第4章 薄茶色のハチマキ(夜坂ケント編)中編
六郭星学園寮 志奈・ナナの部屋
来川ナナ
「あ、おかえり。ケントはどうだった?」
真瀬志奈
「ええ、ケント無事に卒業できそうよ。」
来川ナナ
「本当に!? 良かった……。」
ナナも夜坂くんの卒業が嬉しいのか安堵していた。
来川ナナ
「これで無事にみんな卒業できるのね。」
真瀬志奈
「ええ、ホッとしたわ。」
するとそこへ……夜坂くんがやってきた。
夜坂ケント
「邪魔して申し訳ない。先生からは許可を取っている。」
来川ナナ
「ケント! 卒業おめでとう!」
夜坂ケント
「ああ…………来川…………すまないな。」
夜坂くんがここに来るなんて珍しい。何かを話そうとしているのだろう。
夜坂ケント
「それでだ……真瀬……。」
真瀬志奈
「ええ、何かしら?」
夜坂ケント
「その……もう一度だけ、六郭星ランドに行かないか?」
真瀬志奈
「六郭星ランド? いいの?」
夜坂ケント
「ああ、あのときは焦っていたばかりにあまりいい思い出はなかっただろう。だから真瀬、もう一度でいいから行かないか? 今なら俺は楽しくアトラクションを回れそうなんだ。」
夜坂くんが嬉しそうにそう話す。そんな夜坂くんを無下にはできない。
真瀬志奈
「ええ、もちろん! 行きましょう!」
夜坂ケント
「それは嬉しい。それじゃあ後日行こうとしよう。」
そう言うと夜坂くんは部屋から出て行った。
来川ナナ
「なんだかケント……楽しそうね。」
ナナがそう言う。そう言うということは夜坂くんにもだいぶ変化があったからだろう。
そして私は六郭星ランドへ行く日までを待つばかりであった。
六郭星ランド
夜坂ケント
「久々の六郭星ランドだな。」
真瀬志奈
「そうですね。楽しみましょう!」
夜坂ケント
「ああ、そうだな。まずはあそこのアトラクションから行こう。」
夜坂くんが指をさした方はメリーゴーランドだった。近くまで行くと、行列ができていた。
夜坂ケント
「また行列か……。」
真瀬志奈
「そうですね。」
そう言う夜坂くんではあるが、表情はとてもにこやかな様子が見られた。
夜坂ケント
「まあ……この行列だ。すぐに回ってくるだろう。待とうか。」
真瀬志奈
「そうですね。待ちましょうか。」
あれ以来だいぶ穏やかな様子が続いている。あのときの呪縛から解き放たれたんだろう。
しばらく待っているとすぐに順番が回ってきた。
私たちが木馬にそれぞれ乗り込んで行くと、すぐにメリーゴーランドは回り出した。
真瀬志奈
「わあ……すごいです!」
夜坂ケント
「ははは……メリーゴーランドなんだから当たり前だろ。」
真瀬志奈
「それも……そうですね。」
私たちはメリーゴーランドを楽しんだ。
上下に木馬が動き回り、私たちはゆらゆら揺れる。この時間がとても穏やかな気持ちになる。
そして夜坂くんも同じ気持ちだろう。とても不器用な笑みではあるが、楽しいという気持ちが表れていた。
そして木馬が止まり、メリーゴーランドが終わる。
真瀬志奈
「楽しかったですね。」
夜坂ケント
「ああ、俺もだ。とても楽しかった。あのときは全くアトラクションを楽しめなかったけれど……今は最高に楽しい。」
真瀬志奈
「やっぱり……モンスターになるときのタイムリミットがあったからですか……?」
夜坂ケント
「ああ……それもあるな。余裕がとにかくなかった。けれど今は違う。今は最高に楽しい。その気持ちだけだ。」
真瀬志奈
「ふふ……良かったです。」
夜坂ケント
「…………ありがとうな。」
真瀬志奈
「えっ…………?」
夜坂ケント
「なんでもない。そろそろ別のアトラクションに行こう。あのときの分までしっかりと楽しむぞ!」
真瀬志奈
「…………はい!」
そうして、私たちはジェットコースターやコーヒーカップを楽しんだ。
ジェットコースターやコーヒーカップに乗っているときも夜坂くんはとても楽しそうだった。
あのときの呪縛から抜け出した夜坂くん。この調子なら課題である作曲も乗り越えられるだろう。
と思ったとき……。
ギギ……ガガ……
真瀬志奈
「えっ……!?」
何……この耳鳴りは……!?
ギギ……ガガ……
苦しい…………!
夜坂ケント
「だ、大丈夫か!?」
真瀬志奈
「よ……夜坂くん……!」
その言葉で我に返った。
夜坂ケント
「大丈夫か……?」
夜坂くんは心配そうな顔で見てくる。
私は大丈夫とそう言った。
夜坂ケント
「そうか……ならいいんだが……。何かあれば言うんだぞ。」
真瀬志奈
「あっ……はい。」
さっきの耳鳴りはなんだったのだろう……
ひとまずは残りの学生生活を満喫しよう……!
