第1章 グリーンバックの向こうで(霧宮ナツハ編)後編
撮影所
ここが撮影所か……。
周りにはスタッフさんたちが一生懸命に準備をしている。僕は邪魔にならないように端っこの方にいた。
端っこの方に立っていると霧宮さんのマネージャーさんが話しかけてきた。
マネージャー
「君が莉緒くんだね。今日は見学に来てくれてありがとう。」
真瀬莉緒
「あ、はい。どういたしまして……。」
マネージャー
「いや〜ナツハが友達を呼ぶなんて初めてだからさ……特別な子なのかなってね。」
真瀬莉緒
「ぼ、僕がですか?」
マネージャー
「うん。これからもナツハのことよろしくね。……お、ナツハが来た。」
マネージャーさんが向いた方向を見ると、ファンシーな衣装を着た霧宮さんがいた。
霧宮ナツハ
「どう? 私の撮影の雰囲気。すごいでしょう?」
真瀬莉緒
「はい。とってもすごいです! 本当に有名なモデルさん何だな……って思いました。」
霧宮ナツハ
「そう……まあいいわ。」
カメラマン
「すみません! 霧宮さん、撮影の方をよろしくお願いします!」
霧宮ナツハ
「…………はい! 今すぐ行きます! ……ごめんね。そろそろ行くわね。」
真瀬莉緒
「はい。いってらっしゃい。」
霧宮さんは頷き、グリーンバックのところへ撮影に向かった。
霧宮ナツハ
「すみません。よろしくお願いいたします!」
撮影をしている時の霧宮さんはとても笑顔だった。…………けれど……どこかその笑顔には楽しそうには見えなかった。
カメラマン
「いいよ! その調子で楽しそうに! そう! その表情最高だよ!」
霧宮ナツハ
「は……はい!」
カメラマンさんは気づいてはいないようだけど、僕は……なんとなく辛そうに見えた。
撮影が順調に進んでいると、先程のマネージャーさんとは別の人が来た。
??
「君かね。撮影の邪魔になっているのは。」
真瀬莉緒
「えっ……? あなたは?」
??
「困るんだよ君みたいな奴がいると……ナツハには稼いでもらわないといけないんだよ。」
真瀬莉緒
「………………。」
高圧的な人だ。心底から腹が立ってくる。
マネージャー
「チーフ。あまり彼のことを馬鹿にしないでください。大切な友人なんですよ。」
チーフマネージャー
「ふん。ナツハには必要のないものだと思うけどな。」
マネージャー
「な……!?」
チーフマネージャー
「まあいい……貴様はさっさと出て行くんだな。」
チーフマネージャーらしき男はそう言い残し去って行った。
マネージャー
「ごめんね。帰らなくていいからね。ゆっくりしててね。」
真瀬莉緒
「あ、はい……。ありがとうございます。」
僕は後味が悪いまま霧宮さんの撮影を見届けた。
しばらくすると霧宮さんの撮影が終わった。
霧宮さんは身支度を済ませてこちらにやってきた。
霧宮ナツハ
「終わったわ。今日はありがとう。」
真瀬莉緒
「いえ、貴重な経験でした。こちらこそありがとうございました。」
霧宮ナツハ
「そう……。良かった。じゃあ帰りましょうか。」
真瀬莉緒
「はい。」
帰り道
霧宮ナツハ
「はぁ……今日は一段と疲れたかもしれないわね。」
真瀬莉緒
「お疲れ様です。」
霧宮ナツハ
「ええ、ありがとう。あと……ごめんなさいね。チーフマネージャーの件で。」
真瀬莉緒
「あ、見てたんですか?」
霧宮ナツハ
「ええ、あの人はいつも私に対して厳しいのよ。私も腹が立つわ。」
真瀬莉緒
「ああ、あの人ですか……。」
霧宮ナツハ
「お疲れ様の一言もなく、何かをぶつぶつと言っているのよ。気味が悪いわ。」
真瀬莉緒
「……苦労しているんですね。」
霧宮ナツハ
「ええ……けれど今日は莉緒くんがいてくれたから少し楽しかったかも……。」
真瀬莉緒
「本当ですか……!? ありがとうございます。」
霧宮ナツハ
「ええこれからももしよければ見学に来ない? マネージャーも歓迎するわよ。」
真瀬莉緒
「それなら……お言葉に甘えていただきます。」
霧宮ナツハ
「決まりね。じゃあ、これからもよろしくね。」
真瀬莉緒
「はい。よろしくお願いいたします。」
その後も僕たちは楽しい帰り道を歩いていった。
六郭星学園寮 莉緒・ノクアの部屋
部屋に帰ると風亥さんが迎え入れてくれた。
風亥ノクア
「おかえり。今日はどうだった?」
真瀬莉緒
「そうですね。今日は霧宮さんの撮影を見学してきました。」
風亥ノクア
「おお。ナツハの撮影見学か! いいね! それで……? 撮影はどうだったの?」
真瀬莉緒
「そうですね。とても良かったです。けれど、作曲の方はまだ進展できてはいませんが……」
風亥ノクア
「そうか……ちなみにコンセプトは莉緒くんの中では決まっているの?」
真瀬莉緒
「コンセプトですか?……まあ、一応……。」
風亥ノクア
「本当? ……少しだけ聞かせてくれる?」
真瀬莉緒
「今ですか? …………構いませんけど……。」
風亥ノクア
「ありがとう! じゃあお願いします!」
真瀬莉緒
「……はい。」
僕はギターを持ち、弾き始める……。
曲を弾き終えると風亥さんはとても笑顔でこう言った。
風亥ノクア
「なるほど……その声優さんっぽいし、ナツハの特技も活かしていて良い曲だね。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
僕は素直にお礼を言った。
風亥ノクア
「ああ……良い曲だよ。……………………。」
真瀬莉緒
「…………?」
風亥さんは何かを考えているのか、少しだけ俯いていた。
真瀬莉緒
「風亥さん……?」
風亥ノクア
「ああ、ごめんね。…………今日はあのマネージャーに会ったのかなって……。」
真瀬莉緒
「あの高圧的なマネージャーですか?」
風亥ノクア
「会ったんだ……そっか……。」
真瀬莉緒
「風亥さんも知っているんですね。」
風亥ノクア
「ああ、あの人は腹が立って仕方がない。正直あの人には関わりたくないよ。」
真瀬莉緒
「やっぱり……。みんなそうなんですね。」
風亥ノクア
「ああ、だから莉緒くんも気をつけてね。」
真瀬莉緒
「ええ、わかりました。」
風亥ノクア
「お、そろそろ撮影の時間だ。じゃあ……出かけるね。」
そう言い、風亥さんは撮影に行った。
真瀬莉緒
「関わりたくないか……。」
あのチーフマネージャーの悪態は腹が立ってくる。僕はそれを忘れるために寝床に着くことにした。




