第1章 緑草に包まれて(星野シキア編)中編
六郭星学園Kクラス教室
翌日……教室に入ると、星野さんがいた。
星野シキア
「おはよう。」
真瀬莉緒
「おはようございます。」
ペアを組んで、まだ1日。どこかぎこちない。
何か話そうかと思った時に、星野さんの方から話を振られた。
星野シキア
「ねえ、課題だけど……。音楽系で。」
真瀬莉緒
「えっ……。」
いきなりだったため、言葉が出ない。僕自身は音楽はやらないつもりでいたが、相手から言われ、少し動揺をしている。
星野シキア
「莉緒は……楽器弾けるんでしょ。私も楽器弾けるの。エレキギターね。」
真瀬莉緒
「エレキギター? すごいですね!」
星野シキア
「……まあね。お互いに楽器弾けるんだったら音楽を弾きましょうよ。」
真瀬莉緒
「そうですね。それなら……作曲ですかね? でもせっかくなら星野さんの実力を見てみたいです。」
星野シキア
「そうね。じゃあ、放課後音楽室に行きましょうか。」
真瀬莉緒
「はい。そうしましょう。」
僕たちは放課後に音楽室に行くことを約束して、今日のオリエンテーションを受けた。
そして、約束の放課後になった。
六郭星学園 音楽室
真瀬莉緒
「ここが……音楽室……。広いな……。」
星野シキア
「ええ、すごいわね。かなりの設備ね。」
音楽室はかなりの広さで、ありとあらゆる楽器が置かれている。さすがは母校が合併しただけある。
星野シキア
「それじゃあ、弾くわね。」
星野さんはエレキギターを即興で弾く。即興で弾いた割にはすごく良い出来だった……。ただ、星野さんの表情はどことなく、不安と迷いがあった。
星野シキア
「どうかしら?」
真瀬莉緒
「すごいです。それでは……僕も。」
僕は星野さんのエレキギターを手に取り、かき鳴らす……。
エレキギターを弾き終えると星野さんは驚いた様子で見ていた。
星野シキア
「…………。なかなかやるわね。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
僕は素直にお礼を言った。
星野シキア
「やっぱり……私には夢を持つこと……」
真瀬莉緒
「夢……?」
疑問に思ったその時、音楽室の片隅からアコースティックギターの音が聞こえてきた。
真瀬莉緒
「アコギ……? 誰が弾いているんだろう?」
星野シキア
「タクトよ……。」
真瀬莉緒
「タクト?」
星野シキア
「月川タクト。私の知り合い。彼もギターを弾くけど、私とは違う。」
真瀬莉緒
「星野さんとは違う?」
星野シキア
「タクトは夢を追いかけているの。私と違ってね。」
夢……? 私と違ってってことは……星野さんには夢がないのかな?
星野シキア
「タクトは……私にとってはある種の憎き存在なのかもしれないわね。……まあ、そろそろ寮に入る準備をしましょう。」
真瀬莉緒
「…………はい。」
僕は星野さんについて心残りがあるまま、音楽室を離れた。
六郭星学園寮 莉緒の部屋
真瀬莉緒
「ここが……僕の部屋か……。」
部屋は1部屋に2人入る。つまり、もう1人の人と1年間過ごすことになる。どんな人と一緒になるのか……緊張する。
緊張を抱えたまま、ドアを開ける。
真瀬莉緒
「…………!?」
部屋の中にいたのは目が見えるか見えないかぐらいの髪型で、目つきも悪い男子だった。
第1印象は……怖い。それしかなかった。
??
「こんばんは! 君が僕の部屋のパートナーだね!」
真瀬莉緒
「あ、はい!」
その人は笑顔で迎えてくれた。怖い人ではなさそうだ。
月川タクト
「僕は月川タクトです。よろしく!」
月川タクト……? 星野さんが言っていた人かな?
