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作戦会議 2


パンッと空気を変えるように、アナスタシアは努めて高い音を立てて手を叩いた。

全員の視線を集めてから、にこりと微笑む。


「みなさま、ここまで合致する内容が出てきたということは、いよいよ対処に動いた方がいいと思いませんか?」


「ええ、その通りです」


「ということで、入っていらして!」


扉の方に呼びかけたアナスタシアに、また他の三人の視線もそちらを向く。

入ってきたのは、どこか気恥しそうな表情の青年二人。

曰く『宰相子息』のルディオと、『騎士団長子息』のノーマンだ。


マジョルテとクロエラは笑いを堪え、ヴィクトリアは呆気に取られている。


「お二人は、隠し扉の方へ案内しましたから、こちらの会話は聞こえておりました。ここからは、攻略対象というお二人も加えましょう」


「よ、よろしいのですか……!?」


驚愕の声を上げるヴィクトリアに、アナスタシアが首を傾げる。


「あ、いえ、こういうことは、裏側で動くのがセオリー……?」


「ふふ。どうせなら、最初から巻き込んでしまえばいいと思いまして。だって、当事者ですから。忠告を聞いた上で婚約者以外の女に熱を上げるなら自己責任ですが、あえて情報を隠して様子見をする利点って、そんなにないなと思いますのよ」


「確かに……そうですね。申し訳ありません、やはり少々おかしなふうに考えていたようです」


「いいのですよ、ヴィクトリア様。ルディオ、ピンクの彼女にうっかり誘惑されたら、指さして笑ってあげるわね。楽しみだわ」


「うふふ。ノーマン様は、きっと大丈夫ですわ。お馬鹿さんではありませんもの。ね?」


双子の弟を見て笑っているマジョルテと、笑顔が何やら黒いクロエラ。

すでにヒロインとの初邂逅を、言われた通りの手順で済ませてしまっている二人は、半信半疑ながらひたすら沈黙を保った。


「王子殿下は? アナスタシア様」


「さすがに王族を呼び出すのは難しいので、あちらはお父様に説明を任せました」


「まあ。すでに侯爵も巻き込んでおられるのね」


「ええ。国際問題になりかねない可能性があるなら、と聞き入れてくれましたわ。みなさまの家にも、当主の名で手紙をお出しする予定です」


「さすがですわ……」


手回しが早い。


「ルディオ様とノーマン様には、依頼という形で王子殿下の近くにいてほしいのです」


「私たちに警戒せよということじゃないのか……」


「警戒すべきだからこそですわ。考えてもみてください。平民の、言わばわたくしたちのような家門の後ろ盾がないはずの女性が、複数人の貴族男性に近づくのですわ」


「……薬物か」


「あくまで可能性の話です。まだ起きていないことで、誰かを裁くことも遠ざけることも、してはならないことです。ですが、事前情報を元に可能な限りの対策はしたい」


「王子に対して何か害のあることをしないか、俺たちに見張れということだな」


「ええ。わたくしたち貴族には、王族の盾になる義務があります。ましてや、たった一人の王子ですから」


国王陛下夫妻の子は、第一王子のみ。

できれば何の問題もなく、自然な形に収めたい。


男性二人は、物理的にも抑え込む力があるため、実働組として。

情報戦に長けた女性陣で、情報収集や選別、手回しを担う。

最も効率的な形だろう。


「ヴィクトリア様は、婚約解消などの予定はございますか?」


「いいえ。王家と公爵家との間で交わされた政略です。義務を果たせるなら、それ以上のことはありません」


まだ、何も起こっていない。まだ、出会っただけ。

今後どうなるかによっては、厳しい手段を取る必要はあるが、今はまだその時ではない。


「ルディオ様、わたくしとの婚約は継続で構いませんか?」


「当然だ。あなた以外を考えたこともない」


「まあ……」


ここまで最も冷静に事を動かしてきたアナスタシアが、婚約者の言葉にほんのりと頬を染める。

痒そうな顔をするマジョルテの隣では、クロエラとノーマンも何やらこそこそと話をしていた。


「正直、この話は信じがたいというより、業腹だった。私があなた以外の女に現を抜かす男だと言われたようなものだ」


「可能性の話でしてよ」


「もちろんそうだ。そして、決して現実にはしない。巻き込んでくれたことには感謝している」


「ま、まあ。普段はそのようなこと、言ってはくださらないのに」


「あなたはすぐ赤くなるから……これでも我慢していたんだ。でも、これからはもっと口にしよう」


「あ、赤くなんてなりませんわ!」


「なってる。可愛い」


「……っ!」


二人を眺めるヴィクトリアのうっとりとした表情が、アナスタシアの恥ずかしさを加速させる。

幼少期からずっと近くにいた婚約者は、もう家族のような関係性だと思っていたのに。


ますます顔が熱い。

とにかく! と強めに声を上げたが、こちらを見る面々はどこか生ぬるい目をしている。


「しばらくは、ピンクの方の動向と、男性陣の変化などを観察いたしましょう。また時を見て集まっていただきますので、それまでは各々の情報収集と整理をお願いします」


「同じクラスなのは、男性陣とヴィクトリア様だけですか……」


「なんだか作為的なものを感じますね。わたくしたちも、色々と調べておきます」


「ヴィクトリア様はとにかく、絶対に一人で行動しないようにしてくださいませ。同クラスのお二人も、気遣ってあげてください」


「承知した。最悪、私かノーマンが共にいよう」


王子たちの説得もうまくいくといい。

大人も巻き込んだ本気の対策は、果たしてどう出るか。

ヴィクトリアだけでなく、全員が今は同じ方向を向いていた。




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