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違和感ある勝利

「…………」


「レオ!」


「はいっ!!」


 これからジェロニモの潜む領都への攻撃が始まるというのに、レオはどこか上の空という状況だった。

 無言で他のことを考えてるところを、ガイオからの呼びかけでようやく現状に気が付いた。


「ボ~っとしてるなよ!」


「はい! すいません!」


 ジェロニモがまたスケルトンを製造したのだろうが、人型のスケルトンは少なく様々な動物のスケルトンが揃えられている。

 魔物や動物の骨を利用しているのだろう。

 人型が少ないということは、市民への被害も少なく済んだということになる。

 ジーノの機転のお陰で、ジェロニモたちを遠回りさせたのは正解だったようだ。

 大人数の魔導士兵を使って崩れた渓谷の岩をどかし、通行できるようにした王国軍の進軍が速かったのも功を奏したのだろう。

 それでも、2、3日程度でここまでの数を揃えたのはすごいことだ。

 改めてジェロニモの魔力量の恐ろしさを感じる。


「セバスに言われたことが気になっているんだろうが……」


「いえ……大丈夫です!」


 セバスティアーノにエレナとのことを考えるようにいわれて、レオは考え込むようになっていた。

 エレナに対しての自分の感情が友人としてなのか、それとも違うものなのか。

 いくら考えても分からないでいた。

 しかし、これから戦いが始まるというのに、呆けているのは危険だ。

 ガイオの忠告を遮るように、レオは気持ちを切り替えた。


「まぁ、敵が何しようが俺たちの出番はないがな……」


 スケルトンをまた増やしたようだが、所詮数では王国軍に遠く及ばない。

 レオたちはスケルトンドラゴンの破壊の任務をこなしたので、今回は他の兵が攻め込むのを見ているだけで済むだろう。

 呆けているのは良くないが、気を張りつめるほどの位置ではないといったところだ。


「おっ!! 始まった!!」


 話しているうちに、両軍の進軍が開始された。

 スケルトンの脅威は数による包囲攻撃であり、今回は王国軍の方が兵数では勝っている。

 そのため、戦いの状況はすぐに変化した。

 王国兵たちの攻撃によって、どんどんスケルトンの数が減らされていっている。


「にしても、敵の士気が低いような……」


 スケルトンの背後に控えているルイゼン軍の者たちは、慌ただしく動き回っているように感じる。

 こうなることぐらい想定していたはずなのだが、何か戦いに集中していないようにも思える戦い方になっている。


「メルクリオ様!」


「どうした?」


「敵陣にジェロニモの姿がないそうです!!」


「何っ!!」「なっ!!」


 スケルトンに混じって、とうとうルイゼン軍の兵士たちも戦いに参加しなくてはならなくなった。

 ルイゼン軍の兵も、スケルトン同様王国兵の数に押されて倒されて行く。

 その中で捕まえた兵から聞いたらしく、ルイゼン側が慌てている理由がメルクリオに報告された。

 メルクリオの側にいたレオにもその報告が聞こえていたため、思わずメルクリオと同じタイミングで驚きの声を会えると共に、報告に来た兵に目を向けた。


「海から逃げたのか!?」


「いいえ! こちらは海上にも兵を置いております。逃げ出せばすぐに発見できるはずです!」


 姿がないということは、軍を置いて逃げ出したということ。

 トップでありながら、命を懸けて戦う部下たちを捨てるなど最低の行為に他ならない。

 その行為に怒りを覚えながら、メルクリオはジェロニモがどこへ逃げたのかを確認する。

 逃げるなら海外逃亡しかないため、海から逃げたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

 しかし、報告に来た兵の言うように、王国側が海から攻められなくても逃がさなくするためにいくつもの船が配備されている。

 逃げればすぐにでも沈められているはずだが、そのような報告は入ってきていない。


「捕まえた兵の話では、開戦直後にいなくなったとのことです!」


「おのれっ! 奴はどこへ行った!?」


