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獣人メイちゃん、ストーカーです!  作者: 小林晴幸
2.羊娘からの試練
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11.童心にかえる2人



 火竜将さんとセムレイヤ様に教えられた、未来の可能性。

 私がリューク様の相手時限定で無敵状態が世界の仕様と化すかもしれない、とかなんとか。

 え、それ私、どんな状況?

 リューク様が私に絶対勝てなくなるとか、そんな法則ができてどうなるの。

 め、め、め? 未来に変な影響とか……めえ?

 頭がものすごく混乱したので、深くは考えないことにした。

 ただ今後は、リューク様を物理の力で倒すのは控えようと思います。

 うん、今までだって、望んで捻じ伏せてきたわけじゃないんだけどね!

 不可抗力! 不可抗力ですよ、メイちゃん!


『ええと、メイファリナ? 大丈夫ですか?』

『精神状態が大分怪しいことになりつつあるような……』

「うん、それ火竜将さんが持ってきたネタのせいだけどね!?」


 なんかちょっとショックが大きすぎて……

 何も考えたくないような、むしろ一人で深く考え込みたいような。

 頭を抱えてめぇめぇ唸っていると、私のことはそっとしておこうって思ったのか。

 私そっちのけで、セムレイヤ様と火竜将さんが会話を始めた。

 

『セムレイヤ様……遅く、なりましたが。若君様の無事の御誕生、おめでとうござります。岩と化しておったからとはいえ、真っ先にお祝いを申し上げられなかったこと、申し訳ありませぬ』

『ありがとう、と受け取るべきなのでしょうね。イアルゲート、貴方は本当に真面目ですね。既に同胞のほとんどは姿を消した。このような状況で、祝いに来るも来ないも……』

『いえ、前の世界(・・・・)より主君と仰ぎ、付き従い、お仕えしてきた身なれば。主に何かあればいち早く駆け付け、喜びも苦しみも共にするのが我らが務め。それを果たせず、我が身を恥じ入るばかりで』

『思いつめるのはおよしなさい。死の間際にいたのです。貴方が眠っていたのも致し方ないこと』


 ……め?

 うん? 今何か、ちょっぴり重要そうなことぽろっと言わなかった?


「はい! セムレイヤ様(せんせー)!」

『どうしました、メイファリナ』

「前の世界から、ってどういう意味?」


 わからないこと、気になることは聞くのがいちばんだよね!

 幸い、セムレイヤ様は質問したらちゃんと教えてくれるし。

 ぴしっと挙手して尋ねた私に、セムレイヤ様はちょっと考えて、こう言った。


『そういえば、地上には伝わっていませんでしたね。……メイファリナ、私達竜はですね?』

「うん?」

『貴女にもわかりやすいよう、平たく言えば……私達、竜はこの世界にとって 外 来 種 なのですよ』

「めぇ!?」

 

 え、外来種?

 それってつまり……


「セムレイヤ様たちって、ミシシッピアカミミガメと同じってこと!?」


 ……めぅ。

 他に、良い例えはいくらでもあった筈なのに。

 もうちょっと印象の良いイキモノとか、いたと思うんだけど。

 咄嗟に私の頭に浮かんだのは、ミシシッピアカミミガメ。

 日本の侵略的外来種の1つにも数えられる、ミシシッピアカミミガメだった。

 他にもっと、こう、アライグマとかマングースとか……どっちにしても、問題視されてる生物だった。

 というかセムレイヤ様が外来種なら、在来種って……


『私達は神としての性質を持ちながら獣でもある。神なので強靭で中々死なない上、獣としての生態で家族を作り増える。結果、どうなるかわかりますか?』

 

 うん? えーと、やたら強いイキモノが、中々死なない上にどんどん増えていく?


「食物連鎖が崩壊するね」

『食物連鎖、に限りませんが……種が増えて色々なものが飽和するのは確かです。なので、私達の種は数が世界の規模に対して増えすぎると、若い世代を中心に一定数が次の新天地(せかい)へと旅立つようになりました。私達もまた、そうして世界を渡ってきたのです』

『最も強き個体であったセムレイヤ様を長として、時空を渡る力を持つ奥方様のお力によって、我らは世界を渡ってきた。我らを率いるお二方こそが、我らこの世界の竜の主である』

「へー……でも、この世界にも先住民っていうか在来種がいたんじゃないの? 具体的に言うと、竜以外の神様がいたよね? ノア様を筆頭に」

『ええ、メイファリナの言う通りです』


 つまりアライグマがセムレイヤ様達で、タヌキがノア様達ってことだね!

 何となくかわいいイキモノで例えてみたけど、駄目だ。

 野良アライグマは気性が荒い上に中々ギャングなイキモノらしいから凶悪さが増したかもしれない!


『外来種といっても、私達はこの世界の創世記からいるのですが。私達に対して在来種にあたる神々が、ノア様を筆頭とした神々ですね。私達がこの世界に渡ってきた当初は少々小競り合いなども発生しましたが、最終的には和解に至り、共に手を携えて世界を今の形に整えたのです』

「ノア様達が在来種……めぇ。め? 結果的に外来種が在来種滅ぼしてない?」

『『……』』


 神様は時間が経てば復活するっていうけど、ノア様についた神様の多くは魔物に堕とされている訳だし。ノア様は封印されているし。

 外来種が在来種を駆逐してない? ねえ?


『悲しい意見の対立でした……』


 ……でもセムレイヤ様が武力で制圧してくれなかったら地上滅んでたんだったね!

 うん、もうメイちゃんは何も言わない!


