第4章 若竹色の帽子(月川タクト編) 後編
オーディション会場 控え室
オーディションを終え、私たちは控え室で待っている。他にもたくさんの参加者がおり、全員結果を待っている。
真瀬志奈
「大丈夫かな……。」
月川タクト
「大丈夫だよ……きっと……。それに……落ちたとしても嬉しいよ。僕のことを覚えていてくれた。それだけでも嬉しい。」
真瀬志奈
「タクト……。そうね。でも私たちは頑張ったのよ。タクトも壁を乗り越えたのよ。私たちにはきっと勝利の女神が降りてくるはずよ。」
月川タクト
「志奈さん……。」
そんな話をしていると、審査員が控え室に入ってきた。
審査員D
「皆さまお待たせいたしました。我々で会議を行い、どの曲を歌うのか決まりました。発表いたします。」
いよいよ結果が発表される……
神さま……! お願いします……!
どうか……タクトに奇跡を下ろしてください……!!
審査員D
「……月川様、真瀬様。おめでとうございます!! 協議の結果、お二方の曲に決まりました!!」
月川タクト
「えっ……!?」
や……やった……! 神さま……! ありがとうございます!
真瀬志奈
「やったね! タクト!」
月川タクト
「……うん! やった……! やったんだ俺!」
控え室にいる他の参加者からも拍手の音が鳴り止まない。
参加者A
「おめでとうございます!」
参加者B
「あなた方が作った曲を楽しみにしています!」
月川タクト
「みなさん……ありがとうございます!」
審査員D
「こちらの曲はイベントの会場で生中継で歌います。日時が決まり次第連絡させていただきます!本日はありがとうございました!」
よかった……本当によかった……。私たちは安堵し、オーディション会場を後にした。
六郭星学園 Eクラス教室
教室に戻るとクラスメイトたちに今回の結果を報告すると全員が喜びの声を上げる。
そしてすぐさまパーティが開かれた。
鹿崎咲也
「それではカンパーイ!!」
クラスメイト
「カンパーイ!!」
クラスメイトたちは盛り上がり、のちにKクラスの莉緒たちも合流し、ねぎらいの言葉をもらった。
真瀬莉緒
「姉さんおめでとう!! 自分のことのように嬉しいよ!」
柊木アイ
「本当だね! 僕も嬉しいよ!」
古金ミカ
「ヒューヒュー! おめでとうこの憎いやつ! ヒューヒュー!」
来川ナナ
「おめでとうございます! 嬉しい限りです!」
夜坂ケント
「俺もこんなに嬉しいことはない。おめでとう。」
星野シキア
「色々あったけど……夢叶えたのね。」
月川タクト
「ああ、俺は夢を諦めなかったからな。少しは夢を持ってみたらどうだ?」
星野シキア
「……考えておくわ。」
月川タクト
「今はそれでいいよ。」
星野さんも少しタクトに対して丸くなった。それに今の星野さん少し楽しそう。
そして、タクトから感謝の一言をもらった。
月川タクト
「今回に関しては志奈さんが、いてくれたからこそ、夢を叶えられたんだなって思う。志奈さん……ありがとう。」
真瀬志奈
「私も……タクトのおかげだと思う。タクトいたから曲を作ろうと思ったの。ありがとう。」
月川タクト
「志奈さん……。」
柊木アイ
「はいはい。湿っぽいのはそこまで! 今日はとことんお祝いだよ!」
私たちは苦笑いしながら、今日はいわれるがまま、お祝いされた。
六郭星学園 大講堂
今日はいよいよ卒業式です。
SクラスからKクラスまで全クラスの生徒がずらりと並ぶ。
鹿崎咲也
「ただいまより、六郭星学園卒業式を行います。」
卒業式が始まる。1年間ではあるが、このクラスに出会えてよかったと実感する。
1人1人名前が呼ばれていく。
鹿崎咲也
「月川タクト。」
月川タクト
「はい。」
鹿崎咲也
「柊木アイ。」
柊木アイ
「はい。」
鹿崎咲也
「夜坂ケント。」
夜坂ケント
「はい。」
仲の良かったみんなが呼ばれていく。
そして私も呼ばれる。
鹿崎咲也
「真瀬志奈。」
真瀬志奈
「はい。」
そうか……卒業するんだ……。そう思うと悲しみに溢れていく……
鹿崎咲也
「以上で卒業式を終了いたします。」
そして、あっという間に卒業式が終わる。
本当にあっという間だった。卒業式も学校生活も。
ただ……唯一の救いは……。
月川タクト
「みんな同じ大学に進学するのか……。」
柊木アイ
「まあね。あそこは近くて楽だし。」
夜坂ケント
「それに俺らだけじゃないだろ。」
月川タクト
「ああ、シキアたちもだ。ていうか、こないだの期末テスト上位50人が全員同じ進学先って……。」
夜坂ケント
「偶然も偶然だな……。まあ、楽しくはなりそうだけどな。」
月川タクト
「まあな! そうそう、明日いよいよ俺らが書いた曲が発表されるんだ! せっかくだから見てよ!」
柊木アイ
「明日になったんだ! じゃあみんなで見ようか!」
月川タクト
「ああ……それだけどさ……悪い! 志奈さんと2人で見たいんだ。」
夜坂ケント
「2人で……? 構わないが……何かあるのか?」
月川タクト
「うん、ちょっとね……いいか?」
柊木アイ
「うん! 楽しんでね!」
月川タクト
「ありがとう!」
六郭星学園 莉緒・タクトの部屋
翌日……タクトから部屋に招待された。莉緒はどうやら柊木さんたちの部屋におり、2人きりだ。
タクトと私はソファーに座り、生中継を見て待っている。
月川タクト
「いよいよだね。志奈さん。」
真瀬志奈
「そうね。私たちの曲……どんな歌詞なのかもここでわかるわね。」
月川タクト
「歌詞か……。あのさ……今回の歌詞だけど……。」
真瀬志奈
「あっ!始まった!」
月川タクト
「…………。」
生中継のMC
「それでは……声優を代表してお歌を披露していただきます!どうぞ……!」
男性声優
「それでは聞いてください。彼の思う気持ちを心に乗せて歌います……。」
そして、ステージが上がる…………
曲が終わる……会場は沈黙に包まれる……
そして…………すぐに歓声の声が広がる……
真瀬志奈
「よかった……でもこれって……。」
月川タクト
「そうなんだ……。志奈さん……。」
歌詞を聞いてはっきりとわかった。これは私のために書いた歌なんだって……
月川タクト
「志奈さん……! 僕の気持ちは変わりません。パートナーではなく恋人として、付き合ってくれませんか……?」
真瀬志奈
「え……?」
そういえば……タクトから恋の表現がなかったな……そうか……あの時は私の早とちりだったかも……。
でももう関係ない。もう答えは決まっているじゃない。
真瀬志奈
「もちろん。私たちはもう恋人じゃない。」
月川タクト
「志奈さん……!」
真瀬志奈
「タクト!」
私たちは熱い抱擁をし、止めどない会話をした。
月川タクト
「僕は不器用だけど……ギターしか弾けないかもしれない。そしてまたトラウマに閉じ込められるかもしれない。それでもいいなら……」
真瀬志奈
「もちろん。もちろんよ。」
月川タクト
「…………。」
虹谷サイ
「彼は違うのか……。すると……他の誰かか……。まあいい、次へ行くか……。」
月川タクト編 完




