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捕縛

「久しぶりだな……」


「どうも……」


 この戦いのために集められた精鋭の冒険者たちは、敵の市民兵たちと戦っている状況。

 そして、参戦している貴族とその兵たちはスケルトンたちと戦っている。

 そんな中、戦場でポッカリとここだけ空いた空間ができていた。

 明らかに誘導されたことによるもので、レオはそこに1人残されていた。

 そこに馬に乗った2人組が近付いてきた。

 レオもよく知った顔だ。

 父のカロージェロと兄のイルミナートである。

 馬から降りた2人は、腰に差している剣に手をかけながらレオの少し手前で止まる。

 そしてカロージェロが見下すように話しかけてきたため、レオも一応返事をする。


「どうだ? お仲間から離されてしまった感想は……」


「別に……」


 イルミナートの方も相変わらず父の腰巾着をしているらしく、にやけた笑みをしている。

 相変わらず不愉快な笑みをしているが、このような状況に追い込んだことを自分のお陰だとでも思っているのだろうか。

 スパーノをはじめとした精鋭たちには、自分が囮としてカロージェロたちをおびき寄せるには、孤立するのが一番だと伝え、何とか孤立するようにもって行くことに協力を頼んでおいた。

 なかなか難しいことだと思っていたが、むしろ敵の方からそうなるように仕向けてきたから好都合だった。

 スパーノたちに目配せをすると合図だと気付いたらしく、そのまま孤立するように持って行ってくれた。

 なので、イルミナートの質問に対し特に思うこともなく、レオは適当に答えを返す。


「この状況で助けが来ると思うなよ。お前のせいで俺たちは追われる立場になったんだ。この場でその仕返しをさせてもらう」


 剣を抜いたカロージェロの台詞に、レオとしてはツッコミを入れたいところだ。

 自分のせいというより、父たち自身が色々やらかした結果が指名手配になっただけのように思える。

 そのため、仕返しというのは完全な的外れな考えだ。

 そういったところで、自己中心的なこの2人が納得することはないため、特に反論するのはやめておく。


「……最後に質問して良いですか?」


「良いぞ。我々は寛大だからな。冥途の土産に答えてやろう」


 どうやら2人は自分が昔のまま病弱な人間だと思っているようだ。

 そうでなくても、戦う術を持たない人間だと思っているのだろう。

 完全に勝利を確信しているような物言いだ。

 しかし、それはむしろ好都合。

 レオはその考えを利用させてもらおうと、わざと下手に出ることにした。

 案の定、レオが自分たちを恐れていると感じたのか、カロージェロは尊大な態度で質問の許可をした。


「あの市民たちを強制奴隷にしたのは誰ですか?」


「知らん! 皇帝が連れてきた」


 盗賊や市民を指揮しているのだから、カロージェロが何らかの形でかかわっていると思っていたのだがそうでもないようだ。

 そうなると、ムツィオが奴隷化を誰にさせているか分からない。


「……では、あのスケルトンはどうやって動いているのですか?」


「知らん! あれも皇帝がどこかから連れてきた」


 奴隷化が誰の手によるものなのかをこの2人に聞いても意味ないようなので、もう1つの疑問となるスケルトンのことを尋ねてみた。

 しかし、帰ってきた答えはさっきと同じ。

 ムツィオから重要なことを伝えられていないところを見ると、敵にとってもこの2人はそこまで重要な存在ではないのかもしれない。


「…………使えないですね」


「何だと!?」


 折角の質問も、こっちにとって全く利益にならない返答ばかりだ。

 あまりにも無意味なやり取りに、レオは考えていたことが思わず口から洩れていた。

 その声は小さかったのだが、2人には届いてしまったようだ。

 あっという間にその表情が赤く染まっていく。


「貴様舐めた口を!!」


「出来損ないの分際で!!」


「……指名手配犯が言いますか?」


 怒りで真っ赤になった2人は、剣をレオへと向けて罵倒してきた。

 色々と頭は良くないのに、耳だけは良くてうんざりする。