 

 外来種が在来種を根こそぎ追いやってしまった……というかそもそも在来・外来含めて神様って種で生き残ったのがセムレイヤ様だけっていう悲しい現状な訳だけど。

 在来種だろうと外来種だろうと、私のリューク様へのストーカー魂は変わらないよ!

 例えアライグマだろうとミシシッピアカミミガメだろうと、リューク様なら、リューク様なら……!

 脳内に、アライグマとミシシッピアカミミガメの融合したクリーチャーな着ぐるみを着たリューク様が想像された。違う、そうじゃないよメイちゃん!

 私が懊悩していると、そんな私を残念そうな目で見ていた火竜将さんが、突如ピリッとした空気を発して顔を上げた。


『……小娘!』

「メイファリナです! なんならメイちゃんでも!」

『今は名前などどうでも良い! それよりも小娘、不穏な空気を察知した……若君様の身に、危険がせm「ちょっと起きて現実の様子を見てくるね! セムレイヤ様、火竜将さん、また明日ー!」

『話が早すぎるだろう、小娘!?』

『はい、メイファリナまた明日。リュークのことをお願いします』


 外来種云々よりもずっと聞き捨てならないことを、火竜将さんが言ったから。

 私は早々に夢の世界を切り上げて、現実に目を覚ますことにした。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 むくり。

 それは草木も眠る丑三つ時。

 明かりの絶えた室内で、ゆっくりと音を立てずに起き上がる者がいる。

 頭の上で、ふるっと獣の形をした耳が揺れる。

 息の音すら潜ませて、ゆっくりと窓から部屋の外へと忍び出る。

 そーっと、そーっと……抜き足差し足千d……忍び足。

 室内の様子に気を配ると、寝息に合わせて師匠の体がゆっくりと動いている。

 どうやら、ちゃんと眠っているらしい。

 目視での確認だったが、師匠の眠りを確信して詰めていた息を吐きだした。


「どうやら、気取られずに抜け出せたみたいだね」

「ああ。ヴェニ君もぐっすり眠ってるみたいだぜ。よもや一度寝入ってから、深夜に行動を開始するとはヴェニ君も思わなかったようだな」

「偉そうに胸を張るのは結構だけど、声量気をつけてよスペード。起きて気付かれたら元も子もない」

「あ、悪い」


 ミヒャルトとスペード。

 ヴェニ君に沈められるか否かを迫られる形で就寝したはずの二人が、そこにいた。

 一旦眠ってみせることでヴェニ君の油断を誘い、寝静まった頃合いを見計らって彼らは動き出した。

 その手に、そして胸に強い目的意思を持って。

 

「邪魔で仕方ない。だけどこの終末の世界で、『再生の使徒』を排除する訳にもいかない……だったら、アイツの使命達成には支障のない範囲で沈んでもらうしかないよね」


 ミヒャルトは、悪どい顔をしていた。

 うっとりとするほど麗しい、悪人の笑みだった。


「ミヒャルト、てめぇ超イキイキしてんな」

「ふふ。スペード、君だって嫌いじゃないだろ。悪戯好きは子供の頃と変わらず、ね」

「お前のはもう悪戯って可愛さで済ませて良いもんか判断に悩むけどな!」

今回(・・)のは悪戯、だよ。可愛いものじゃないか。能力に支障が出ないよう……この程度で済ませてやろうっていうんだから」


 そう言って、ミヒャルトはすちゃっと手のひらに握った短い棒を掲げた。

 スペードも同じく、指の間に同様のデザインで作られた棒を挟んで掲げて見せる。


「独創性と、芸術性が試されるね。ふふ、個性的なお顔にしてやろう」

「とりあえず俺、額と瞼に目ぇ描くわ」

「僕は反社会的、冒涜的な……公序良俗にギリギリの挑戦をしてみようかな」


 二人の青年が、掲げたもの。

 ミヒャルトの黒、スペードの赤青黄色。

 どこかで見たようなデザインの、色とりどりのそれは……メイちゃんの前世の世界であれば、こう称されたことだろう。

 

 油性マジック(太字)と。


 例によって例の如く、メイちゃんの知識をアイデアとして、ロキシーちゃんによって商品化されたブツのひとつである。書きやすく、色合い鮮明、そして長持ち。アメジスト・セージ商会でも売れ筋商品に数えられる文房具であった。

 ただし、中身は油性マジックのインクより凶悪だ。

 何しろ消すことを想定していない。

 中身のインクは、ミヒャルトとウィリーの共同研究によって開発された。

 それすなわち元セージ組の共通認識として、効果は折り紙付きだが洒落で済ますには手強い代物であることが確定的なブツだということで。

 中に詰められた製法不世出の『顔料』は、人体に付着すると三か月から一年は色が残り続けるという……一度失敗したら、取り返しのつかない文房具としても有名だった。


 そんな、取り返しのつかない『文房具』を手に、月下でニヤリと笑うふたり。

 童心を思い出すね、なんて言っているが、そんな可わi……

 ……そういえばこいつら、子供の頃からこうでしたね。

 子供の悪戯で済ませられる年齢をとうに脱しているというのに、青年達は。

 隣室に忍び込んで、落書きという子供に定番の悪戯を実行しようとしていた。

 恋の障害になる(かもしれない)、某『再生の使徒』様に。


「二目と見れないツラにしてやるぜ。腹筋の崩壊的な意味で」

「ふふふ……メイちゃんの前に出られない顔にしてあげようね」


 リューク様(の顔)が、危ない。

 




ミヒャルトとスペードの絵心

 ミヒャルト:記憶力が良いせいか写実性の高い絵を描く

 スペード:ある意味画伯

 10段階評価で表すならミヒャルトが7~9、スペードが2くらい。

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