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【長編版】無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜  作者: 矢口愛留
第一部 無能聖女編

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24. 久しぶりの外出です



 その後アンディの待つ門前へ戻ったところで、ジェーンさんとちょうど合流することができた。

 私たちは連れだって、市街地へと向かう。


「お屋敷を出たの、久しぶりだなあ」


 こうして屋敷から街外れへと続く林道を歩くのも、神殿から出て行くことになったあの日以来だ。

 ちなみに、『視線さん』は門を出たところで私たちを見送ったあと、ふっと消えてしまった。この魔法は、街までは届かないようだ。


「街に着いたら、どっから行く? メシにも早いし、やっぱ買い物か?」

「いいえ、ひとまず宿まで参りましょう。宿泊の手続きを済ませてから、自由行動でもよろしいでしょうか」

「そっか、そうだよな。オレはそれでオッケーっす」

「私はお二人にお任せします」



 林道をしばらく歩くと、ようやく開けた場所に出た。


 林道から出て右側、遠くの方には建物が。

 左側すぐ近くには、魔物の侵入を防ぐ、石造りの外壁が見える。

 高く長く続く外壁を目でなぞっていくと、壁が縦横に出っ張っている場所に、人が集まっている様子が見えた。


「あそこ、人がたくさんいるね」

「ああ、あれは関所だよ。壁の外側には堀があってさ、あの出っ張ってる部分に跳ね橋があるんだ。王都には、関所を通らないと出入りできなくなってる」

「ええ。王都には、この門の他にも二箇所、関所がございます。外には魔物が生息しておりますので、あちらで身分確認を行い、安全を確保できると判断が下されれば外出が許可されるのです」


 なるほど、確かに入ってくる馬車や旅人はスムーズに流れていくが、出て行くのには少し時間がかかっているように見える。護衛のレベルや人数が充分かどうか、一グループずつ確認しているのだろう。


 私たちはその行列を横目に、右手に曲がって市街地の方へと向かった。


「宿泊予定の宿は、わたくしもよく利用しているのです。ですから、安全は保証いたしますので、ご安心くださいませ」

「ええと……はい」


 私がぼんやりと返事をすると、なぜかアンディは大きくため息をついた。


「ジェーンさん。ティーナはよくわかってないみたいだぞ」

「ああ……やはり、わたくしも同行を願い出て正解でございました」


 ジェーンさんとアンディは、やれやれ、と顔を見合わせている。


「クリスティーナ様。今後、市街地に来ることも増えるかと思いますが、貴女様が王都に慣れるまでは、わたくしかアンディ様の指定した道やお店以外には、足を踏み入れない方がよろしいかと存じます」

「えっと、どうしてですか?」

「街には悪い奴らもいるってこと。何も知らないティーナはいいカモだ。トラブルに巻き込まれるのは嫌だろ?」

「カモ……?」


 私は首を傾げる。トラブルとは何だろう。筆頭聖女様のご機嫌が悪いときみたいに、急に怒鳴られたり、仕事を押しつけられたりとかするのだろうか?


「今日は、絶対にわたくしかアンディ様から離れないように、お願いいたしますね」

「約束だぞ、ティーナ」

「は、はい」


 私はよくわからないまま、二人の圧に気圧されて、こくこくと頷いたのだった。



 私とジェーンさんが宿の手続きをしている間、アンディは外で待つと言っていた。

 ジェーンさんは事前に宿側に連絡を入れていたらしく、宿泊手続きはすぐに完了したのだが――。


「あれ、アンディ、いませんね」


 外で待っているはずだったアンディの姿が、どこにも見えない。私は辺りを見回してアンディの姿を探したが、先に彼を見つけたのは、ジェーンさんの方だった。


「クリスティーナ様、あちらを」

「んん……? あれは?」


 ジェーンさんの示す先には、簡易な木製の台の上に商品を広げている露店があった。アンディは、その露店の店主らしき女性と、楽しそうに話をしている。


「アンディ、楽しそうですね。何を売っているんでしょう」

「冒険者向けのアクセサリーを販売している露店のようでございますね」

「冒険者向けのアクセサリー、ですか?」

「ええ。身につけることで力や素早さなどが少し上がる、加護のまじないがかけられている品物でございます」

「へえ……」


 私は冒険者登録こそしているけれど、アンディのように魔物と戦ったりすることはない。今のところ、ギルバート様以外の依頼を受ける予定はないのだ。だから、あの店の商品は私には縁のない品物である。


「じゃあ、アンディのお買い物が終わるまで、少し待ちましょうか」

「……わたくしには、アンディ様がお買い物をされているようには見えませんが」

「えっ?」


 そう言われてみれば、アンディは品物を手に取ったりすることなく、耳をほんのり赤く染めて、店主の女性と楽しそうに喋っている。

 綺麗な女性だが、少し困ったような表情をしている気が――と思ったところで、女性の後ろから、ガタイのいい男性がにこやかに近づいてきた。男性に話しかけられて、女性は笑顔になり、自ら腕を絡めている。

 アンディは、頭をぽりぽりと掻くと、そそくさと店の前から離れた。


「あ、お話、終わったみたいですね。アンディーっ」


 私の声に気が付いたのか、振り返ったアンディは、はっとした顔をして、すぐにバツが悪そうな表情に変わる。彼は片手を上げて、慌てて私たちの方へ向かってきた。


「お、おう、ティーナ、ジェーンさん。手続きはもう終わったのか?」

「うん。お待たせ」

「いや、全然っ! さて、どっから行く!?」

「あ、じゃあ、まずは冒険者ギルドに行ってお金を下ろしたいな」

「了解! よし行こう!」


 アンディはやたら元気よくニカっと笑い、頭の後ろで腕を組んで、冒険者ギルドに向かって歩き始めたのだった。


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