第2章 黒い魔の手(月川タクト編)後編
六郭星学園 文化祭当日
今日は文化祭。年に一度のお祭りで、六郭星学園にとっては記念すべき最初の文化祭。
休み時間は騒がしい廊下も今日はずっと騒がしくなる。先生も生徒も関係なくお祭り騒ぎ。
私は劇が始まるまでの間、月川くんと柊木さん、夜坂さんの4人で模擬店を回っていた。
柊木アイ
「よし、次はどこに行こうか!」
夜坂ケント
「柊木、楽しいのはわかるけど、落ち着け。」
柊木アイ
「えぇ? こんなお祭りの日だよ! もっと楽しもうよ! ね、タクト!」
月川タクト
「ああ! ケントも少しは楽しもうよ!」
夜坂ケント
「うっ…………まぁ今日だけは仕方ない……今日だけだぞ。」
柊木アイ
「やった! じゃあ次はあそこに行こうよ! ほらほら!」
柊木さんに押されながら模擬店に向かう夜坂さん。月川くんと2人になったとき。
莉緒たちがこちらにやって来た。
古金ミカ
「お! カップル発見! ヒューヒュー!」
真瀬志奈
「かっ……カップル!?」
来川ナナ
「ミカ。あまり囃し立てないの。」
古金ミカ
「えー!? 良いじゃない! 恋愛なんて禁止されて無いんだから! ほらほら、チューっと……」
柊木アイ
「ミカ! 何やってるの!」
古金ミカ
「げっ!? アイだ! 逃げろー!!」
柊木アイ
「あ、こら! まて!」
古金さんはそのまま逃げるように走り、柊木さんも追いかけた。
来川ナナ
「…………すみません。ミカがあんなことを…………。」
真瀬志奈
「い、いえ! 謝ることでは……。」
月川タクト
「そ、そうだよ。気にしてないから大丈夫だよ。」
来川ナナ
「ホッ……ありがとうございます。」
星野シキア
「それよりもタクト。あなた、まだ作曲してるの?」
月川タクト
「作曲?もちろん。やってるに決まっているじゃん。」
星野シキア
「そう……まだやるのね。」
月川タクト
「…………。」
その一言に眉をしかめる月川くん。それを見た莉緒が和ませようとした。
真瀬莉緒
「……タクト! その作曲さ、俺にも聞かせてくれないか? 聞いたことなくてさ、この機会に聞いてみたいな!」
月川タクト
「……ああ、いいよ。じゃあ音楽室行こうか!」
古金ミカ
「お、面白そう! 私にも聞かせて!」
柊木アイ
「ミカ! まだ話は終わってないよ!」
月川タクト
「いいよ! アイももう良いじゃん! 2人もおいでよ。」
そのまま月川くんはみんなを連れて音楽室に向かう。幸いにも音楽室は使用されてなく、月川くんはギターを手に取り、私はピアノに手をかけた。
柊木アイ
「2人がどんな曲を作ったのか……楽しみだ!」
夜坂ケント
「……月川。真瀬。期待しているぞ。」
来川ナナ
「ふふ…………。」
星野シキア
「…………。」
月川タクト
「志奈さん。行くよ。」
真瀬志奈
「はい。」
私たちの練習の成果を見せる時……これが私たちの今の精一杯の努力……!
