第2章 白い願い(来川ナナ編)中編
六郭星学園 廊下
学園内の廊下は運動会のあとなのか、人だかりがあり、グラウンドにも何人か野球をしている人がいる。
真瀬莉緒
「……野球か……。すごいなあんなに運動したのに……。」
そうぼーっとしていたら野球ボールが飛んできて、僕の目の前のガラスが割れる。
そして、僕の顔にガラスの破片が刺さり、頭にもボールが当たる。
真瀬莉緒
「うわあぁぁぁぁ!」
とんでもない激痛が顔に走る。ガラスが割れたのに気づいたのか、鹿崎先生がやってきて、僕の姿を見て驚き、慌てていた。
鹿崎咲也
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ! 救急車呼ぶからな!」
そう言われるがままに僕は救急車に乗り、病院へと運ばれた。
来川医療センター
病院に運ばれた僕はなんとか処置が終わり、不幸中の幸いか、傷も目立たないほどの傷で済んだ。
処置室を出ると、そこには来川さんがいた。
来川ナナ
「莉緒くん! 大丈夫!? ここに運ばれたって聞いたから慌てて先生に言ってここに来たんだから!」
真瀬莉緒
「大丈夫ですけど……。どうしてここに?」
来川ナナ
「言ってなかったけ? ここ、私のお父さんがやっている病院なの。」
真瀬莉緒
「そうなんですか!?」
驚いた、でもよくよく考えると来川医療センターという名前だ。来川はそこまで多い苗字でもない。
??
「ああ、君、すまないね。ナナがいつもお世話になっているよ。」
声が聞こえる方を見るとそこには処置をしてくれたお医者さんがいた。来川さんがお世話になってると言うことは……?
来川ナナ
「お父さん! ごめんね。急に戻ってきて……。」
来川ナナの父親
「良いんだよ。それよりも、莉緒くんだね。ナナのことで話があるんだ。少しだけ話さないか?」
真瀬莉緒
「あ、はい……。」
来川ナナ
「お父さん……?」
来川さんの父親に言われるがまま、診療室に入る。
診療室
真瀬莉緒
「…………。」
少しだけドキドキしている。僕は特に何もしていない……けれど、何故か結婚の報告をするような感じで何を言われるかわからない……。
来川ナナの父親
「莉緒くん……。」
真瀬莉緒
「はい……。」
来川ナナの父親
「ナナのことだが……あの子の性格で気になることはあるかい?」
真瀬莉緒
「来川さんの性格ですか……?」
少し怒られる可能性もあると思い覚悟していたが特に心配することもなかった。
僕は今、来川さんに関することで思うことを言うことにした。
真瀬莉緒
「来川さんは……「はい。」としか言えない人なのかなと……少し思います。」
来川ナナの父親
「そうか……やはりか……。」
真瀬莉緒
「えっ……?」
来川ナナの父親
「莉緒くん。君の言う通り、ナナは拒否ができないんだ。ナナは何にでも「はい。」としか言えず、自分を苦しめているんだ。」
真瀬莉緒
「そんな……。」
来川ナナの父親
「ナナはこうなる前に1人きりの友達がいてな。その子とずっと仲が良かった。……だがな、その子の意見に反対した時があってな……喧嘩をしてしまってな……その子に謝ることが出来なくてな……」
真瀬莉緒
「どうしてですか……?」
来川ナナの父親
「……その喧嘩をした夜にその子は交通事故で亡くなったんだ。」
真瀬莉緒
「…………!?」
来川ナナの父親
「それ以降だ……ナナがあのような性格になったのは…………まあ、古金さんと星野さんと言ったな……その子たちにはある程度は言えるみたいだけどな……」
真瀬莉緒
「来川さんにそんな過去が……。」
来川ナナの父親
「ナナの友達である君へのお願いだ。……あの子を救って欲しい……。前のナナに戻って欲しい……。」
真瀬莉緒
「先生……。」
来川ナナの父親
「頼んだぞ……。」
真瀬莉緒
「…………。」
僕は頭を下げた後、診療室を出た。診療室前の椅子には来川さんが座って待っていた。
来川ナナ
「大丈夫? お父さんに何か言われた?」
真瀬莉緒
「いえ……大丈夫です。特に言われてません。」
来川ナナ
「そう……。じゃあ……学校に戻りましょう。」
真瀬莉緒
「はい……。」
来川さんの過去を聞いてから僕は何も考えられない状況だった。
来川さんにはそのことは言わずに僕は学校へと向かった。
六郭星学園 寮
学校に戻ると、また辺りが騒がしくなっていた。
来川ナナ
「なにかしら……?」
真瀬莉緒
「騒がしいですね……。」
騒がしくなっている場所に行くとそこには夜坂くんがうずくまっていた。
夜坂ケント
「うぅ…………。」
真瀬莉緒
「夜坂くん!?」
来川ナナ
「大変! ケント、大丈夫!?」
夜坂ケント
「ぐ……ぐうぅぅ……あぁ……。」
来川ナナ
「…………。」
真瀬莉緒
「と、とりあえず、救急車を!」
来川ナナ
「あっ……!」
真瀬莉緒
「ら、来川さん?」
来川ナナ
「あ……いや……その……」
??