 聞こえてしまったのならもう下手に出るのも意味がないと、レオは演技をするのを辞めた。

 昔から出来損ないと言われてきたが、犯罪者に言われても何とも思わない。

 むしろ、犯罪者になった2人の方がディステ家の出来損ないと言った方がいい。


「この餓鬼!!」


「殺す!!」


 常にバカにしていたレオに舐められたことが我慢できなかった2人は、すぐさまレオへと斬りかかってきた。

 しかし、2人とも動きが鈍い。

 剣を振り回して来るがレオは冷静に回避する。


「くっ!!」


「チョロチョロ動くな!!」


 ガイオとの訓練を受けていたからか、そんな鈍い攻撃が通用する訳がない。

 ローデラ男爵を斬ったという話だが、足をやられた人間相手に勝っただけで、2人の腕なら普通の兵を相手に戦ったら通用しないことだろう。

 攻撃を躱すレオに、2人はすぐさま足が付いてこなくなっていた。


「そんな訓練不足の剣が当たる訳ないじゃないですか。バカですか?」


「何っ!!」「貴様っ!!」


 祖父はちゃんとした人間だったというのに、何でこの2人はここまで駄目な人間になったのだろうか。

 考えても仕方がないが、ここまで来ると哀れに見えてきた。

 それと同時に、こんなのと血が繋がっていると思うと怒りが湧いてくる。

 そのため、レオは昔バカにされた仕返しをすることにした。

 扱いやすい2人は、思った通り頭に血が上り、振るう剣が更に雑になった。


「「ハァ、ハァ、ハァ……」」


 剣を振り回していた2人は、すぐに息切れして座り込んでしまった。

 せっかく剣術スキルを持っているのに、訓練なんてして来なかったのだろう。

 ここまで酷いとは思わなかったが、楽で良かった。


「エトーレ!」


「なっ!?」「何だこの糸は!!」


 レオが一言呟くと、ポケットの中に隠れていたエトーレが姿を現し2人に糸を飛ばし始めた。

 疲労で動けなくなっている2人は、その糸を躱すことができずにグルグル巻きにされて行く。

 そのまま2人は糸で全身を覆われ、身動きどころか喋ることもできなくなった。


「僕の従魔の特性糸です。2人はこのまま連れ帰ります。知っている情報は吐いて、楽に死ねることを祈るんですね」


 グルグル巻きでも声は聞こえるだろうと、レオは2人に説明をするとともに思ってもいないことを言う。

 さっきの様子だとたいした情報を得られるとは思わないが、王国へ連れ帰ればルイゼン側の情報を全て吐かされることになるだろう。

 その後はどのように扱われるか分からないが、公衆の面前で処刑されることは間違いないだろう。

 そのことが分かっているのか、2人は絡まった糸をほどこうとウネウネと懸命に動いている。

 剣も落としているし、素手でエトーレの糸を抜け出せるほど鍛えてもいないのだから、逃れることなんて不可能だろう。


「レオ! 終わったようだな?」


「えぇ! そっちもみたいですね?」


 2人が無駄な努力をしている所で、スパーノたち精鋭たちがレオの所へと来てくれた。

 どうやら彼らも市民兵たちを倒し終えたようだ。

 これでレオの囮作戦は終了だ。


「すいませんがこれ(・・)を運ぶの手伝ってもらえますか?」


「あぁ! 任せろ!」


 体を鍛えているといっても、成人2人を運ぶのはレオには一苦労だ。

 人形を出せば簡単だが、それはなるべく隠しておきたい。

 そのため、レオはスパーノたちに頼むことにした。

 高ランクの冒険者なら人1人運ぶのなんてたいしたことではないらしく、スパーノともう一人があっさり肩に担いでいた。


「くそっ!! あっちは押されている!」


 市民兵を相手にしていたこっちは無事終了したが、スケルトンと戦っている貴族中心の隊は数に押されてジワジワ後退を余儀なくされていた。

 このままでは撤退をせざるを得なくなるだろう。


「撤退しろ!!」


「レオ!! ずらかるぞ!!」


「はい!」


 思っていたら案の定、撤退の声が聞こえてきた。

 その指示に従い、レオたちはすぐさま撤退を開始した。



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