54. パーティーメンバーが凄すぎます
出現した魔物は、黒色狼の群れだった。
以前戦った灰色狼と近い種の魔物だが、その危険度は大きく違う。
灰色狼はその高い身体能力と数の暴力を活かして攻めてくるのだが、黒色狼は、それに加えて炎のブレスを吐くのだ。
さらに亜種として、白色狼という魔物もおり、冬になると雪に紛れて狩りを開始するらしい。
こちらが雪に足を取られている間に一気に距離を詰めてくるうえ、氷の魔法を自在に操るため、さらに危険度が高いそうだ。
閑話休題、ここで実力を惜しみなく発揮したのは、新しくパーティーに加わったウォードさんだった。
出発前に騎士の誓いを立てたとき、ウォードさんは短剣を持っていたが、あれは武器としては使わないらしい。
本来の彼は、馬上から槍斧を振るって敵を屠るという戦闘スタイルだった。
ただ、彼には常人と大きくかけ離れている点がある。
それは――、
「ねえ、アンディ。普通、槍斧って、片手で扱うもんだったっけ……?」
「いや……長さも重量もある武器だから、普通は両手で扱うものだと思うんだけど……」
「やっぱそうだよね?」
なんと、ウォードさんは右手に槍斧、左手に騎兵盾を装備して戦っているのだ。
ジェーンと交代して馬車の守りについてくれているアンディも、驚きを通り越して困惑の表情を浮かべている。
「つうか、あんなもん片手で軽々振り回しながら、もう片手で敵の攻撃防いで……両手塞がってるのに、なんで安定して馬に乗れてるんだよ」
「不思議だねえ」
「それに、ジェーンさんもだよ。あの人、一体何してるんだ? ジェーンさんに近づく前に、敵がバタバタ倒れてくけど」
「うん……、不思議だねえ」
身体強化と属性魔法を駆使して戦うリアも、前線に出ている時点で魔法使いとしては相当強いし、常識からは少し外れているのだが……何故だかこの中では一番まともに見えてくる。
「っ、まずい! アンディ、そっちに一匹取り逃した!」
リアの叫ぶ声と同時に、群れから一匹飛び出した黒色狼がこちらに向かってきたのだが、ウォードさんもジェーンもリアも、手が離せない。
「よっしゃ、まかせろ!」
アンディは腰に差していた双剣を抜き放ち、襲ってきた黒色狼に向かって構えた――のだが。
「ウガァッ」
アンディが接敵する前に、突如、黒色狼は泡を吹いてその場に倒れ伏した。
なんだか見たことのある倒れ方だ……と思ったら、ジェーンが半身だけこちらへ振り返っている。
手の位置からして、遠方から黒色狼に向かって何かを投擲したようだ。
「クリスティーナ様、大丈夫でございますか!」
「平気よ、ジェーン! ありがとう!」
私がジェーンに手を振り返すと、ジェーンは小さく頷いて、戦闘に戻っていった。
「……オレ、やっぱり役立たずだな」
「ううん、そんなことないよ」
その場でたたずむアンディの背中からは、ちょっぴり悲哀が漂っていた。
けれど、魔物との戦闘を終えたら、活躍するのはやはりアンディだ。
彼の解体の手際は本当に見事なもので、私とジェーンとトマスが三人で一匹、ウォードとリアが二人で一匹を解体している間に、アンディは三匹もの解体を終えている。
「アンディ、すごいわ! 前にリアも褒めてたけど、本当に器用なのね」
「ティーナ、慰めなくていいよ。こんなことが上手く出来たって、魔物の討伐には役立たないし」
「そんなことはございませんよ。倒した魔物をそのままにしていては、瘴気溜まりが生じて、新たな魔物が寄って参ります。これまでの旅路で接敵が少なかったのは、間違いなくアンディ様の解体が早いおかげでございますよ」
「はは、またまたー。ジェーンさんも、ありがとな」
私たちは心底感心していたのだが、アンディは本気とは受け取ってくれなかったのだった。
*
フォレ領には、他の大多数の領に存在する『領都』が存在しない。
その理由は、北の領境に面している、魔物の棲む未開の地――『魔の森』である。
フォレ公爵は、フォレ領の領主であると同時に、魔物との戦いの最前線、辺境騎士団を率いる立場でもある。
いつでも魔物に対応できるように、代々のフォレ公爵の住まいであるフォレ城は、辺境騎士団の砦も兼ねた、堅牢な要塞になっているとのことだ。
ちなみに、領主の住まいがあるわけではないため『領都』とは呼ばないが、フォレ領最大の都市は領地の中央部に位置する。領内最北端にあるフォレ城からは、馬で一日ほどの距離だ。
フォレ領唯一の教会も、その最大都市に存在するとのこと。
領内各地から集まってくる患者への対処、その余力でポーション精製……フォレ領所属の聖女様たちは、多忙を極めているらしい。
だがこれからは、私も微力ながらフォレ領の力になれるはずだ。
私が騎士団員たちの治癒と、騎士団用の中級ポーション作りを一手に引き受けることができれば、その分、他の場所にもポーションを行き渡らせることが可能になる。
隣のグリーンフィールド領に回せる分も増えるだろうし、ウォードのようにポーション不足で後遺症が残ってしまう人も、今後は減るかもしれない。
雨や魔物の襲撃で都度足止めを受けながらも、私たちは三日後――豊穣の日の昼間に、フォレ城へとたどり着いたのだった。
前回お知らせした通り、少しお休みをいただきます。
次回から舞台はフォレ城に移り、久々にギル様も登場する予定です♪
ブックマークはそのままに、しばらくお待ちいただけましたら幸いです!




