第2章 紺青の瞳(古金ミカ編)後編
六郭星学園 音楽室
モンスターの件から数日経ち……僕たちは作曲作りに専念をしていた。
課題に関しては6月の予定が3月になったため、安心して作曲に取り組むことができている。
古金さんは公園のときのことで吹っ切れたのか、途中で茶々を入れながらも一生懸命に練習していた。
真瀬莉緒
「ここはこうして……そうですね。いい感じです!」
古金ミカ
「本当? ナイス私!」
こんな感じなので色々と疲労は溜まるが、着々と進んでいたが、ふと疑問に思ったことがある。
そもそも何故声優さんに曲を作らないといけないのか。そこを聞いていなかった。せっかくの機会だ。聞いてみよう。
真瀬莉緒
「あの……古金さん。」
古金ミカ
「おぉ?お姉さんに聞きたいことでもあるの?」
真瀬莉緒
「はい。そもそも声優さんに曲を作ることになった経緯ってあるんですか?」
古金ミカ
「あちゃー。言ってなかったっけー。」
真瀬莉緒
「はい。よろしければ……教えてください。」
古金ミカ
「うーん……まあそうだよね。作るんだから理由は必要よね。教えてあ・げ・る。」
真瀬莉緒
「はぁ……お願いします。」
……慣れないと。
古金ミカ
「あのね……私があの声優さんに曲を作らないと私が私じゃなくなるの。」
真瀬莉緒
「…………は?」
古金ミカ
「まあ、簡単に言うと私が作らないと親に何をされるかわからないってこと。」
真瀬莉緒
「え……?」
古金ミカ
「わかってはいるの。ツテもなく声優さんに曲を作れだなんて無謀なことだっていうのは。それでもやらないと……どうなるかはわからないから。」
真瀬莉緒
「古金さん……。」
普段の古金さんからは見えなかった。古金さんは今の状態はかなりの窮地に立たされているってことを……話を聞いてしまったからには……僕も協力は惜しまない。
真瀬莉緒
「古金さん! 頑張りましょう!」
古金ミカ
「莉緒っち……?」
古金ミカ
「…………ええ! 頑張りまっしょい!!」
真瀬莉緒
「そうと決まれば練習ですね。早速再開しましょう!」
古金さんは大きく頷き、バイオリンを持ち、僕はピアノの椅子に腰をかけ……演奏を始める。
演奏を終えて僕たちはお互いの目が合う。
僕たちは互いの表情を見てわかった。基本形が出来たことを!
古金ミカ
「すごいよ莉緒っち! 私こんな曲を弾いたの初めてだよ!」
真瀬莉緒
「ええ、僕もです……まさかここまで良い曲を作れるとは……。」
古金ミカ
「この調子でもっともっと良い曲を作ろうよ! お姉さん楽しくなってきたよ!」
真瀬莉緒
「はい! ではまた明日頑張りましょう!」
古金ミカ
「ええ! 明日もやるわよ!」
僕たちは翌日以降さらに曲に対する意識が強くなり、いつのまにかお互いにあった溝も無くなっていった。
六郭星学園 Kクラス教室
真瀬莉緒
「古金さん! 今日もやりましょう!」
古金ミカ
「お、いいね! お姉さん積極的な子は好きだよ!」
来川ナナ
「何かあの2人……仲良くなったわね。」
星野シキア
「いいことじゃない。前よりも比べたら……ね。」
僕たちが作曲作りに専念しているのをKクラスのクラスメイトたちは応援をしてくれている。
しかもそれには他のクラスにまでも応援が広がる。
月川タクト
「やぁ、莉緒くん! 頑張ってるね!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます!」
こうして月川さんにも応援してもらえる。……もちろん反対派もいるにいる。
笹野ユリ
「お2人とも学業も大事なんだからそればかりに集中しないでください。」
この人は笹野ユリ。放送委員だ。
この人は恋愛は賛成派ではあるが、行きすぎた恋愛は反対派ではある。ただ、風紀委員の人よりも何十倍も見て見ぬふりしてくれる。
崎盾ジュン
「まあまあ、いいじゃないか。僕も楽しみだよ。君たちの作る曲を。」
笹野ユリ
「副会長が言うなら仕方ないですね……。まあ、勉強もしてくださいね!」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。勉強もしていきます。」
こうしてこんな日々が続いていった……
…………そんなある日。僕たちが作曲作りに取り掛かっている時に事件が起こった。
六郭星学園 音楽室
真瀬莉緒
「ここはこうした方が良いですね。」
古金ミカ
「ほおほお! ではこっちはこうですな!」
真瀬莉緒
「良いですね! その調子で頑張りましょう!」
いつも通りにいつもの作曲作りに取り掛かっていた時……音楽室前から物音がした。
真瀬莉緒
「ん……? なんだろう……?」
音楽室前では何かを争っている様子が聞こえる……。この声は笛花先生と鹿崎先生だ。もう1人の声もあるが……わからない。
笛花奏
「子供たちのためにもそれだけは……きゃあぁ!!」
悲鳴と同時に電流の流れる音が聞こえる。
古金ミカ
「…………!!」
古金さんが何かに気づく様子があったがそれに問いかける前に鹿崎先生の悲鳴が電流と共に聞こえる。
鹿崎咲也
「ぐあああああ!!」
鹿崎先生の倒れる音が聞こえた後、音楽室の扉が開く。扉の前にいたのは、男の人だった。
男
「ミカ……貴様……!」
古金さんを知っている……!? この人一体……?
