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世の中には転生者が溢れている  作者: ごおるど
パラレル番外編
22/22

異世界召喚のセオリー 6

最終回です。本日二回目の投稿になりますので、前回を読んでいない方はそちらからどうぞ。


 イスラフェルが気持ち悪いですwという感想をいただきました。ヤンデレ注意報を出しておきます。

 



 勝手に婚約を発表された後、真っ先に筆頭魔術師の元に向かいました。明日に回したツケが現状ならば、一刻も無駄には出来ません。

 王子の代わりに召喚術のことを色々聞いて、術の難度を確認しました。というのも、異世界から呼び寄せられるってことは、同じ世界に居ればもっと簡単に呼び寄せられてしまうから、せっかく逃げても「最初に戻る」ではやってられないからです。

 元の世界に帰りたいのは山々なのですが、現状難しいと判断しました。

 王からの要請だからこそ術に関して話してくれましたが、日和った家臣たちは術そのものの行使に完全に尻込みしていましたし、術に関しての致命的問題点を教えてくれたんです。


 大規模すぎて、今のままだと術が使えないだと?ふざけるな!


「魔法陣の維持か術の行使のどちらかに、王子殿下か美和様レベルの術師が必要なのです。我々は数で補ってはおりましたが、実力不足は如何ともしがたく……」


 だったら今すぐ魔王の城までのレベルアップマラソンでも行って来い、と口に出したくなりました。ですが、彼らもまた家臣であるが故に日々の務めがあり、軽々に城を空けることはできないのもまた事実。


「では、術を研究して魔力量を減らしてください。素人(おうじ)がやったことなんですから、専門家(あなたたち)ができないとは言わせません」


 王子は素人とは言えませんとか、天つ才の持ち主の研究を我々ごときがとか言っていましたが、最終的には研究をするという方向になりました。

「魔王を倒した術の一環をここで披露して差し上げます」

 と言ったら、比較的おとなしく従ってくれました。最初からそう言っていれば面倒も少ないんですよ。


 さて、術を研究するための時間を稼がないといけません。

 貞節は大事ですと言って、夜の平穏を手に入れたものの、あとふた月の間に何とかしないと、一生こっちの世界で王子妃として生きていかなければならなくなります。

 とすると、やはり城を出てどこか遠くへ逃げておいた方がよさそうですが、先立つものがありません。さらにはレベルアップして抵抗力を上げれば、いくら変態ヤンデレ王子とは言え、そう簡単に魔法陣を使うことはできないはず。



 と言う事で、ただ今お金稼ぎとレベルアップを兼ねた魔物退治来ていたのですが……。


「お嬢ちゃん、一人じゃ危ないよ」

「一緒に付いて行ってやるよ」

「お礼にそこらの茂みで遊んでくれればいいから」


 下世話極まりない台詞を吐く男たちに囲まれています。その数十ばかり。ゆがんだ笑みを浮かべていますが、なんとなく薄汚れた感じが少なくて、装備が整っているように見えます。盗賊には見えません。無精ひげは生えていますけど、決定的に臭いが薄い。疾しい商売に精を出している方たちは身なりに気を遣いませんから、独特の獣臭を纏っているんですよね。お風呂なんて、頻繁に入りませんから。

 これってお約束の、邪魔ならば消してしまえパターンなんでしょうか。顔だけは一流のあの王子のこと、見かけに騙されて勝手に熱を上げているご令嬢や、自分の娘を輿入れさせて王家に食い込みたい貴族とかも沢山いそうです。

 特別容姿が優れているわけではない私を狙うにしては人数が多すぎだし、魔物が出ると教えてもらった道に待ち伏せしていたあたりに周到さを感じますし。


 対外的に私は一介の村娘で、王子の家出は王女の誘拐になっています。助け出したのは例の全身鎧騎士になっていて、私がどれくらい強いのかは王宮外には知られていません。オルド村に住む者は魔王の城があるせいか体を鍛えていなくてもレベルが高いので、多少警戒はされていてこの人数を用意したのだとしたら頷けます。


 身体強化魔法は既に唱えてあるので、とりあえず伏兵がいないか感知魔法を広範囲にかけたら、あら?ここから少し離れたところに、護衛だと思しき数人の騎士?に囲まれた少女の気配がありました。もしかして、首尾を確認するためにわざわざ出てきたんでしょうか?

