3.3.7.西へ
残された三人は杭を二人の周りを囲むようにして広く打ち直し、飾り紐を通し、細やかに花を供えると、両手を合わせて彼らの幸福を、この巌の永久なることを祈り願った。
船1「離れがたいところではありますが、いつまでもここに残るわけには行きませんから、私達は一度街に戻り、逃げる支度を始めます」
アラ「ええ、そうするのが良いでしょう」
船2「貴方は」
アラ「私は、オモトさんに托されたことを、西軍へ伝達をしに行きます。西へ。南方の危難を伝え、神界の平穏を保つために。彼らのためにも。オモトさんの頼みを果たしに、ミルメさんの願いを叶えに」
船2「私達からもお礼を申し上げます。どうぞよろしくお願いします」
そうしてアライソは船人達と別れた。高く昇った太陽を左手にして西へと向かった。
鎮南軍を襲ったという悪龍が過ぎ去った後の凪ぎ渡った碧海を横目に眺めながら、ミルメ達に思いを馳せた。オモトが軍に志願をし、ミルメが岩となりながら欣求したのは、まさにこの穏やかな海だった。
しかし海原は静まって見えてはいてもその水底はこうではない。龍は討ち滅ぼされたのでもなければ、追い払われたのでもない。東方の青龍と同じように自ら立ち去っただけだった。いつまた戻り、南方を荒らし回るか知れない。災禍は未だ海底でとぐろを巻いている。
夜が来た。アライソは眠り、体を休めた。
翌朝目覚めてまた西へ向かった。
延々と歩き続けた。どこまでも続く神界の海岸を歩き続けた。だが広い、余りにも広いこの世界はどれだけ歩いても行くべき場所へは辿り着けそうになかった。神界は現実よりも広かった。
何度も夜をやり過ごし、幾度の昼を歩き通した。それでも天頂に昇った太陽は左にあった。数多の昼夜を超えても彼は南方を過ぎ去ることは出来なかった。
食料が尽きた。その夜に彼は満月に祈り、現世へ戻った。
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現世で彼は機関に飾り紐を納品した。
窓口で、例の不機嫌な職員から封筒を差し出された。領収書には弐仟円と記されていた。帰りに食堂すら寄れない金額だった。それでも荒磯は当たり前のこととして受け止めた。
女神の加護がなくなったのだ。こうしたものだろう。
一週間を待ち、山へと登った。女神に西へ行きたいと希望を述べた。彼女は快く受け入れてくれた。
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アライソが神界で意識を取り戻すと夜だった。体内のものを一通り吐き出して、仰向けになり、染み入るような夜気に体を浸して休息した。
深々とした闇の中、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。むせた。一つ大きく息をして、心身が落ち着くのを待った。
しかし今回に限っては、体の具合が治まっても、腹の奥が騒付いて、いつまで経っても落ち着かない気分のままだった。
一方の地平線から光が溢れ、空の際が明るくなった。太陽が昇ると彼は神薬を呑み込んで、朝日を背にして西の果てへと向かって行った。