「大丈夫か!救急車を呼ぶんだ!」
そこにやってきたのは生徒会長の伊剣タイガさんだ。騒ぎを聞きつけて来たんだろう。
夜坂ケント
「ぐおぉぉぉ……。」
伊剣タイガ
「これは……! ……急いで来川医療センターに!」
真瀬莉緒
「え、あ、はい!」
僕は急いで救急車を呼んだ。
伊剣タイガ
「大丈夫か!? しっかりしろ!」
夜坂ケント
「く…………。」
救急車が来て夜坂くんは運ばれていった。
伊剣タイガ
「……ふぅ……なんとか運ばれたか……。」
真瀬莉緒
「あの……。」
伊剣タイガ
「ん? ああ、ありがとう。君が救急車を呼んでくれたんだろう?」
真瀬莉緒
「はい……。」
伊剣タイガ
「確か君は……さっきの彼の部屋のルームメイトだったな。」
真瀬莉緒
「はい。そうですが……。」
伊剣タイガ
「そうか……もしかすると、ゆくゆくは話を聞くかもしれないが、よろしく頼んだぞ……。」
真瀬莉緒
「あ、はい……わかりました。」
伊剣タイガ
「すまないな。では、これで失礼するよ。」
伊剣会長はその場を離れていった。
来川ナナ
「…………。」
真瀬莉緒
「来川さん……?」
来川ナナ
「ううん、なんでもない。そろそろ部屋に戻りましょう。」
真瀬莉緒
「はい……。」
そう言うと僕たちはその場を離れて自分たちの部屋へと戻った…………
六郭星学園 音楽室
翌日……昨日は色々あったが、来川さんと再び作曲の練習をしていた。
真瀬莉緒
「ここは……こうで……。」
来川ナナ
「はい……。」
真瀬莉緒
「そうです。そこをこうしてください。」
来川ナナ
「わかりました……。」
作曲作りは順調に進んでいる……恐ろしいほどに。
来川さんは相変わらず僕の言っていることに「はい。」としか言わない。
来川さんは本当に曲を作りたいのだろうか……。
本当にやりたいことはなんなのか……日に日に増すばかりだった。
来川ナナ
「莉緒くん? どうかしたの?」
真瀬莉緒
「えっ……。あ、いや、なんでもないですよ。」
思わずぼーっとしていたらしい。つい来川さんのことを考えていたのだろう。
来川ナナ
「莉緒くん。何かあったら言ってね。」
真瀬莉緒
「…………はい。」
何かあれば言って欲しいのはお互いにだと言いたいが、何も言えなかった。
六郭星学園 Kクラス教室
先日の運動会で何をやるかを優先的に選べるため、今日は文化祭で何をやるかを決める日になった。
笛花奏
「みなさん、やりたいことは決まりましたか? じゃあ早速やりたいことがある人は手を上げてください!」
男子生徒A
「はいはい! おれ、演劇がやりたいです!」
女子生徒B
「私は無難にフランクフルトとか焼きそばみたいな模擬店がやりたいです!」
女子生徒A
「ええー? 私はブラスバンドとかやりたいけどなー!」
クラスメイトのみんなが次々に手を上げる。一方で来川さんはと言うと……
来川ナナ
「………………。」
ただただ、見守っているだけだった。
古金ミカ
「はいはい! 私は創作ダンスをやりたいです!」
星野シキア
「…………なるほど、私も創作ダンスに興味があります。」
創作ダンスと言うとクラスメイトは賛同の意見が意外にも多かった。
男子生徒B
「面白そう! やってみたいな!」
女子生徒C
「私も! ダンスをやりたい!」
笛花奏
「そうね……じゃあ、多数決をとりましょう!」
多数決をとることになった。そして……その結果は……
笛花奏
「はい。ということで、創作ダンスをやることにします!」
クラスメイトはパチパチと拍手をする。
笛花奏
「じゃあ……リーダーを決めましょうか。そうね……これは先生の独断で良いかしら?」
星野シキア
「かまいません。それでお願いします。」
クラスメイトのみんなもそれに否定する人はいなかった。
笛花奏
「そうね……じゃあ……来川さんお願いできるかしら?」
来川ナナ
「わ、私がですか!?」
笛花奏
「ええ、お願いできるかしら?」
来川ナナ
「……わかりました。……やります。」
笛花奏
「そう……じゃあお願いね。」
真瀬莉緒
「…………。」




