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壊れた未来


検討のため一時退出し、再び招き入れられた大会議室には、異色の領主夫妻とピンク様だけが不在だった。

代わりに、アナスタシアたちのための椅子が用意されている。


全員が礼を取って腰かけてから、宰相が口を開いた。


「座ったままで構わない。これより陛下の決定を述べる。意義がある場合は、最後まで聞き届けた後に発言するように」


一気に緊張感が戻ってきた。

宰相の感情を含まない起伏のない声音は、どこか人間味を感じさせない。


「第一王子は、王位継承権を復権させることなく王族籍を剥奪、北の塔にて生涯幽閉とする。此度の件は、瑣末な学園内での行いではなく、国内および国家的な問題となる可能性があった。事前に情報を得ていたにも関わらず危険を犯したことは許容できるものではなく、国王陛下への叛意については酌量の余地のないものである」


「また、第一王子を誘惑し堕落させた平民女性とその家族は、額に罪人の刻印を施したのち強制就労所にて終身労働となる。すでに刻印のため場を辞している。領主夫妻には責任を問い、男爵位への降格とする」


「それに伴い、王位継承権第一位となるアナスタシア・モーリス侯爵令嬢を国王陛下の養子とし、アナスタシア・ルゼ・クーディラリアを王太女と定める。また、アナスタシア殿下を輩出したモーリス侯爵に公爵位を叙爵する」


生涯幽閉を言い渡された王子は、呆然と父である国王陛下へと目を向けた。

なぜ、とその口が動く。


「そこまで、過酷な刑を受けるほどの、ことでしたか」


ぞわりと、アナスタシアの腕に鳥肌が立つ。

この期に及んで理解していない元王子が、得体の知れない生物のように映った。


ぼんやり虚ろな目が、アナスタシアを捉える。

目が、離せない。


「──ああ。きみか」


ふわり、いつものように柔らかく微笑んだ直後、ガラリと悪鬼のごとき歪みに変わる。


「アナスタシア!!」


目では、到底追えなかった。


誰かに呼ばれたのと同時に、身体が強く引き寄せられ、ガクンと目線が落ちる。

そして、目の前に立ち塞がる広い背中と、アナスタシアを抱き締めて隠す慣れ親しんだ香水の匂い。


元王子がアナスタシアの首に掴みかかろうとして、隣にいたルディオがアナスタシアを庇い、ノーマンが椅子を蹴って飛び元王子を拘束した。


ようやく状況を理解できたのと、周囲が騒然とするのはほぼ同時。

止まっていた時間が再び動き出す感覚がした。


「近衛、元第一王子を拘束し、地下牢に連行しろ。追って沙汰を伝える」


指示を出しながら駆け寄って来た宰相の、婚約者とよく似た面差しが、注意深くアナスタシアの目の奥を覗き込んだ。


膝をついて、目線を合わせて。

そういう些細な気遣いがルディオとひどく似ていて、先ほど人間味がないと感じたはずの人を、急に身近に感じた。


「怪我は? 痛むところは、おかしなところはありますか」


「まあ、ふふ。大丈夫ですわ、宰相閣下。ルディオ様とノーマン様が守ってくださいました」


「結構」


頷いた宰相が、息子とノーマンにちらりと目を向け『よくやった』とひと言告げてから、元の場所へと戻る。


アナスタシアを心配して、わざわざ自ら動いて確かめに来たのか。

そう思ったら、なんだか、なんでか、どうしようもなくなってしまって、アナスタシアは手を挙げた。


どうぞと促す冷徹そうな漆黒の目が、どんなふうに心遣いをくれるのか、知ってしまった。

そのぬくもりが、アナスタシアの心をせっつくのだ。


早く、早く。

なくしてもいいのか。半身を失ったおまえは、一人で立てるのか。


「国王陛下、王妃陛下、宰相閣下。お願いがございます」


たった一人。

この人がいれば、アナスタシアは躊躇いなく冷酷にも残酷にもなれる。


だから。


「わたくしに、ルディオ様をくださいませ」


隣で、ハッと息を呑む音。

だけど、ごめんなさい。これだけは譲れないみたい。


「王太女として、婚約者にルディオ様を望みます」


「……他には?」


促す宰相の目が、それだけじゃないだろうと笑っている。

そう。そうなの。本当は、全然それだけじゃ足りない。


「ヴィクトリア、マジョルテ、クロエラ、ノーマン。彼らの才が最も発揮できる部署への内定を。彼らは誇り高く忠誠心に溢れ、陛下を、王妃様を、国を、民を支える忠臣です」


あの時、ヴィクトリアが記憶を打ち明けてくれていなかったとしたら。

この国を、どれだけの災いが襲ったことだろう。どれだけの民が苦しんだことだろう。


────ああ。ヴィクトリア。見て、夜が明ける。


あなたが怯えていた世界は、もう変わったの。

恐れていた未来を、わたくしたちは壊したのだわ。


「真の友たる彼らに、心からの尊敬と栄誉を」


ルディオ、ヴィクトリア、マジョルテ、クロエラ、ノーマン。

共に戦ってきた仲間に向き直り、アナスタシアは満面の笑みを咲かせた。


「わたくしたちが掴み取った、新しい未来が始まるのだわ」


共に行きましょう。

苦難が続く時も、喜びに震える時も、心が荒みのたうち回る夜も、泣き腫らして迎える朝日も。


きっと、わたくしたちならば。













お粗末様でございましたm(*_ _)m

一旦完結となります。

後日談とか書けたら、また更新したいと思います。

ありがとうございました!

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