真瀬莉緒
「真瀬莉緒です。Kクラスです。よろしくお願いします。」
月川タクト
「よろしく! ……ところで、Kクラスってことは……シキアのクラスかな?」
真瀬莉緒
「はい。そうです。……ところで、さっき音楽室でギターを弾いていたのは……?」
月川タクト
「そうだよ。俺は夢があってさ、声優さんに作曲をしたいという夢があるんだ。」
真瀬莉緒
「そうなんですね。夢……ですか。」
月川タクト
「……も、もしかしてシキアのパートナー?」
真瀬莉緒
「は、はい。そうです。」
月川タクト
「そうか……さっきのエレキギターはシキアのか……じゃあ、シキアの夢のこともまだ教えてもらってはないかな?」
真瀬莉緒
「そうですね……。なんか……夢に対して否定的な様子はありますね。」
月川タクト
「やっぱり……シキアにも音楽の才能はあるとは思うんだけど……。」
真瀬莉緒
「あ、彼女に何があったのか知っているんですか?」
月川タクト
「うん。けど……俺から話すことではないね……。」
真瀬莉緒
「そうですか……。」
月川タクト
「ところでさ……。もしかして双子?」
真瀬莉緒
「はい。志奈という姉がいます。」
月川タクト
「やっぱり! どおりで似ていると思ったんだ。君のお姉さん、僕の課題のパートナーなんだ。」
真瀬莉緒
「そうなんですね! 姉をよろしくお願いします!」
月川タクト
「もちろん、それにかしこまらなくて大丈夫だよ! フランクに行こう! 莉緒!」
真瀬莉緒
「あ、うん。よろしく!」
月川タクト
「じゃあ、俺は少し出かけるからゆっくりしていてね。」
そう言ってタクトくんは部屋から出て行った。
せっかく1人になれたから、あれを見ようと思った。
最近ハマっているVtuberの動画だ。名前は綺羅星メルマ。ここ最近で登録者数が60万人を超えた、今1番勢いのある女性Vtuberだ。
綺羅星メルマ
「星々のみんな〜! みんなのアース。綺羅星メルマで〜す!」
いつものかけ声にいつもの挨拶。最近の心の拠り所だ。
タクトくんの机をふと見ると、綺羅星メルマのステッカーが置いてあった。
彼には趣味を隠す必要はあまりないかもしれない。
その後、楽しく綺羅星メルマの動画を見た後、寝る支度の準備をした。
真瀬莉緒
「さて……寝るとするか……。」
そう呟き、寝床についた。
六郭星学園 音楽室
昼休みに僕は星野さんに誘われて、音楽室に向かっていた。
真瀬莉緒
「今日も練習するんですか?」
星野シキア
「ええ、せっかくだから練習するわよ。」
音楽室のドアを開けるとそこにはタクトくんがいた。
月川タクト
「お、シキア。練習か? なら一緒に練習する?」
タクトくんは気軽に声かけてくれた。……けど。
星野シキア
「嫌。」
月川タクト
「…………。」
その一言を聞いたタクトくんはムッとした表情になった。
このままだと喧嘩になりかねない。僕は星野さんにこう言った。
真瀬莉緒
「星野さん。もし良ければ、別の場所で練習しませんか?」
星野シキア
「そうね。じゃあ……せっかくのパートナーだから私の憩いの場所を教えてあげる。そこで練習をしましょう。」
真瀬莉緒
「はい! そうしましょう!」
月川タクト
「…………。」
僕はタクトくんに頭を下げたあと、音楽室から離れた。
六郭星学園 裏庭
星野さんに言われるがままついていく。ついた先はあたり一面が緑草が生えている。ここらへんは静かなのか、小鳥のさえずりが聞こえる。
真瀬莉緒
「ここは……?」
星野シキア
「ここは私のお気に入りの場所。昔はここで練習していたの。」
真瀬莉緒
「そうだったんですね。」
たしかにここはとても静かで、緑草の匂いもいい匂いで居心地のいい場所だ。
星野シキア
「元々ここの敷地は私がいた、高等学校の敷地をさらに拡大させた場所だから、この場所も2年くらい使っているの。」
真瀬莉緒
「居心地良い場所……ですね。」
星野シキア
「ありがとう。そう言われるとこっちまで嬉しくなるわ。お世辞が上手いわね。」
真瀬莉緒
「本当のことを言っただけですよ。」
星野シキア
「そうしておくわ。」
満足気に星野さんはそう言う。
星野シキア
「さて……作曲をするのならコンセプトを考えないとね。」
星野さんはそう言うと若竹色の柄の鉛筆とノートをカバンから出す。
真瀬莉緒
「若竹色って珍しいですね。」
星野シキア
「やっぱり? でも私は若竹色が好きよ。」
そう言うと意気揚々と若竹色について話してくれた。
星野シキア
「若竹色って赤とか青とかと比べるとたしかに認知度や知名度は少ないけど、私にとっては1番好きな色なの。若竹色は淡く優しい色って気持ちがして、心の底から楽しくなるの。……ただ、タクトも若竹色が好きだからそこだけは懸念点ではわるわね。まあ、若竹色が好きってのはとてもわかるけどね。」
若竹色について話してくれる。その時の星野さんには笑顔が出ていた。
本当に若竹色が好きなんだろう。
僕はその好意を尊重しなければならない。星野さんの話を真剣に聞いた。
星野シキア
「それでね……。……あ、ごめん。もうそろそろコンセプトを考えましょうか。」
真瀬莉緒
「あ、はい。そうですね。コンセプトは……何にしますか?」
星野シキア
「そうね……。楽器をただ鳴らすのだけじゃあ味足りないわね。……作曲にする?」
真瀬莉緒
「作曲……?」
星野シキア
「ええ。……あまりしたくはないけど……どうかしら……?」
僕は特に考えていなかったから拒否をする理由はなかった。
真瀬莉緒
「わかりました。作曲にしましょう。」
僕がそう言うと星野さんはゆっくりと頷いた。
真瀬莉緒
「それじゃあ、コンセプトは何にしますか?」
星野シキア
「そうね……ちなみに莉緒は何か考えているの?」
真瀬莉緒
「そうですね……。この声優さんに曲を提供する程でやってみますか?」
そう言って、僕は携帯から声優さんの画像を星野さんに見せる。
星野シキア
「…………。」
真瀬莉緒
「星野さん?」
星野さんは声優さんの画像を見ると目を逸らす仕草が見られた。この声優さんはあまり好きではないのだろうか?
星野シキア
「いえ……大丈夫。いいわ。そうしましょう。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。じゃあ早速曲調あたりを決めて行きましょう!」
僕たちは曲調はどうするかをひたすら考えていた。思いのほか長引き昼休憩が終わりそうなため、僕たちは放課後に音楽室に向かった。