 そうだとしたら、悪趣味すぎですね。その性格の悪さに免じて、お仕置き決定です。


 黙っていたのは怯えからだと思った男たちが更になんか言っていましたが、右から左に聞き流してその間に構築していた魔法で攻撃します。

 火あぶりが一番簡単なんですけど、森が近いので雷の魔法です。延焼こわい。一律に金属製の武器を持っているので、効果覿面ですねー。

「ぎぁああああああ」とか悲鳴を上げて全員が倒れたところを、令嬢の前までダッシュしました。身体強化魔法のおかげで、数百メートルの距離を数秒で駆け抜けてすぐ近くで立ち止まると、にっこりと笑って見せます。


「こんにちは」


 呆然と……化け物でも見るみたいな目をこちらに向ける令嬢と、騎士が三人。辛うじて騎士が剣の柄に手をかけていますが、盗賊モドキの二の舞って分かっていますか?


「今そこで賊に襲われまして、なにやら伏兵のように見受けられましたのでこちらに追撃しに来ましたが、あなた方はここで何をしていらっしゃるんですか?貴族のお嬢様が散策に来られるような場所じゃありませんけど」

「そ、そんなの、下賤な女に答える必要もないでしょう!」

「そうですか。とりあえず、関係ないということでよろしいですね?」

 私はこれから賊たちを詮議して、背後を探らなければなりませんから。


 そう続けると、令嬢の顔色がはっきり変わりました。

「……背後?」

「盗賊にしては、彼らは持っている物が上等すぎるんですよ。それこそ、誰かから支給されたみたいに揃いの武器です。私は見ての通りお金は持っていませんから、金づるとして襲うには明らかに理由が弱い」


 私は先日、長すぎて覚えられない名前の侯爵の養女になったので、一応お金目当ての誘拐という線もありますが、令嬢の顔を見たらこれはもう私自身に用事があったとしか見えません。

 嫉妬、羨望、蔑み、予定外の出来事に対して、狼狽える己を奮起させようとしても隠せない恐怖。いろいろな感情が混ざった、綺麗だけど醜い顔。


「どこからかまとめて仕入れているか、元々あった物を渡しているのか知りませんけど、武器の出所を追っていけば、面白いことが分かるでしょう。あとはまとめて売り払えば、お金になりますし、盗賊たちは犯罪奴隷になりますしね」

 雷で焦げていると予想されるので、どの程度売り物になるかは怪しいけれど、問題はそこではなくて……。


 そっと顔を見合わせた騎士たちが襲いかかってきました。安い挑発でしたけど、乗ってくれて何より。相手は貴族ですから、向こうから手を出してくれないと、後から問題になる可能性がありましたから。

 それにしても、十人の男が取り囲んでどうにかできなかった私を、騎士とはいえ二人だけでどうにかしようって、無謀って言いませんか?一人はお嬢様の護衛として残すのは定石なんでしょうし、実際、三人一緒にかかってきたとしてもさほど結果は変わらなかったと思いますけどね。


 広範囲の魔法は一応、令嬢を巻き込む恐れがあるのでやめておきます。今度使ったのは土魔法、首元まで土で固めて動きを止めて、令嬢の方へ振り返った……その時。


「美和、こんなところで何をしている」

 言葉と一緒に、落ちてきたのは閃光。文字通り降って湧いたのはイスラフェルで、私が「転移魔法……?」と呆然と呟くのと、最後の騎士が振り回した剣の軌跡が、王子の体を掠めたのがほぼ同時だった。……レベルの違いで体には傷もついていないけど、着ている服は切り裂かれた。


