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【長編版】無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜  作者: 矢口愛留
第三部 フォレ領編

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60. お仕事開始です



 結局、アンディとリアもフォレ城にしばらく滞在することに決まった。

 各自に割り当てられた仕事は、こうだ。


 私は、基本的には部屋でポーション作り。ただし、大怪我をした人がいたら、直接治癒に出向く。

 ウォードとリアは、交代で私の護衛をしてくれることになった。

 ウォードにはポーション瓶などの重い物や資材を運んだりする力仕事、リアには伝達係なども手伝ってもらう。

 アンディは、騎士たちが狩った魔物の解体を手伝うことになったようだ。


「二人とも、本当にいいの? リアはアンディについて行きたかったんじゃない? ウォードだって、きっと辺境騎士団からしたら貴重な戦力なのに」


 一晩明け、朝になって改めて挨拶しに来たリアとウォードに、私はそう尋ねた。


「いいに決まってるじゃん。アンディとは一緒にいたいけど、あたし、解体はどっちかって言うと苦手だし。討伐隊に入るにしたって、すでに連携ができてて統率されてる騎士団に、いきなり加勢なんてできないよ」


 リアがそう言うと、ウォードもその通りだと言わんばかりに大きく頷く。


「でも、お城の中には魔物も入ってこないし、安全よ? 護衛なんて必要かなあ」

「敵は魔物だけじゃないでしょ。聞いたよ? 昨日城に到着して、あたしと別れたあと、一悶着あったんだって?」

「えっ、どこでそれを?」


 私は、女騎士エミリーさんのことを思い出す。

 確かに厳しい言葉をかけられて、嫌な態度を取られたが、そのことは誰にも言っていないはずだ。

 リアはどうして知っていたのだろう。


「ティーナって、いつまで経っても危機感薄いよね。だから守りたくなるのかな?」

「え? んん?」

「覚えといて、誰かを陰ながら守る手段はたくさんあるってこと」


 リアはそう言って、私の着ているローブの胸元にある、黄金色の飾り石を指さした。

 今着用しているのは室内用の黒いローブで、昨夜ギル様から仕事着として何枚か支給してもらったもののうちの一枚である。


 王都を出る前にギル様からもらったベージュ色の外出用ローブと、デザインはほぼ一緒。

 飾り石も同じもので、生地の厚さと色だけが異なっていた。

 専用の黒いローブは辺境騎士団の黒い騎士服とお揃いみたいで、ギル様からローブをもらったときは、少し嬉しかったりした。


「そのローブ、できる限りずっと脱がずにいた方がいいよ。私やウォードさんが離れてる時は、特に」

「……? わかったわ」


 仕事着なのだから、日中は基本的に脱ぐことはないと思うが。

 私は疑問に思ったものの、とりあえず頷いておいた。



 それから、私は早速ポーション精製を始めた。


 ギル様への琥珀珈琲(アンバーコーヒー)の差し入れは、私が彼の部屋へ持って行くのではなく、ギル様の方からこの部屋へ来てくれることになった。

 様子見と、ポーション精製の報告も兼ねてとのことだ。

 何時頃に来るのかは、必ず事前に伝達してくれるということである。


「さて。まずは、薬草水の仕込みからね」


 正しい方法で精製すれば、ポーションの劣化はまず起こらない。

 緊急時に直接治癒ができる余力を残しておきつつ、残る魔力を全て中級ポーション精製にあてても良いだろう。


「とはいえ、私の力で何本の中級ポーションが作れるか、ちゃんと確かめたこと、ないのよね……」


 正しい精製方法を知る前――力技で水から初級ポーションを精製した際には、最大で一日に七、八本の精製に挑戦し、一本の初級ポーションを完成させるのが限界だった。

 だが、薬草水を用いてポーション精製を行うようになってからは、一本当たりに注ぎ込む魔力量がかなり少なくて済んでいる。体感では、二割程度の魔力量だろうか。


「ということは、三、四十本ぐらいなら作れるかな? 念のため、少し多めに……五十本分ぐらい用意しておけばいいか」


 私はよし、と気合いを入れて腕まくりをする。

 薬草と水をそれぞれ計量し、樽に仕込んだら、日付と時刻を書いた紙を貼り付け、日の当たらない場所に安置した。


「これで良し、と。もし、もっと精製する余力がありそうだったら、午後にまた仕込めばいいわね。それじゃあ、次は――」


 私は続いて、ギル様が事前に用意してくれていた薬草水の樽を開ける。

 翌日の分の仕込みが終わったら、次にやるのは、漬け終わっている分の薬草水の処理だ。


「上澄みを計量して、ポーション瓶に取り分けて、と」


 非力な私が扱うものだからだろう、一つ一つの樽は、そこまで大きくない。

 内容量はワイン樽の二十分の一程度。これになみなみと水が注がれているが、実際に使用できる部分はその八割から九割程度だ。


「うん、やっぱり一樽で三十本ぐらい作れそうね」


 先ほど仕込みをした際、五十本の分量で樽が二つに満たない程度になっていたので、私の予想は合っていたようだ。

 樽の中から上澄み部分を、計量しながらポーション瓶に移し替えていく。


 薬草水の上澄みをポーション瓶に移し終えたら、次は浄化の作業だ。


「さすがにいっぺんに浄化するのは、やめた方がいいかな」


 浄化魔法は一気にかけられるとはいえ、私も、最大で十本ぐらいしか同時に浄化をしたことがない。

 三十本同時に浄化をして、ムラができてしまっても困るので、三回に分けて浄化を行うことにした。


 ちなみに、この浄化の魔法は全ての聖魔法の基礎となる魔法だ。

 浄化の魔法には、対象を蝕む瘴気を消し去る効果がある。

 聖女の作るポーションや回復魔法が、魔物から受けた傷や毒に効果てきめんなのは、聖魔法の浄化効果によって瘴気が払われ、回復効果が高まるためなのだ。


 ポーションの原材料となる薬草水に浄化魔法をかけるのも、水に瘴気が微量に含まれている可能性があるからだ。

 浄化魔法で最初に瘴気を消し去っておけば、瘴気から発生する毒素が回復効果を阻害するのを防ぐことができる。


「浄化完了ね」


 三回分の浄化作業はあっという間に終わった。

 次は、一本一本に治癒魔法を込めていく番だ。


「さて、集中集中」


 ここからは少し集中力を要する作業である。

 私は気合いを入れ直して、ポーション瓶を一本手に取り、治癒の魔力を練り始めたのだった。

 


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