第2章 グレーな疑惑(柊木アイ編)後編
六郭星学園寮 ロビー
寮に戻ると人がたくさん集まっており、騒がしかった。
柊木アイ
「なんか騒がしいね?」
真瀬志奈
「本当ですね。何かあったのかしら……?」
あたりを見渡すと月川さんがいた。
月川タクト
「ああ、2人とも。何か生徒会長が集まって欲しいって言って集めたらしいよ。」
柊木アイ
「生徒会長が……?」
そこに生徒会長らしき人物が、私たちの目の前に現れた。
伊剣タイガ
「生徒会長の伊剣タイガです。みなさん夜中に申し訳ありません。」
生徒会長の伊剣さんは淡々と話をする。
伊剣タイガ
「……みなさんの中にはわからない方も多いと思いますが……六郭星学園の生徒が行方不明になっております。」
ロビーにいる人たちがざわめく……
行方不明……?
伊剣タイガ
「行方不明になったのは全員で5名。クラスは5名に共通点や関係性は無く、クラスもバラバラです。警察にも届け出を出しているそうです。行方不明になった方の知り合いで場所を知っている方、もしくは心当たりがありましたらすぐに先生方に報告をお願いいたします。」
柊木アイ
「行方不明に……クラスもバラバラ……なんか不気味だね……」
真瀬志奈
「はい……。」
伊剣タイガ
「そして、この地域にて獣らしき生物が出没しているとの連絡がありました。1頭が2日前に、トラックにはねられておりますが、昨日に同時間帯に5ヶ所で目撃情報が入っております。出かける方は要注意してください。以上で緊急連絡を終わります。遅くに申し訳ありません。」
そう言って、緊急連絡は終わった。
柊木アイ
「なんか……怖いね。」
真瀬志奈
「はい……そうですね……。」
その連絡聞いたあと、私たちは後味悪く、それぞれの部屋に戻った。
六郭星学園 寮 志奈・ミカの部屋
古金ミカ
「…………。」
珍しく古金さんが、悩んでいる。あの時の表情よりもかなり真剣だった。
真瀬志奈
「古金さん……?」
古金ミカ
「えっ……あぁ……ごめんね〜。どうかしたの?」
真瀬志奈
「……やっぱり行方不明の人と柊木さんのお母さま……何か関係があるんですね。」
古金ミカ
「……関係あるかって?」
真瀬志奈
「はい。」
古金ミカ
「…………あるかないかと言えば……ある。」
真瀬志奈
「やっぱり! 行方不明になった人は一体どうなるんですか!?」
古金ミカ
「わからない……けど、私はおそらく……私の親がやっていることと同じだと思うわ。」
真瀬志奈
「やっていること……? それは一体なんですか?」
古金ミカ
「…………。ごめん……。それはまた今度でいいかしら……。」
真瀬志奈
「…………。ダメです。教えてください。」
この時に聞かないと、もう聞けないかもしれない。そう思い、私は問い詰めようとした。
古金ミカ
「……研究のスポンサーよ。」
真瀬志奈
「……研究? 何の研究ですか?」
古金ミカ
「そこはわからないわ……ただ、何か関係はあると思うのよ。」
真瀬志奈
「………………。」
部屋に沈黙が走る……。その日はお互いに口を聞くのはやめた。
六郭星学園 Eクラス教室
真瀬志奈
「…………。」
翌日になってもあれ以来、私は授業中も上の空になっている。
鹿崎咲也
「ん? 真瀬……大丈夫か?」
真瀬志奈
「えっ……はい。申し訳ありません。」
鹿崎咲也
「そうか……まあこんなときもあるさ。気をつけろよ。」
真瀬志奈
「はい……。」
柊木さんは……お母さまがやっていることは知っているのか……聞こうかな……
柊木アイ
「…………。」
柊木さんがこちらを見ている。授業のチャイムが鳴ると私のところに近づいてきた。
柊木アイ
「ちょっと放課後話そうよ。」
真瀬志奈
「あ……はい。」
珍しく柊木さんが真面目な様子でそう言った。
そして……放課後に教室に2人きりになった。
柊木さんはためらいながらも口を開いた。
柊木アイ
「ねえ、もしかしてミカに聞いているよね。僕のお母さんのこと……。」
真瀬志奈
「…………はい。」
私は正直に言った。
柊木アイ
「そっか……。やっぱり……僕のお母さんは……」
真瀬志奈
「柊木さん……もしかして本当はやっていることを知っているんですか?」
柊木アイ
「……うん。でも……1人だけの母親……。信じたいんだ。でも僕は本当は母親が怖い……。苦しい……。」
真瀬志奈
「柊木さん……」
柊木アイ
「おかしいと思うときはあるんだ。水族館に行った時も……軽自動車だったでしょ。母親は……僕にお金をかけたくないんだ……。」
真瀬志奈
「お金を……?」
柊木アイ
「これ……見て。僕の食事。」
真瀬志奈
「……! これって……!」
写真に写っていたのは白米とウインナーだけ……
奥の写真に写っているお母さまの食卓にはビフテキやフカヒレが置いてある。
真瀬志奈
「酷い……酷すぎます!」
柊木アイ
