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年寄りの知恵

「っ!! まさか奴ら!!」


 砦の防壁の上から、眺めるようにしてスケルトンを操っているレオ。

 ガイオたちの協力により多少の余裕ができたからか、 スケルトンたちの後方に控えているジェロニモたちの陣に異変を感じた。

 スケルトンたちをこのまま攻め込ませ、奴らが逃走を図るつもりなのだということが、レオにはすぐに理解できた。


「どうやら逃げるつもりのようじゃの……」


「くっ!!」


 レオと同じく砦の防壁の上に立ち魔法を放つジーノも、同じように敵陣の様子に気が付いていた。

 自分の思った通り逃走をしようとしていることに、レオは悔しい気持ちで歯を食いしばり、従魔であるクオーレに目を向ける。


「……まさか、追いかけようと思っとらんじゃろな?」


「…………」

 

 魔法の師匠として見てきたからか、レオの性格から何か考えているということにジーノは気付く。

 しかも、クオーレを見たとなると、転移して止めに入るつもりなのかと考えられた。

 その考えが的中したらしく、レオは気まずげな表情をして黙り込んでしまった。


「ならんぞ!」


「しかし、このまま逃がしては、またスケルトンを増やすことになります!!」


「だからと言って、お主が行ってどうする!?」


 気付けたのは正解だった。

 レオはジェロニモに逃げられて、また態勢を整えられることを嫌ったのだろう。

 しかし、王国にとって最悪の問題だったスケルトンドラゴンの破壊は成功した。

 スケルトンをまた増やされたといっても、脅威に感じることはないはずだ。

 ここで仕留めてしまいたいという気持ちは分からなくないが、ジーノはレオの無謀な考えを強めの口調で止めた。


「人形たちの魔力は切れており、お主自身の魔力も消耗しておる! 転移しても足止めどころか何も出来んじゃろうが!」


 以前奇襲をかけたようにクオーレの影移動を使えば、たしかにジェロニモたちの近くに移動することができるだろう。

 しかし、それができたとしても、相手は多くの兵を無傷のまま残している。

 それに対し、ここまでの戦闘でレオは人形たちは使い果たし、自身の魔力もかなり消耗している。

 クオーレは兵の避難をするために魔法で影を使っており、エトーレもパラシュートや足止めの補助などで魔力を使っているため、いつものようにレオの援護ができるとは限らない。

