悩む先生~お魚さんたちの小学校~
ここはお魚さんとその友だちが通う、水の小学校。みんな仲良し。海水・淡水の区別は許しません!
職員室。
「どうかしましたか? タコ先生。難しい顔をなさって」
「カエル先生。いや~、実は困った問題を抱えていましてね」
「ほほぅ。何でしょう?」
「何度注意しても、授業で課題を提出しない子たちが居るのです」
「それは、良くないですな」
「ええ。イカくん、クラゲちゃん、サンショウウオくんたちは、キチンと提出してくれるんですが……タイくん、ヒラメくん、ハマグリちゃんたちは、私の言うことを聞いてくれないのです」
「あの真面目なタイくんたちが……いったい、何の授業なんです?」
「習字です」
「…………」
「習字です」
「あの……それは……タイくんたちには手が無いので、文字を書けないだけなのでは?」
「…………おお! これは、盲点でした。私には触手がいっぱいあるので、生徒たちの境遇に気付いてやれませんでした。教師として、恥ずかしい限りです。しかし、カエル先生は良くお分かりになりましたね」
「経験です。自分もオタマジャクシだった頃には、手も足もありませんでしたから」
「なるほど」
「…………」
「…………そうだ! タイくんやヒラメくんには、習字をする代わりに、魚拓を提出してもらうようにすれば……」
「イヤイヤイヤ! 生徒に、そこまでデンジャラスなチャレンジを強要してはいけませんよ! タコ先生」
「そうですか」
「そうです」
「…………」
「…………」
「むむむ……それでは、習字の授業は中止するしかありませんね……」
「残念そうですな、タコ先生」
「はい。イカくんたちは……私への尊敬と愛情の思いを込めてくれているんでしょうね。毎回、『タコ釣り』『タコ殴り』『タコ炒飯』といった文字を習字で書いてくれるのですよ」
「尊敬と愛情……ケロケロ」
「カエル先生、何か?」
「いえ。〝カエルの面に水〟……そのコトワザを何となく思い出しまして」
「……? 何を仰っておられるのか、イマイチ意味が…………まぁ、良いでしょう。この際だから告白しますとですね、授業の楽しみは他にもありまして……私が吹き出したスミを使って、生徒に習字をしてもらっていたんですよ」
「スミを有効活用するとは…………なかなかもって、スミに置けませんなぁ。タコ先生」
「スミと……スミ。見事なジョークです。カエル先生、美味い!」
「そこは『上手い』と言ってください。無用にドキドキしてしまいます。カエルを食材にしている人間の国もあるので」
「スミ……マセン」
「タコ先生も……美味い!」
「カエル先生も、そこは『上手い』と言ってください。タコを食材にしている人間の国は、カエルを食材にしている国以上に多いのですから」
「申し訳ありません」
「…………」
「…………」
「スミやすい海!」
「スミやすい川!」
「スミやかなレッスン!」
「スミきった水!」
「スミ……スミ……他には……」
「タコのスミ火焼き!」
「え?」
「ケロケロ」
「…………」
「…………」
「はぁ~。それでは、習字の代わりに何の授業をしましょうかね。今度こそ、生徒全員が参加できる授業でなければ……」
「水泳はどうです?」
「水泳はハマグリちゃんが……」
「ハマグリちゃんだって、水に浸かるくらいは出来るでしょう?」
「それはそうですけど…………そうだ! 最適の授業がありました。これなら、みんな喜んで参加してくれるはず。出来ない子は居ません」
「良かったですな。タコ先生」
♢
「それで、タコ先生。先日お話されていた新しい授業の件はどうなりました?」
「生徒の誰も参加してくれませんでした……」
「え!? いったい、何の授業をなさったんです?」
「料理教室です」
「…………」
「料理教室です」
「……するほう? ……されるほう?」
「イヤですね、カエル先生。タイくんやヒラメくんやハマグリちゃんには、料理をするための手が無いのですから、『料理をしなさい』なんて、無理なことを言えるはずないでしょ? 非常識なことを仰ってはいけませんよ」
「非常識なのは、アナタだと思います。タコ先生……」
水の学校では今日も楽しく、授業が行われています。
カエル「自分が得意なのは、国語の授業です。生徒たちに俳句を作ってもらっています」
タコ「カエル関連の有名な俳句は多いですからね。羨ましい……」
カエル「タコ先生は経済の授業をしたら如何です?」
タコ「なんでです?」
カエル「タコのくせ――習慣と、タコの気持ちを研究すると、企業は大発展すると聞きましたが」
タコ「初耳です」
カエル「複数の国で活動している大企業のことを『タコ・くせ・気・企業』というじゃありませんか!」
タコ「それ、『多国籍企業』の間違いなのでは?」
カエル「…………」
タコ「…………」
カエル「多国籍タコ焼き屋……」
タコ「そんな企業はありません」