曲を弾き終えたあと、音楽室には静寂が走る。
その静寂を掻き消したのは古金さんだった。
古金ミカ
「すごい……! これが、2人の曲……! 最高だよ!」
この一言を機に称賛の声が止まらない。
……星野さんを除いて。
星野シキア
「……………………。」
月川タクト
「シキア……?」
星野シキア
「いや、なんでもないわ。それよりもそろそろ劇の時間じゃないの?」
月川タクト
「あぁ……。そうだったね。準備に向かうよ。」
星野シキア
「……。何かわからないけど、気をつけて。何か嫌な予感がするの。」
月川タクト
「嫌な予感? 大丈夫。そんなの無いって!」
星野シキア
「そう……なら良いけど。」
真瀬志奈
「あ、あの嫌な予感って……」
星野シキア
「この劇のナレーションの子、声が出ないみたいで、別クラスの子が担当することになったの。」
真瀬志奈
「別のクラス……の子……?」
星野シキア
「三蜂レンカ。彼女が受けるみたいよ。」
夜坂ケント
「三蜂が……!?」
来川ナナ
「大丈夫なの…………!? 三蜂さんって何するかわからないわよ!」
星野シキア
「えぇ、だから少し不安なのよ。2人共気をつけて……。」
月川タクト
「だ……大丈夫だって! さすがにこの大舞台でやる勇気なんてないよ!」
柊木アイ
「タクト……。」
月川タクト
「大丈夫! さぁ、みんな行こうよ! 俺たちの劇を楽しみにしている人たちもいるからさ!」
月川くんはそう言って体育館に向かった。
真瀬志奈
「月川くん……。」
星野シキア
「……無理しないでね。」
真瀬志奈
「はい……。」
六郭星学園 体育館
劇の準備ができ、私は若竹色のドレスが衣装。月川くんが好きな色だ。私はお天馬なお姫様役で月川くんはそのお姫様に恋を抱く、ドレス職人だ。
月川タクト
「志奈さん、頑張ろう。」
真瀬志奈
「はい。」
そして、開演のアナウンスが響く。
三蜂レンカ
「ただいまより、Eクラスによる公演を行います。」
開演のブザーが鳴る。
柊木さんや夜坂さんも一生懸命に演じる。何事も無く進んでいく、そして終盤に近づく。
月川タクト
「あの……その若竹色のドレス……似合っています……。」
真瀬志奈
「本当に? ありがとう! あなたのプレゼント、気に入ったわ。」
月川タクト
「良かったです……。僕は……あなたの為にこのドレスを作りました。」
真瀬志奈
「そう、ありがとう。でも、これじゃ足りない。あなたの気持ち、教えて欲しいわ!」
月川タクト
「……お姫様!」
月川くんは私の手を取り、私は月川くんの体に包み込まれる。
月川タクト
「僕の好きなその色で、あなたのことを僕の色に染めたい。……姫、好きです。」
真瀬志奈
「あ…………なた……。」
その言葉は役ではあるものの月川くんとリンクしてしまい、私はドキドキしてしまう……。うぅ……。
真瀬志奈
「あなたが言うのなら……私を……。」
スポットライトは若竹色に光る。その光は私たちを覆い、口づけを交わすふりをする。そして、閉演のブザーが鳴り響く。
鳴り響く音、それと共に大勢の人の拍手が鳴る。
劇が終わり、出演者は舞台に並び一礼をする。
三蜂レンカ
「公演は以上になります。今一度大きな拍手をお願いいたします。」
拍手が鳴り、三蜂さんが話をする。
三蜂レンカ
「主演でありますこの月川タクトさんは幼少期の頃にとても大変な過去をお持ちなんです。」
柊木アイ
「あれ……?こんなのあったっけ?」
会場がざわめく、関係なしに三蜂さんは語る。
三蜂レンカ
「月川タクトさんは孤児院出身の方でありますが、何故彼が孤児院で暮らすことになったのか……」
月川タクト
「お……おい……。」
三蜂レンカ
「彼の実の父親は車にはねられて亡くなりました。その加害者は反省をしておりましたが、遺族からの怒り、家族からの絶縁を切り出されおかしくなりました。」
夜坂ケント
「お、おい……これって……!」
月川タクト
「……やめろ。」
三蜂レンカ
