第1章 きみどり色の草原で(来川ナナ編)後編
六郭星学園寮
寮に戻ると何やら騒がしかった。辺りの人に聞いてみると、どうやら6月に予定していた課題の発表が3月に延期になることになったらしい。
延期になるということは課題の猶予がかなり延びたことになる。しかし、それなりの課題の質も向上させることに努めなくてはならない。僕は今後のことも含め、来川さんに話をしないといけないと思った。
けれど、今日はもう遅いため、明日にでも話をしよう。そう思い、僕は部屋に戻った。
六郭星学園寮 莉緒・ケントの部屋
夜坂ケント
「おう。おかえり。」
真瀬莉緒
「あ、はい。戻りました。」
夜坂ケント
「……そんなよそよそしくしなくても良いんだぞ。」
真瀬莉緒
「あ……はい。」
夜坂ケント
「それよりも莉緒。来川との曲作りは上手くいっているのか?」
真瀬莉緒
「まぁ……それなりに……。ただ、気になるところもあるけど……」
夜坂ケント
「気になるところ?」
真瀬莉緒
「はい……ただ、1回だけなので思い違いかもしれないから、今度また話すのでそこで確認をしてみようと思ってる。」
夜坂ケント
「そうか。まぁ……初回だしな。判断としては正しいのかもな。」
真瀬莉緒
「とりあえずは今日はこんな感じかな?」
夜坂ケント
「ほお。曲の方はできているのか?」
真瀬莉緒
「いや、今日はどんな形でいくかの方向性を考えてみただけ。明日から曲のベースを考えていくよ。」
夜坂ケント
「おう。それじゃあ……明日聞かせてもらおうか。いいか?」
真瀬莉緒
「僕は……構わないけれど……。」
夜坂ケント
「そうか……じゃあ、明日よろしくな。」
真瀬莉緒
「…………はい。」
そう会話をして、僕たちは寝床に着き……翌日……
六郭星学園 音楽室
放課後……僕らは曲のベースを考えていた。来川さんに今日の放課後は空いているか聞くと、即答ではいと答えて、今の状況にいたっている。
真瀬莉緒
「曲のベースとしては、こんな感じはどうでしょうか?」
来川ナナ
「すごく良いと思います!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます……。じゃあこれで……。」
来川ナナ
「あ……。」
真瀬莉緒
「ん……? どうかしましたか?」
来川ナナ
「いえ……何でもありません。これで行きましょう!」
真瀬莉緒
「あ……はい。」
僕は曲のベースに意見を言うと来川さんは即決ではいと答える。作曲は順調ではあるが、どこかモヤモヤしている。
そのモヤモヤがわからないうちに来川さんの携帯がなった。
来川ナナ
「はい。…………あっ…………。うん。わかった……ごめんね……。」
真瀬莉緒
「…………?」
来川ナナ
「ごめんなさい。ミカから連絡があって、約束の時間にきてないからどうしたのって……。」
真瀬莉緒
「ああ……元から予定が入っていたんですね。」
来川ナナ
「はい……このようなことがもうないようにします。今日は……すみません。」
真瀬莉緒
「大丈夫ですよ。古金さんのところへ早く行ってあげてください。」
来川ナナ
「すみません……。ありがとうございます。……では、今日は失礼します。」
そう言って来川さんは古金さんのところへ向かった。
曲のベースは大部分は完成している。あとは1人でも大丈夫だろう。僕は完成するまで、音楽室で練習しようとしたとき、音楽室の扉が開いた。
??