「365日。ずっとこれ。ピザなんてものも食べさせてもらえなかった。でもお母さんのことは絶対。そう思ってきた……でも僕は……」
真瀬志奈
「で、でも……お弁当は好きなオレンジ弁当とか作って……」
柊木アイ
「それもメイドさんたちがあまりにも可哀想だったからって……せめてでも……って作ってくれたんだ……。内緒で……嬉しかった……それから、時々お弁当を作ってくれたり、一緒に作ったりした……。じいちゃんも支えてくれた……水族館のこともじいちゃんは多分母親に言ってないと思う。」
真瀬志奈
「柊木さん……。」
柊木さんはだんだんと大粒の涙が出てきていた。
柊木アイ
「楽しかった……真瀬さんといる時間は……。僕は好きなことが出来ずにずっと過保護に育てられていた……けど、寮になって自由になれた。そう思ったんだ。……嬉しかった……。そこに真瀬さんもいる……今は最高……に……楽しい……。」
真瀬志奈
「柊木さん……それは過保護じゃない……虐待よ。」
柊木アイ
「虐待……? ………………。」
柊木さんはそのまま沈黙していた。
真瀬志奈
「虐待でしかないわ。今からでも遅くない。お母さまと縁を切るべきよ。」
柊木アイ
「…………そう言われても……。」
真瀬志奈
「そう言われてもじゃない!! このままで本当に良いの? 良くないわよ! 柊木さんには柊木さんの人生があるのよ。それを邪魔をする親なんてどこにいるの!」
柊木アイ
「…………。」
真瀬志奈
「あっ……ごめんなさい……。でも、考えて欲しいです。縁を切ることを……。それにお母さまには裏があるって……。」
柊木アイ
「…………。」
真瀬志奈
「きっとまた被害者が増えるかもしれないですし、縁は切らずともやめさせることをしないと……。」
柊木アイ
「真瀬さん……。…………わかった。お母さんと話してくる!」
真瀬志奈
「柊木さん!」
柊木アイ
「待っててね。僕……変わらないと! 今から行ってくる!」
真瀬志奈
「その調子です! 頑張ってください!」
柊木アイ
「それでさ……少しお願いがあるんだけど……。」
真瀬志奈
「はい。なんでしょうか?」
柊木アイ
「勇気を出すために真瀬さんの作曲を聞きたいんだ。お願いします。」
真瀬志奈
「お安い御用です! では音楽室に行きましょう!」
六郭星学園 音楽室
私たちは音楽室に行き、私はピアノに手をつけた。
真瀬志奈
「……柊木さんもせっかくならベース……弾きますか?」
柊木アイ
「……うん! 弾こうか! では……。」
私たちは音楽室で、作曲した曲でセッションをする……
セッションが終わり、柊木さんは笑みを浮かべる。
柊木アイ
「楽しい……! 楽しいよ、真瀬さん! 僕……お母さんと話してくるよ!」
真瀬志奈
「柊木さん……! 応援しています!」
柊木さんが前向きなり、私は安堵した……。
はずだった。
六郭星学園 Eクラス教室
教室に入ると夜坂さんと月川さんがいた。柊木さんは……まだ教室にいない。
月川タクト
「アイのやつ……遅いな……。」
夜坂ケント
「そうだな……。今頃ならもう席に座っているはずだが……。」
2人とも不安な表情になっている……そして……その2人の不安が現実になった。
始業のチャイムが鳴る。鹿崎先生が教室に入ってくる。そして……
鹿崎咲也
「みんな……おはよう……。」
鹿崎先生も元気がない。そのあと、信じがたい一言が発せられた。
鹿崎咲也
「柊木……柊木は自主退学をすることになることになりました。」
その言葉を聞いた瞬間、教室内がどよめく……。
月川タクト
「嘘……だろ……。」
夜坂ケント
「先生! あいつに何かあったんですか!」
鹿崎咲也
「親の都合……らしい……。」
真瀬志奈
「そ……そんな……!」
私は何も考えられなくなった……柊木さんが……!
そんな……。
柊木アイ
(楽しかった……真瀬さんといる時間は……。僕は好きなことが出来ずにずっと過保護に育てられていた……けど、寮になって自由になれた。そう思ったんだ。……嬉しかった……。そこに真瀬さんもいる……今は最高……に……楽しい……。)
……いや、絶対に違う。柊木さんは自主退学なんてしない……。お母さまが何かを言ったに違いない……!
鹿崎咲也
「先生方の方はまだ柊木の件は会議中になっている。今のところは在籍したままだ。」
月川タクト
「アイは……何かつらかったのかな……?」
真瀬志奈
「違います! 柊木さんは……!」
鹿崎咲也
「ま……真瀬……?」
真瀬志奈
「あ……。」
私は思わず立ち上がってしまったが、慌てて座った。
鹿崎咲也
「……俺も信じたい……。柊木はそんな奴じゃないって……。」
先生……。
鹿崎咲也
「……授業……。やろうか……。」
教室が沈黙に包まれる。やっぱりみんな柊木さんのことを考えているんだろう。
私はもう考えていることは1つしかなかった。
柊木さんを救わなくちゃ……!!




