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【長編版】無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜  作者: 矢口愛留
第三部 フォレ領編

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50. ポーション不足は深刻なようです



 フォレ公爵領に入る手前で私たちはルートから外れ、グリーンフィールド男爵領内にある、小さな街にたどりついた。

 小さな街とは言っても、冒険者ギルドの支部もあるし、宿屋や商店も一通りそろっている。


 馬車を宿屋に預けると、リアは早速冒険者ギルドに向かった。

 トマスは馬の世話、アンディは買い出しに行くとのことで別行動だ。


 私は買い出しか冒険者ギルド、どちらについて行くか迷ったが、リアが嫉妬しそうだったので、結局リアとジェーンと一緒に冒険者ギルドへ行くことにした。


 ギルドの看板も、建物の外観も、大きさこそ違えど王都のものと大差ない。

 扉をくぐった先のロビーも、カウンターや掲示板、簡素な椅子とテーブルがあって、王都のギルドとそっくりな内装になっていた。


「こんちは」

「おう、リアか! 久しぶり!」

「元気だったかい?」

「追っかけてた幼馴染とは会えたのか?」

「うん、あたしは元気。今は買い出しに行ってるけど、アンディとも会えたよ」


 リアが軽く挨拶をすると、ギルド内の視線が一斉にこちらを向く。視界に頼らず人を判別するリアは、キョロキョロともせずに、小さく首を傾げた。


「あれ、ウォードはいないの?」

「ああ、何日か前から見てないぜ」

「俺もだよ。無事だといいんだがなあ」

「ん?」


 返ってきた反応は予想外のものだったらしく、リアはこめかみに片方の人差し指を置いた。


「どういうこと? 何か危険な依頼でも受けてんの?」

「いいや。実はよ、少し前に受けた依頼で、厄介な麻痺毒を喰らったみたいでな」

「麻痺毒……?」

「ああ」


 ギルドにたむろしていた冒険者たちが、鎮痛な面持ちで頷き、交互に状況を説明し始める。


「知っての通り、この辺り一帯は常にポーション不足だろ? ウォードが戻ってきた時、ちょうど解毒ポーションの在庫を切らしててよ」

「入荷するまで解毒草でどうにか持ちこたえて、品物が届き次第すぐに解毒ポーションを使ったんだ。だが……」

「対処が遅れたからか、完治しなかったみたいでね。市場の人が、脚を引きずりながら食糧やら日用品やら買い込んでたのを見たらしいから、家で療養してるとは思うんだけど」

「そっか……心配だね」


 話に参加していなかった人たちも、皆一様に、暗い顔をしてため息をついている。

 ウォードという人は、よほど慕われていたのだろう。


「で、ウォードの家ってどこなの? 誰もお見舞い行ってないの?」

「それがなあ、誰も奴の家を知らんのよ。ほれ、奴は自分のことを全く話さんだろ?」

「僕たち全員、本当に心配してるんだけどね」

「あ、そういや、リアは人探しが得意だったよな?」

「え? うん、まあね」


 突然水を向けられたものの、リアは迷わず首肯した。

 それを見て、ギルド内にいた面々が、顔を見合わせて頷きあう。


「……なあ、リア。俺たちが依頼を出すから、お前さん、ウォードを探してはくれないか?」

「ん。時間があったら、是非そうしたいとこだけど……」


 リアは、私たちの方を振り返る。

 その意図を察し、私は微笑んで首を縦に振った。隣でジェーンも同様に頷いている。


「いいの? 急がない?」

「ええ。ここまで順調に来ておりますから、数日ぐらい遅れたところで、何も問題ないかと」

「うん。私のことはいいから、ウォードさんを助けてあげて」

「……ありがと、ジェーンさん。お嬢様も、ありがとうございます」


 リアは私たちにお礼を言うと、皆の方へ向き直る。


「あたし、依頼を受けるよ」


 リアがはっきりそう告げると、皆の顔に安堵が浮かぶ。

 気配察知や感覚の強化が、生活の一部として染み付いているリアは、人探しにはもってこいの人材だ。


「それから、ジェーンさん。数日って言ったけど、そんなに時間はかけないよ。一日……いや、半日で見つけ出すから」


 リアは私たちの方へ半分だけ振り返ってそう宣言すると、依頼の受注のため、カウンターへと向かっていく。


 リアが手続きしている間、私は近くにいた冒険者に話を聞いてみることにした。


「あの……この辺りは、そういうことが多いんですか? ポーションが足りなくて、治療が遅れるって」

「ああ。それで引退した冒険者も数知れずだ。ここ、グリーンフィールド男爵領だけでは対処できなくてな」

「教会へ行こうにも、聖女様は予約でずっと埋まってるしね。ポーションは冒険者ギルドでも買えるんだけど、売り切れのことも多いよ」

「そんな……」


 私は、この地域の厳しい状況を聞き、やり切れない気持ちになった。

 王都の神殿では、明らかに急ぎではない患者さんも、お金さえ積めばすぐに治療してもらっていたのだ。

 正直、軽い腹痛や捻挫なんかで神殿を訪れる患者を治す余裕があるなら、もっとポーションを作って各地方へ送るなり、聖女を派遣するなり、有意義なことが出来たはず――そんな風に思ってしまう。


「けどな、隣のフォレ公爵領がポーションを融通してくれるようになってから、随分被害が減ったんだぜ」

「フォレ公爵領が?」

「ああ。あっちのが魔物との激戦区で、ポーションもたくさん必要なはずなんだけどね。今の公爵様は、本当によく気にかけてくださってるよ」

「そうなんですか」


 私は、思わずジェーンの顔を見る。ジェーンは表情をほとんど変えなかったが、わずかに口角が上がっていて、どこか得意そうだ。


「依頼、受注してきたよ」


 そうこうしていると、リアがカウンターから戻ってきた。


「早速探しに行ってくる。お二人は、宿で待っててください」

「わかったわ。見つけたら教えて。私たちにも、何かできることがあるかもしれないから」


 ウォードさんを知らない私たちには、居場所探しを手伝うことはできない。

 それに、解毒魔法を習得していない私には、ウォードさんの治療も難しいだろう。

 けれど、食事を作ったり掃除をしたり、身の回りを少し整えてあげることぐらいはできると思うのだ。


「了解。日が沈むまでには宿に戻ります」


 リアは首肯し、私たちとは一旦別れて、人探しの依頼を開始したのだった。



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