「加害者はおかしくなり…………遺族である、月川タクトの実の母親は殺害。さらには加害者の妻は顔の原型が留められていないほど殴られ死亡。実の子供も身体がバラバラにされておりました。」
真瀬志奈
「三蜂さん……?」
月川タクト
「……おい!やめろ……!やめてくれ……!」
三蜂レンカ
「そして、加害者は…………」
月川タクト
「やめろ……!」
三蜂レンカ
「行方不明になりました。」
月川タクト
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
隣でドサッと音がなる。
真瀬志奈
「月川くん!!」
夜坂ケント
「月川! 大丈夫か!?」
柊木アイ
「誰か! タクトくんを保健室に!」
会場がざわめく、先生も慌てふためく。その隙に三蜂さんは逃げるように会場を出て行った。
来川ナナ
「月川……さん……!?」
古金ミカ
「…………!?」
さすがの古金さんも動揺を隠せていない。
真瀬莉緒
「アイ、ケント! 保健室の先生は救急車を呼んだらしい! 月川をそのまま横にして!」
柊木アイ
「わっ、わかった!」
真瀬志奈
「月川くん……! 無事であって!」
星野シキア
「タクト……。」
六郭星学園 Eクラス教室
柊木アイ
「……タクトくん、大丈夫かな?」
来川ナナ
「……多分、私の親の病院だから、すぐに治療とか出来るとは思うけど……」
古金ミカ
「ね、ねぇ……三蜂の言ってたことって本当なの……?」
星野シキア
「……えぇ。本当よ。私も詳しくは知らないけど、私が聞いてたこととほとんど合ってるわ。」
真瀬莉緒
「そんな……タクトにそんな過去が……!」
真瀬志奈
「莉緒も知らなかったのね…。」
実は莉緒は月川くんのルームメイトであるため、月川くんのことを知っている。
そこへ風亥さんが、やって来た。
風亥ノクア
「皆さん! タクトが倒れたって……!」
真瀬志奈
「風亥さん……そうなんです……。私、不安で不安で……。」
風亥ノクア
「真瀬さん……大丈夫。きっと……。」
夜坂ケント
「三蜂のやつ……! あいつはどこに行った!」
柊木アイ
「ケント! 落ち着いて! 彼女は今先生方が探しているから!」
夜坂ケント
「くっ……すまん。」
柊木アイ
「ん……? ケント、その腕って……。」
夜坂ケント
「な、何でもない!」
柊木アイ
「ケント……?」
夜坂ケント
「……。」
教室全体が沈黙に侵される。そこに――
三蜂レンカ
「どうやら集まっているみたいね。」
古金ミカ
「レンカ……!」
夜坂ケント
「何しに来た! お前があんなことをしたから!」
三蜂レンカ
「あんなこと? そんなの恋愛したからでしょ。」
星野シキア
「いくらなんでも……そんなことで……!」
三蜂レンカ
「いい? あなたたちも恋愛したらこうなるからね。せいぜい気をつけることね。」
三蜂さんはそう言って教室から出て行った。
来川ナナ
「あんまりだよ……。彼女は何であんなことまでして嫌がるの?」
夜坂ケント
「ああ……そもそも何故あいつは月川の事故の話を知っていたんだ?」
??
「それは……あのファイルを見たからです。」
風亥ノクア
「えっ……君は……?」
柚木アイラ
「私は柚木アイラと言います。三蜂レンカと同じクラスです。」
来川ナナ
「柚木さん。先ほど言ったファイルって……?」
柚木アイラ
「そのファイルには……月川さんに関わる……ファイルが……あります。」
真瀬志奈
「そんなファイルが……?」
柚木アイラ
「はい……。そのファイルを見た三蜂さんは……」
真瀬志奈
「………………。」
なんだろうこの気持ち……許せない……それ以上の感情が込み上げている。
でも何で私は月川くんのことを考えているんだろう。この気持ち……もしかして……。
鹿崎咲也
「みんな! ここにいたか! 月川が目を覚ましたぞ!」
柊木アイ
「本当ですか!」
鹿崎咲也
「ああ……ただ……目を覚ましたんだが……。」
夜坂ケント
「何かあったんですか?」
鹿崎咲也
「記憶を失っている……。」
真瀬志奈
「……!?」
そ……そんな……!
月川くん……!!




