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第三十二話 マコ、まごつく?(前篇)

前回のあらすじ


・イカとの遭遇

・アシカの骨じゃなかった

・中国、大量の孤児を拉致していた?


 フローティアに帰港した日の夕方。

 福島家ではマコのお別れパティーが開かれていた。今夜遅くにこちらを出て、すぐに翌朝から仕事と言う強行軍だ。

 ツトムに四日間もかまってもらえなかったナリアは、ずっと彼の膝からどかなかった。夕食の後も離れないので、ツトムはソファに移動して、スマホに撮りためてきた画像や動画を見せてやった。ウミウシにタコやイカなどのユーモラスな姿に、ナリアは大はしゃぎだった。

 やがて旅の疲れが出て、ツトムはナリアを抱きかかえたまま一緒にうつらうつらしだした。隣に座るタリアも眠そうだ。

 サリアは下の娘を抱き上げると、ツトムとタリアに言った。

「今日はもう疲れたでしょう。そろそろ寝ると良いわ」

 なんとか瞼をこじ開け、ツトムは体を起こした。

「うん、そうする」

 のろのろと立ちあがり、母親のところへ行く。

「母さん、ゴメン。見送りできなくて」

 マコはにっこりほほ笑んだ。

「いいのよ。あんたも明日から学校でしょ。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 タリアと一緒に二階へと階段を昇ると、踊り場のところでマコが声をかけた。

「夏休みになったら、一度こっちに来るといいわ。なかなかの壮観よ」

 北アフリカでやっている大規模プロジェクトのことだろう。

「そうするよ。じゃあね」

 自分の部屋に引き上げ、着替えもそこそこにベッドに倒れ伏す。床にあったマコの寝具は、留守の間にサリアが片付けてくれたようだ。


********


 ナリアを部屋で寝かしつけ、サリアは食事の後片付けを始めた。

 マコが問いかけてきた。

「お父さん。あの沈没船について、何か知ってるんじゃないの?」

 我が娘ながら、女の勘は鋭いな。

 ナガトは苦笑すると、マコを階段下の談話スペースに伴った。

「さて、どこから話すかな」

 どこまで話すかと言うのもある。さすがに実の娘にも、いや、だからこそ話せないことがある。

「俺が海自にいた時に、ハリケーンにおそわれたサリア達の島へ救助に向かったというのは話したな」

「ええ、聞いたわよ」

 マコはうなずいたが、ナガトは続けた。

「あれはうそだ」

「へ?」

 いきなりのことで、間の抜けた声になってしまう。

「実際は、ハリケーンがあの島を襲う前から、あの環礁の内部に潜入し、調査を行っていたのだ」

「それってつまり……」

「これは本来、家族にも黙ってないといかんのだがな」

 ナガトはためらうかのように言葉を切り、一呼吸置いて続けた。

「俺はただの潜水艦乗りではなかった。米海兵隊のシールズにならって設立された特殊部隊のリーダーで、その母艦となる潜水艇”はるしお”の艦長だったんだ」

「潜水艇? え、でもそれじゃ、見学させてもらった”はるしお”って?」

 ナガトが現役の艦長だったころ、マコは”はるしお”を見学させてもらっていた。”そうりゅう”型の後継で、非常に大きな船だった。潜水「艇」ではない。

「あれは退役した潜水艦を使ったダミーだ。自衛隊は予算も厳しいからな。見える所だけ磨き上げた旧式艦を隠れ蓑にして、特殊部隊を送り込むための特殊潜航艇を密かに建造したと言うわけだ」

 計画のきっかけは、中国が南シナ海のあちこちに違法に作り出した人工島だ。暗礁や岩礁を埋め立てて軍事基地にするという暴挙が続き、日本政府も国防上対応を考えざるを得なかったのだ。当時は、尖閣諸島にそんなものを作られたら、という懸念が何度も取りざたされていた。

 しかし、そうした人工島に表立って艦船や航空機を向かわせることは、憲法九条をはじめとした法的な足かせが重すぎた。そこで、隠密行動が可能な潜水艦が注目されたのだ。

 おりしも、大容量のMg電池が実用化され、今までは原子力潜水艦でなければ担えなかったような長期任務にも、通常動力艦で対応できるようになった。そして、小型の方が目立たず探知されにくい。そこで密かに建造されたのが”はるしお”だった。

「……で、お父さんは何のために派遣されてたわけ?」

 マコは昔から聡い子供だった。社会に出て経験を積んで、さらに鋭くなったようだ。

「あの島に設置された研究所だ。巧妙に隠されていたが、設置した企業の最終的な後ろ盾は中国政府。あんな絶海の孤島に建設するにしては、設備が高度すぎたので、日本の諜報機関の注意を引いたのだ」

「諜報機関なんて、日本にあったの?」

 情報戦ではいつも後手に回っていた感があるのが、マコが今まで抱いていた日本への印象だった。そのせいで、海外で起きた大規模テロに巻き込まれ、派遣されていた多くの日本人が皆殺しになる事件も起きた。

「その事件もきっかけだったようだな。そう、確かその一年くらい後だ。俺に声がかかったのは」

 しばし言葉を切り、ナガトは目を閉じて記憶を巡らせた。

「……おかげで、カスミの死に目にも会えなかったわけだが」

 ナガトが訓練航海に出ている間に、妻でありマコの母であるカスミは、交通事故で亡くなったのだった。

「で、お父さんとその特殊部隊は、具体的に何をやってたの?」

 ナガトはすぐには答えず、キッチンの方に耳をそばだてた。サリアの鼻歌が聞こえてくる。一日の終わりに、必ずサリアはキッチン周りをピカピカに磨き上げる。その時に歌う定番だった。

「ありていに言うと、サリアの夫、タリムの監視だ」

「タリム? それ、どういうこと?」

 およそ国防とか安全保障とは関わりそうにない名前に、マコは思わず聞き返した。

「タリムは、ハワイのブリガム・ヤング大学で生物学を学んだあと、あの島に移住してきた。おそらく、彼自身は確かに、手つかずの珊瑚礁で心ゆくまま海洋生物の研究がしたかっただけなのだろう。しかし、彼が書いた論文の一つが、中国政府の目にとまったらしい」

 ナガトはスマホを取り出すと、英語の文章を引きだしてマコに見せた。

「なに、それ読めっての?」

 英語は問題なくても、専門外の論文を読むのは結構大変だ。専門用語を一つ一つ確認しなければならない。

「なら、思いきって端折るか。ようするに彼は、この島の貝類にのみ感染する、奇妙なウィルスを発見したのだ」

 マコの勘が警報を発する。

「それって、生物兵器?」

「当たらずと言えど遠からず、だな。もっと応用範囲が広いものだ。たとえば、癌細胞にだけ猛毒の物質を集中して運び込む、なんてこともできる」

 そうした技術の進歩は大事だ。その幾つかがもう一年早く実用化していれば、セイジ……マコの夫でツトムの父は、死なずに済んだはずなのだから。

「あの研究所から出された論文は、確かにそうした医療目的のテーマだった。それがある時、ぱったりと途絶えた。にもかかわらず、中国政府からの迂回融資は増え続け、あの小さな島には不釣り合いなほどの人材が投入された。それが日本の諜報局の懸念を生んだ、と言うわけだ」

 ナガトの話ぶりは、その内容とは裏腹に淡々としていた。


すみません、昨日はPCが不調で書ききれませんでした。

明日の更新分と調整したいと思います。


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