつもりもないので、エイジは普通に頭を下げた。


「まずは、こちらの都合で呼び立てた無礼を詫びたい」

「いえ、陛下にお目に掛かれて光栄です」

「賞金稼ぎとは言え、数多くの人外を討ち取ったことは、誠に大義である」

「お誉めに預かり光栄です」

「そこで貴殿に頼みたいことがある」


 国王がそう言うと、レクターや近衛兵とは別の兵士が簡単な地図を持って来てエイジに渡した。


「この国が度々、人外の被害に遭っていることは承知しておられるだろう。その地図で示す国境付近の渓谷に、人外の巣があることが分かったので討伐隊を出す計画なのだ。その際には、黒髪の剣士殿に隊を率いてもらいたい」

「お言葉ですが、人外は他の生物に寄生して宿主を変貌させます。こんな渓谷に集団で居るのは、猿の群れに寄生した人外でしょう。宿主が獣で知性に乏しい人外に対して討伐隊を出せば、より知性のある人外がそれを敵対行為だと見なして、こちらへ攻め込んで来るかもしれません。人間に寄生して王都へ侵入されたら、こちら側に甚大な被害が出ます」

「それでは国民が納得しないのだよ。家族を殺された者にとって、人外は憎き敵でしかないからな。国は人外を根絶やしにする意志があることを示さねばならない」

「残念ですが、お引き受けできません」


 国王は大きな溜め息をついた。そして、少し考えた後に話しを続ける。


「エルフの少女を、随分と気に掛けておられるようだな。アリアという名前だったか。討伐が上手く行かなければ、その少女の身の安全も保証し兼ねるが」


 エイジは素早く拳銃を抜いて、銃口を国王へ向けた。いくら異世界から来た人間でも、国王に歯向かうのが、どれ程のことであるか分からないエイジではない。それでも、アリアに何かあれば、黙ってはいられない。しかし、その行動の意味が分かるのはエイジだけで、近衛兵は動かなかった。


「この距離でも私は、陛下を一撃で仕留めることが出来ます。アリアに手出しをするおつもりなら、それなりに覚悟をして頂きたい」


 その言葉を聞いてようやく意味が分かった近衛兵は、剣に手を掛ける。だが、国王が手でそれを静止した。


「卑怯者だと罵ってくれて構わんよ。それでも私は、国民を守らねばならんのだ。多くを救うためには、犠牲者もやむをえぬ時がある。私が間違っているのなら、貴殿に仕留められても後悔はせんよ」


 そのまま暫く、沈黙が続いた。エイジは銃口を向けたまま、じっと国王を見詰める。その一点の曇りもない瞳に、是非はともかくとして強い意思を感じた。


「いいでしょう。お引き受けします」


 そう言うと、拳銃を腰のホルスターへ戻した。


「ただし、人選は私に任せて頂きたい。それから、討伐へ参加した者への高額の報酬もお願いする」

「良かろう。貴殿の条件は全て飲もう」

「それでは現在、分かっている情報を聞かせてもらいましょうか」


 先程、地図を持って来た兵士が再びやって来て、


「こちらへ」


 と案内する。エイジは国王に頭を下げて、謁見の間を出て行った。



 作戦会議室とは言い難い狭くて殺風景な部屋で、エイジと案内してくれた兵士、それに馬車で同行して来たレクターが集まっていた。

 極めて人数が少ないのは、エイジが人選を任せてほしいと言ったせいもあるだろう。まだ、討伐隊に参加するかどうかも分からない兵士に、情報を漏らす訳には行かない。そのために、あまり使われていない部屋で会議をすることになってしまったのだ。


「人外の巣で確認されている個体数は、二十体ほどです。黒髪の剣士殿が、今迄に討ち取った数にも満たない数です」

「人外は人間に寄生すると、宿主の知能をある程度は吸収する。そんな獣に寄生している奴らは、大した知能もないだろう。問題なのは、それ以外の人外だ。奴らだって生き物だから、種の保存は本能だろう。人間が自分達を根絶やしにしようとしていると知ったら、必ず王都に侵入して来る筈だ」


 状況を説明してくれたのは兵士の方だが、エイジはレクターの方を見て意見を求める。士官クラスだから権限があるし、話しが分かる男だと思っていた。


「しかし、国王としてはやらざるを得ないので、従うしかありません。人外の侵攻に備えて、第二次の戦闘準備が必要かと思われます」

「俺の武器は、無制限に人外を討ち取れる訳じゃない。今回は何とかなるが、次はないと思ってくれ。それが、どういうことなのか察してほしい。今回の討伐で無事に帰還できたら、君等も身の振り方を考えた方がいいだろう。特にそちらの軍人さん」


 そう言ってエイジは、レクターの方を見る。


「孤児院の子供達を守ってやってほしい」

「承知した」

「このことは、くれぐれも内密に頼む。俺はこの国の人間じゃないから、汚名を着せられてもどうということはないが、国王はそうも行かないだろう。いいか、誰かが責任を取らなければならない状況になるということだ」


 事の重大さに、狭い部屋は静まり返った。内密に頼むとは言ったが、誰かに話したところでエイジが困る話しではない。困るのは、この国の人間、この世界の人間だ。決してエイジが、軍人達を信頼しての言葉ではなかった。


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