古金ミカ
「ぐっ……お、おとうさ……いや、どなたですか……?」
お父さん!? この人が!?
古金ミカの父親
「貴様には色々と話してもらうことがある。来い!!」
古金ミカ
「いやよ! 離して!!」
真瀬莉緒
「くっ……やめろおぉぉぉ!!」
僕は無我夢中で古金さんの父親らしき人に突っ込んでいく。
古金ミカの父親
「なんだ貴様は! これでも……!」
古金さんの父親は持っていたスタンガンを使おうとした時……
??
「ダメ!!」
その声が聞こえた時、僕は身体が古金さんの父親から離れていたことに気づいた。それと同時に頭を打ったのか、意識が遠のいていく……。
??
「ダメ……は…………だから……を……たら……ダメ!」
その声が微かに聞こえてくる……しかし身体は動かない……
その声も聞こえなくなった時……
鹿崎咲也
「おい! 大丈夫か! しっかりしろ!」
鹿崎先生の声が聞こえる。そこで僕は目を覚ました。
そこには笛花先生もいた。
笛花奏
「真瀬さん!大丈夫?」
その声で完全に目を覚ますと辺りを見渡す。古金さんがいない。
真瀬莉緒
「古金さん……古金さんは!?」
鹿崎咲也
「すまない……俺たちもスタンガンでやられた……。おそらくはあの男に……。」
真瀬莉緒
「それなら……急いで……! ……っつ……。」
笛花奏
「無理をしないで! 今は安静にしていないと。私たちの方で警察に届け出を出しておくわ。」
真瀬莉緒
「…………。」
鹿崎咲也
「今はお前のことも心配なんだ。病院に行こう。」
真瀬莉緒
「……わかりました……。」
古金さん……無事でいてください……!
六郭星学園 Kクラス教室
あれ以来古金さんが来ていない。姉さんがルームメイトなので、聞いてみてもあの日以来部屋に戻って来ていない。さすがに来川さんや星野さんも心配している。
来川ナナ
「ミカ……大丈夫かしら……。」
星野シキア
「…………。待つしかないわね……。……先生が来たわね。」
笛花先生がやってきた。あの日から気を落としているが、今日はさらに一段と気を落としている。何かあったのかな……?
笛花奏
「おはようございます……。……古金さんが戻ってきました。」
教室全体がざわついている。古金さんが帰ってきた……?
でもそれなら喜んで良いはず……なんだけど……どうしたんだろう……?
笛花奏
「古金さん。入ってらっしゃい……。」
古金ミカ
「失礼します。」
……古金さん? いつもと様子が違う。
姿が見える。僕は驚愕した。姿は何も変わってはいなかった。……だけど……
古金ミカ
「皆さんお久しぶりです。皆さんにはご心配をおかけいたしました。これからは心機一転し、頑張って参りますのでよろしくお願いいたします。」
古金さんが喋り終わると、教室はさらにざわついていく。
来川ナナ
「ミカ……!? あれ、ミカなのよね……!?」
星野シキア
「え、ええ……。あの父親何したのよ……!?」
さすがの2人も動揺をしている。
そして……僕も驚きを隠せなかった。古金さんのあの性格が何もかも変わってしまったことを……。
そして古金さんの綺麗だった紺青の瞳も今は濁りきった黒色になっていた…………。