 どこかへいなくなるということは、ジェロニモは誰にも話していなかったらしい。

 スケルトンがやられ始めたのを報告に行った時には、コルラードと共に姿を消していたとのことだ。

 海ではないとなると、ルイゼン領のどこかに逃げているということになる。

 しかし、味方の兵ですら分からないとなると、広いルイゼン領内から見つけるのは少々難しい。

 ジェロニモを探し出さないと、またスケルトンを増やして面倒なことになる。


「っ!! どうやら陛下にもこの報告が伝わったようだな。降伏勧告をしたようだ」


 レオやメルクリオより先に、王のクラウディオにこの報告が言ったのだろう。

 この戦いを終わらせて、すぐにでもジェロニモの捜索に当たるために、敵側に降伏するように兵を送ったらしい。

 スケルトンも倒され、トップがいなくなったルイゼン軍はその勧告に従ったのか、次第に抵抗が弱まっていった。

 それにより、武器を捨てたルイゼン軍の兵たちは、大人しく王国兵たちに捕縛されて行った。






◆◆◆◆◆


「フッ! 今頃王国の奴らは俺がいないことに慌てていることだろう!」


「……左様ですね」


 王国の勝利で戦いが終わる頃、ジェロニモとコルラードは遠く離れたルイゼン領西の地へと来ていた。

 この地に王国軍が来るには、1日はかかるだろう。

 もしも、ここにいると伝わった時にはまた逃げればいいため、ジェロニモは余裕の表情でコルラードへと話す。

 ジェロニモの言うように、確かに慌てていることだろう。

 王国軍だけでなく、残してきたルイゼン軍の者たちも。


「しかし、本当にルイゼン領のことは宜しいのですか?」


「あぁ、国を興そうなど、元々は父が言い出したことだ」


 今後王国側は、ルイゼン領内をローラー作戦でジェロニモの行方を捜しにかかるはずだ。

 ここにもたいして時間がかからないうちに足を伸ばして来るだろう。

 軍を制圧したのだから、ルイゼン領は完全に王国側に落ちたということだ。

 エレナと共にルイゼン領を発展させることを夢見ていたはずなのに、ジェロニモはそれを完全に斬り捨てたようだ。

 国を興すということへの興味が完全に失せているような返答だ。

 たしかにムツィオが言い出したことだが、この領出身のコルラードとしては、捨て去ることに少しだけ躊躇いが生まれていた。


「お前だけは付いてこい!」


「はいっ!!」


 開戦直後に聞かされた逃亡計画。

 誰にも言わず、自分だけがジェロニモに選ばれたことに嬉しさを覚えていたが、段々とそれが正しかったのか疑問に思えてきた。

 それでも、自分は幼少期にジェロニモに生かされた身。

 ジェロニモがどのような選択をしても、それについて行くと決めている。


「これまで通り手駒を増やす。お前は魔物を倒してこい」


「了解しました」


 ルイゼン領西の地にある森。

 魔物の数は多いが、弱い魔物ばかりが潜んでいる。

 スケルトンにしてしまえば生前の能力は落ちるため、ならば質より量と集めに来たのだ。

 ジェロニモの剣の腕は、引きこもっていたせいか一般兵以下。

 コルラードを連れてきたのは、その剣の腕をかってのものだ。

 幼少期にジェロニモに生かされたことで、コルラードは勉学と共に剣に力を入れた。

 その実力は、ルイゼン領内でもトップクラスにまでなった。

 忠誠心とその剣技によって、ムツィオも秘書にまで引き上げたといういきさつがある。

 弱い魔物とは言っても、スケルトンのいないジェロニモでは戦うのは危険だ。

 そのため、コルラードに魔物集めを指示した。


『国などいらん!! 俺にはエレナさえいればいい!!』


 ジェロニモの中で、もうルイゼン領のことなどどうでもよくなっていた。

 コルラードだけは連れてきたことから、信用しているのかと思うがそうではない。

 エレナを手に入れるために必要だから連れてきただけだ。

 ジェロニモの頭の中で、自分が必要な人間と思われていないとは知らず、コルラードは魔物を倒しに森の中を進んで行ったのだった。



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