公爵令嬢は転生者?
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その日、淑女たちに激震が走った。
場は、第一王子の婚約者であるヴィクトリア・ホワイト公爵令嬢を招いた、モーリス侯爵邸での茶会である。
全員、同年生の令嬢が四人、和やかに談笑していたところ、ヴィクトリアが思いきったように口を開いたのだ。
曰く、『自身は転生者で、ここは乙女ゲームの中の世界に似ており、王子に断罪される悪役令嬢である』と。
主催者であるアナスタシア・モーリスは、笑みを保ったままヴィクトリアを見つめ、優しく頷いた。
決して周りと目配せなどしてはならない。
「ヴィクトリア様が、王子妃となるべく研鑽を積んでいらっしゃることは、みなが存じ上げております。もしあなた様が謂れなき罪に問われるならば、きっと差し伸べる手があるでしょう。詳しくお伺いしても?」
転生者、も、乙女ゲーム、も、アナスタシアや他の令嬢はピンときていない。
しかし、取り乱し正気を失った相手にまず必要なのは、傾聴と寄り添いだろう。
ヴィクトリアが語ったことをまとめると。
婚約した時に、前世(異なる世界で他人として生きた記憶)を思い出したこと。
前世で彼女が熱中した乙女ゲーム(絵本のような恋愛物語)の世界観とこの国は酷似していること。
学園に平民出身のヒロイン(絵本の主人公)が編入し、天真爛漫で物怖じしない態度で攻略対象(第一王子、宰相子息、騎士団長子息、隣国の王子)と仲良くなり、その中から選択した相手と恋愛関係に発展すること。
それに嫉妬した悪女令嬢は、ヒロインに嫌がらせ(子供じみたものから殺人未遂まで)を行い、卒業パーティーにて王子を始めとした攻略対象たちに断罪される。
ヒロインが誰を攻略してもヴィクトリアが悪役令嬢の役割となり、婚約破棄を宣言された上で幽閉・流刑・毒杯・処刑などの厳しい刑を下される。
おおまかな流れを聞き出し、背後で侍女が走り書きに必死になりつつ、アナスタシアはガタガタと震えるヴィクトリアの手に触れた。
冷たく強ばった、華奢でか弱い手。
こんなに小さくやわい彼女を、傷つけようという輩がいるかもしれないのか。
幸いにして、この場には心強いメンバーが揃っている。
これが狂言にせよ錯乱にせよ、はたまた事実にせよ、手を打てる者ばかりだ。
「仔細、承知いたしましたわ。ヴィクトリア様。打ち明けてくださったこと、感謝いたします。整理する時間が必要ですので、また改めてお誘いしてもよろしいかしら」
「アナスタシア様……」
「あなた様は、未来の王子妃なのです。胸を張ってくださいませ。さあ、お迎えがいらしたようですわ。今日は心穏やかにお休みくださいね」
ちょうど迎えに来た公爵家の馬車まで見送り、いくらか顔色が改善したヴィクトリアを見送ってから、淑女たちは早足で席へと戻った。
「どうやらお疲れのようでしたわね」
「あのヴィクトリア様が! 堅物なまでに真面目で、完璧な淑女と名高いヴィクトリア様が、あんな荒唐無稽なことを!」
「前世? この世界が遊戯ですって? ちょっとおふざけが過ぎるのではなくて」
「公爵令嬢が平民を虐めた程度で断罪? 虐めなければいい気もしますが」
「まあ、人の心は複雑なものですからね」
「たかが一人の女に高位の者が籠絡されるなんて、美人局に違いないわ」
侍女が頑張ってくれた走り書きを覗き込み、三人の淑女は顔を突き合わせるように話し合う。
「でも、みなさま。『絶対に有り得ない』と、お思いになられます?」
アナスタシアの言葉に、友人のマジョルテ・ハマン侯爵令嬢と、クロエラ・ローマ伯爵令嬢が口を噤む。
そして、はあぁぁあ…と淑女にあるまじき大きなため息が二つ。
「あのお方ねー……なんでああも純粋培養なのでしょうね」
マジョルテの言葉に同意するように、アナスタシアもクロエラも頷きを返す。
第一王子ディーンは、確かに金髪碧眼の麗しい見目で、頭もよく柔らかな印象の王子だ。
ただ、王宮という魑魅魍魎で生きてきたことが信じられないほど、純真で清い正義こそを是とする節がある。
「あの方こそが『ひろいん』なのではないの?」
「まあまあ。兎にも角にも、決して有り得ないとは言えないということですわ。それに、たとえば美人局ならば国際問題にも発展しかねません」
「情報収集からですわね。平民出身の特待生と、隣国からの留学生が在籍する予定があるなら、少しは信憑性もあります」
「わたくしたちとて、他人事ではありませんものね?」
宰相子息──ルディオ・ハマン侯爵令息は、マジョルテの双子の弟であり、アナスタシアの婚約者。
騎士団長子息──ノーマン・サルト子息令息は、クロエラの婚約者(婿入り予定)。
備えていて損はないし、という結論に至った淑女たちは、情報収集や根回しのため茶会をお開きとした。