 人間を相手にした場合、操り糸もほんの数秒しか止めることはできないと、能力の開示時にレオ自身が言っていたことだ。

 クオーレの能力で、もしもレオが敵軍を先回りして立ち塞がったとしても、何もできることなどないはずだ。

 そのことを言い含めるようにして、ジーノはレオの考えを止めようとした。


「あいつの能力に使われているスケルトンは、恐らく人間の死体です。死者を冒涜するようなことをこれ以上させる訳にはいきません! それに……」


「……スケルトンを作るために人間を殺すかもしれんか? いや、もしかしたら……」


 スケルトンの材料は人間の骨、レオたちの誰もが薄々気が付いていた。

 では、その材料となる骨はどこから入手したのだろうか。

 まず考えられるのは墓。

 ゾンビなどの魔物へ変化しないように、この世界では遺体は火葬されるのが基本となっている。

 火葬した骨を、墓から持ってきてスケルトン化させているというのが思いつく。

 次に考えられたのが、ここまでの戦いで死んだ兵。

 敵なら当然のこと、味方でも利用価値に差などない。

 最後に考えられたのが、何の罪もない平民。

 父のムツィオと同様に、ジェロニモも兵や市民を強制奴隷にしてしまう人間だ。

 生きていれば奴隷として、死んだのならスケルトンとして利用する。

 それくらいのことを平気でおこなっていることだろう。

 そうなると、今回のことでスケルトンを使って逃げられたら、その補充をするために手っ取り早く殺してスケルトン化させるという選択を取るかもしれない。

 そう考えると、レオとしてはこのままジェロニモを逃がすのを良しとしたくないのだ。

 レオの言いたいことが分かったジーノもそのことに思い至り、渋い表情へと変わった。

 ただ、ジーノはレオと違い、もうすでにそう言ったことがおこなわれているのではないかと思い始めていた。


「言いたいことは分かったが、お前を行かすわけにはいかん!」


「しかし……」


「まぁ、聞け!」


 少しでも市民に手出しをさせないように、この場で何としてもジェロニモを止めたいというレオの気持ちは分かった。

 だからと言って、行かせてレオの命を散らせるわけにはいかないため、結局ジーノはレオを止めた。

 止められても気持ちが納得いかないのか、レオは反論しようとする。

 それを遮るように、ジーノはレオの言葉に被せた。


「ワシは魔法だけのジジイではない。年寄りの知恵を聞くんじゃ!」


「知恵……ですか?」


「あぁ」


 別に魔法だけの老人だとは思っていないが、どうやらジーノには敵軍の退却を止める何かを思いついているらしい。

 どんな知恵があるのかは分からないが、ジェロニモたちを止められるなら何でもいい。

 自信ありげに返事をするジーノを見て、レオはその考えに乗ることにした。


「何をすれば良いですか?」


「そうじゃな……、まずは、クオーレ!」


「ニャッ?」


 スケルトンの相手をしながら、ジーノはクオーレを手招きする。

 ガイオが来たこともあり、ドナートとヴィートもスケルトンの相手には余裕がある。

 そのため、クオーレはジーノの所へと移動した。


「次にレオ! スケルトンドラゴンに使う予定だったあの爆弾が残っておるじゃろ?」


「えぇ!」


「あれを使う!」


 スケルトンドラゴンを倒すために、レオはドワーフのエドモンドの協力を得て作り上げた爆弾を用意していた。

 結局、鷲型人形との相打ちで倒せることができたため、ジーノの言うように爆弾は残ったままだ。

 どうやらジーノはその爆弾を使って、ジェロニモたちの退却を阻止するつもりのようだ。


「爆弾で敵に打撃を与えるのですか?」


「いいや、違う」


「えっ!?」


 たしかにスケルトンドラゴンを倒すために爆弾を用意していたが、この爆弾はスケルトンドラゴンの頭部を一部でも破壊できればと用意したものに過ぎない。

 スケルトンドラゴンの頭部の一部を破壊するためのもので、広範囲に威力を及ぼすのではない。

 それでも多くの敵を倒すことはできるため、レオはジーノが爆弾を使って敵に打撃を与えるのだと考えたのだが、すぐにそれが否定された。


「クオーレ!」


「ニャッ!?」


 スケルトンの足止めをしながら、ジーノが爆弾を使って何をするか分からずレオは首を傾げる。

 そんなレオを無視し、受け取った爆弾を手にしたジーノはクオーレへ何やら話始めた。






◆◆◆◆◆


「へ、陛下!!」


「何だ!?」


 スケルトンをそのまま攻め込ませ、馬に乗ったジェロニモたちは退却を開始していた。

 背にした戦場が見えなくなり、このまま王城へ戻ってすぐさまスケルトン製造に着手するつもりでいた。

 しかし、以前のように後方から攻められてはいけないと配置していた兵たちが、何故かジェロニモたちを止めてきた。


「後方の渓谷が破壊されました!! 」


「バ、バカな!!」


 兵の思わぬ報告に、ジェロニモは驚きの声をあげる。

 王城のある王都へ続く渓谷。

 ほぼ一方通行となるその渓谷を通り抜けることで王都へとたどり着くのだが、その渓谷が破壊されたということだ。

 そうなると、王都へ行くには西か東の山を越えて戻るしかない。


「貴様ら!! 何をしていたのだ!?」


「申し訳ありません!! 突如爆音と共に渓谷の岩が崩れ落ちて来まして……」


 ジーノが狙ったのは、この渓谷を破壊しての足止めだ。

 クオーレの影移動を利用して、遠く離れたこの地へ爆弾だけ転移させたのだ。

 距離が離れればその分クオーレも魔力も消費してしまうが、爆弾だけ飛ばすならここまで離れていても届くはずだと判断したのだが、どうやら成功していたようだ。


「クッ! 東だ! 東の山から戻るのだ!!」


「了解しました!」


 西か東かで言えば、東の方が恐らく王都に近い。

 そのため、ジェロニモはすぐさま東の山越えを指示したのだった。



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