そう思って、私たちは六郭星学園に戻ることにした。
六郭星学園 音楽室
あれから数日後……私たちは作曲の練習をしていた。
夜坂くんに弾いてもらうチェロの伴奏を聴いてもらうため、私は作曲した音楽を流しながらチェロを引いた。
夜坂ケント
「なるほど……これなら俺にも弾ける。練習すれば必ず良い曲になる。頑張るぞ……真瀬。」
真瀬志奈
「もちろん。私たちの曲だもの。必ず先生方……そして、オーディションにも合格しましょう。」
夜坂ケント
「そうだったな。オーディションか……なあ、歌詞とかはもうできているのか?」
真瀬志奈
「歌詞ですか? それは……まだできていないですけど……。」
夜坂ケント
「そうか……なら……できれば俺に書かせてくれないか?」
真瀬志奈
「夜坂くんが? ……構いませんが……?」
夜坂ケント
「ありがとう……。どうしても書きたいんだ。俺たちの曲でもあるけど……どうしても……な。」
真瀬志奈
「…………? まあ……とにかく歌詞の方はよろしくお願いします。」
夜坂ケント
「ああ、もちろんだ。任せてくれ。」
そう言うと夜坂くんは練習を始める。時間に追われていた夜坂くんはあの時とは違い、とても楽しそうに練習を繰り返していた。
しばらくするとそこへ月川さんと柊木さんが来た。
月川タクト
「ケント! 頑張っているな!」
夜坂ケント
「まあな、月川の方も順調に進んでいるのか?」
月川タクト
「もちろん! 俺の方も順調に進んでいるぞ。俺たちはケントたちの作曲の方も楽しみにしているぞ!」
柊木アイ
「今見た様子だと作曲の方は大丈夫そうだね。頑張ってね。」
夜坂ケント
「柊木……月川……すまないな。俺たちは大丈夫だ。応援ありがとう。」
月川タクト
「変わったな。ケント。今はすごく楽しそうだもの。」
夜坂ケント
「そ、そうか? ……まぁ、あの頃と比べたら今はとても充実しているかもな。」
柊木アイ
「あの頃は追われていたんでしょ。タイムリミットに。」
夜坂ケント
「ああ、だからこそ今ここにいられること……それが不思議だ。……けれど、今は最高に楽しい。」
柊木アイ
「良かったよ。ケントくんがそう言ってくれると。……随分と邪魔したね。そろそろ僕たちも戻ろう。」
月川タクト
「ああ、真瀬さん。ケント。楽しみにしているからな!」
夜坂ケント
「任せてくれ。真瀬と一緒なら心強い。俺たちはきっと良い作曲をできるはずだ。」
月川さんと柊木さんは強く頷くと音楽室から離れて行った。
夜坂ケント
「さてと……練習するか!」
真瀬志奈
「はい!」
私たちは再び作曲の練習に取り掛かった。
そして、時は過ぎ……
六郭星学園 大講堂
いよいよ、課題発表当日になった。課題はKクラスから1ペアずつ発表していき、そこからJクラス、Iクラスといき、Sクラスと回っていく。1ペアずつなので3日間に分けて発表をしていく。
そして今日はEクラスが発表をしていく、先陣を切ったのは月川さんたちのペアだ。
月川さんたちは戦国武将の甲冑を再現した模型を作った。
星野シキア
「へぇ……タクトのやつなかなかやるわね……。」
相当な再現なのか、星野さんは圧巻の表情をしていた。
中盤に入り、柊木さんペアが発表する。柊木さんはマジックショーを披露した。
古金ミカ
「ほぉ……なかなかの腕前ですな……!」
古金さんはそう言いながらも笑みを浮かべていた。
そして……トリを飾るのは私たちだ。
夜坂ケント
「準備はできているか?」
真瀬志奈
「ええ……もちろんよ。」
夜坂ケント
「よし……それじゃあ……これをつけるか……。」
夜坂くんが持っていたのは薄茶色のハチマキだった。
真瀬志奈
「ハチマキ……?」
夜坂ケント
「ああ、俺は大事な時にはハチマキをつけて落ち着かせるんだ。せっかく真瀬と作った作曲だ……。絶対に成功させる……!」
真瀬志奈
「夜坂くん……!」
夜坂ケント
「ああ……真瀬! 行こう!」
真瀬志奈
「ええ! 行きましょう!」
私たちはピアノとチェロを準備して、ステージの前に立つ……!
そして、合図をだして、演奏をする…………
演奏が終わった…………他のみんなの反応は……
男子生徒A
「…………なかなかやるじゃねえか……。」
女子生徒B
「本当……心にグッとくるわ……。」
大講堂にいた人たちは感動して、拍手喝采が鳴り止まなかった。
鹿崎咲也
「……………………。」
笛花奏
「良い曲……だったわね。」
鹿崎咲也
「ああ……すげえよ。あんな曲、俺たちにはできねえよ。」
ステージから降りた私たちは喜びを分かち合った。
真瀬志奈
「やったわね! みんなから認められたわ!」
夜坂ケント
「ああ、あとはオーディションだ。作ったからには……絶対に合格しよう!!」
真瀬志奈
「はい!」