「お?真瀬……あぁ、すまん。弟の方か。」
真瀬莉緒
「はい……そうですけど……。」
鹿崎咲也
「俺は鹿崎咲也。Eクラスの担任をしている。まあ簡単に言うと真瀬志奈の担任でもある。よろしくな!」
真瀬莉緒
「真瀬莉緒です。姉がお世話になっております。こちらこそよろしくお願いいたします。」
鹿崎咲也
「姉同様に礼儀正しいな。……それにしても……1人で練習か?」
真瀬莉緒
「はい……さっきまでは2人でやっていましたが今は1人でやろうと思っていたところです。」
鹿崎咲也
「そうか……せっかくなら、俺が見てやろうか?」
真瀬莉緒
「え、良いんですか?」
鹿崎咲也
「ああ!クラスは違えど、先生だからな。これくらいはさせてくれ。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
僕はお礼を言って、鹿崎先生に曲のベースを聴いてもらった。
鹿崎咲也
「なるほど……コンセプトと重ね合わせて聞いてみると……こことここを変えた方が良いんじゃないか?」
真瀬莉緒
「あ、はい……。なるほど……。」
鹿崎咲也
「それに……こことここは音を高くしても良いんじゃないか?」
真瀬莉緒
「いや、これはこれでいいです。本人の歌いやすさやリスペクトも含めて考えたらこうじゃないかと……。」
鹿崎咲也
「……そうか。それもそうだな! 色々と考えているんだな!」
真瀬莉緒
「はい。ありがとうございます。」
鹿崎咲也
「何も何も。こうしてしっかりとやりとりしているんだろ。パートナーと。」
真瀬莉緒
「…………あー…………。」
よくよく考えると来川さんからあまり意見を聞いたことがないな……モヤモヤしていたのはこのことだったんだろうか。
鹿崎咲也
「……? どうした?」
真瀬莉緒
「あ、いえ、何でもありません。もうしばらく、曲のベースを考えて行こうかと思います。」
鹿崎咲也
「そうか。それなら俺も協力してやるぞ!どんどん意見を言ってくれ!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます!」
こうして僕は鹿崎先生とやりとりをして、大部分を無事に完成させた。
鹿崎咲也
「ベース……できたな!」
真瀬莉緒
「はい。これで……あとは曲調を考えないといけません。これは来川さんと一緒にやってみようと思っています。」
鹿崎咲也
「そうか……じゃあ俺は一旦、お役御免だな。お前らの曲が完成するのを楽しみにしているぞ!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
お礼を言うと鹿崎先生は音楽室から出ていった。曲作りは順調だ。あとの部分は来川さんと一緒に考えるが……どうしてだろう……
来川さんとのやりとりは……気乗りがしない。
意見を言って欲しいだけなのかはわからないけど……やっぱり何かモヤモヤする……
ひとまずは切り替えよう。……そうだ。夜坂くんに作曲の成果を見せるんだった。もう少し仕上げて夜坂くんに見てもらおう。
そう思い、早速僕はあらためて仕上げて、夜坂くんのところへと向かった。
六郭星学園寮 莉緒・ケントの部屋
部屋に向かうと夜坂くんはまだ帰ってきていなかった。
まだ大丈夫。僕は夜坂くんが帰ってくるギリギリまで曲の練習をした。
……でも、曲を弾く度に何故か来川さんのことを考えてしまうようになっていた。
来川さん……。
夜坂ケント
「練習はかどっているな。」
真瀬莉緒
「夜坂くん!?」
夜坂くんが帰ってきた。早速準備をしなければ。
夜坂ケント
「練習できたか?」
真瀬莉緒
「……曲のベース部分くらいだけど……。」
夜坂ケント
「そうか……。じゃあ聞かせてくれ。」
真瀬莉緒
「わかりました。」
僕は作った曲を完成したところまで弾く……
曲を弾き終えた。夜坂くんの反応は……
夜坂ケント
「良い曲だ。今でそれぐらいならこの先はさらに上手くなるんだろう。」
真瀬莉緒
「あ、ありがとう!」
素直に褒めてくれた夜坂くんに少し驚くも、普通を装って言えた……はず。
夜坂ケント
「……ところで、来川のことだけど……。」
真瀬莉緒
「来川さん……?」
夜坂ケント
「曲作りの最中に何かモヤモヤを感じていないか?」
真瀬莉緒
「え……?」
心の中ではかなり驚いた。モヤモヤしていることがバレていたなんて……そう思いつつも夜坂くんには来川さんの気になるところを伝えた。
真瀬莉緒
「来川さんと話している時は……何故かモヤモヤしています。」
夜坂ケント
「そうか……やはりか……。」
真瀬莉緒
「ただ……今はそれが何かは断定できないです。」
夜坂ケント
「……今はまだ断定は難しい。けれど……ゆくゆくはそれを乗り越えていかないと厳しいと思うぞ。」
真瀬莉緒
「……………………。」
夜坂ケント
「すまない。莉緒を責めるような形になったな。」
真瀬莉緒
「いえ、大丈夫です。」
モヤモヤか……
夜坂ケント
「これは来川にとっては乗り越えていかないといけないことだ……それに…………グッ……!!」
真瀬莉緒
「夜坂くん!?」
夜坂くんが急に苦しんでいる。何があったのか……?
夜坂ケント
「莉緒……薬を……俺の引き出しの中にある薬を出してくれ!」
真瀬莉緒
「引き出し……これだ!」
僕は引き出しにある薬を飲ませた。
夜坂ケント
「はぁ……はぁ……。すまない……」
真瀬莉緒
「いえ……大丈夫なの?」
夜坂ケント
「ああ……実は俺……あまり身体が良くないんだ。」
真瀬莉緒
「身体が……?」
夜坂ケント
「薬がないと苦しくなるんだ……すまんな……。少し外の空気を吸ってくる。」
そう言うと夜坂くんは外へ出かけていった。
真瀬莉緒
「夜坂くん……。」
僕は夜坂くんを心配しながらも曲作りをし……また寝床についた。