「……知っていたか、美和。王族に手を上げた場合、すべからく死罪なんだ」

「へ、へー。そうなんだ」

 完全に騎士と令嬢を視界に入れないで、イスラフェルは言いました。

 背後で令嬢が「誤解なのです」とか叫んでいましたけど、気にも留めていません。いや、やり方は私よりも酷いと思うよ?私をかばうふりしてわざと剣の軌道に入ったから、勢いを殺せなかった騎士さんに切られてあげた(・・・)んだものね。それで死罪って、割に合わないと思います。


「あと、この間フェイラーセンディアード侯爵の養女になった美和を害そうとした時点でも、他家の貴族の関与が予測されるので、徹底的に調べられるだろう」

 イスラフェルの足元に崩れ落ちて、がたがたと震えている令嬢と騎士。


 手を下した人間は死罪、国家反逆罪に相当するので命令した者も同罪。さらに連座制が適応されるので、罪人を排出した家は最低でもとり潰し、一家は神殿に追いやられるのはまだましな方で、下手すれば鉱山送りらしいです。……ってことを本人の目の前で、私に説明するふりして淡々と告げています。未来の出来事として。

 因みに死罪の方法もいくつかあって、自害させる(毒薬を飲ませる)というのが一番軽くて、一番酷いのが装備なしで魔物の群れに特攻させるらしいです。聞きたくなかった。


「あー、さすがにそこまで行くとちょっとかわいそうかな?」

「なぜだ?」

 心の底から不思議そうな顔をする王子ですが、分かっていてやっているよね。

「ああ、美和に手を出そうとして返り討ちに遭った輩は、もう回収させたので心配はいらない。未来の王子妃に手を出そうとしたのだから、盗賊ならば(・・・・・)死罪だな」

「え、いつの間に?」

 振り返ると、本当に誰もいません。王子の子飼いの部下に命じたらしいですが……もしかして、跡をつけられた可能性がある?


 それに、王子が転移魔法を使えるなんて想定外でした。永続性の感知魔法でもかけられていて、それを目印に転移してこないと、あのタイミングと距離で来れないと思われました。とすると、裏をかくのは本当に難しくなります。

「とにかく、どちらにも寛大な処置をお願いします」

 お仕置き程度で済ますつもりが、一気に物騒になったら、こちらの寝覚めも悪いです。


「……では、今すぐ城に帰って、一緒に食事をしよう。そうしたら考える」

 私は肝心の魔物退治をやっていませんし、おまけに「考える」って、考えたけどやっぱりダメだってパターンもありってことじゃないですか。

「考えだけじゃなくて、約束してください。少なくとも、命を簡単に奪うようなことはしないと」

「……まあ、いいだろう。では、帰ろう」

 にこにこしながら、私の手を引っ張りました。賊を片付けた部下が戻ってきたので、騎士と令嬢は彼らに任せました。



 で、帰って食事をしたのは良かったけれど、侍従長と女官長の二人につかまって、結婚式に関する礼儀作法とか式次第の説明、ドレスの仮縫いのチェックなどを延々と引っ張りまわされることになり、完全に一日が潰れてしまいました。解放されたのは夜も遅くなって、慣れないことをやってくたくたになった頃。さすがに今から外に出る気力は湧きません。


 もしかして、これを狙っていた?

 ……なんだかいいように乗せられている気がしてきました。



 明日も予定がいっぱいなんですから逃げないでくださいねなんて言われましたが、知ったことじゃありません。明日は絶対に魔物退治に行こう。



 で、絶対に逃げ出してやる!





 イスラフェルがもし王子に転生していたらバージョンでした。

 

 

- おまけ -


悲鳴を上げて飛び起きると、目の前にイスラフェルの顔がありました。

「ぎゃあああ!」

ばちーん。


脊髄反射で悲鳴を上げて、顔をぐーで殴りつけたら、クリティカルヒット。「いてぇぇぇ!」とか悲鳴を上げて部屋の隅まで吹っ飛んで行きました。

……あれ?

「変態の方が、レベルが上なのに何で?」

どこに居るか分からなくて見回すと、我が家の居間が見えます。寝ていた所は家のソファ。転寝していたようでした。


「ああ……夢かぁ。恐ろしい夢だった……!すれ違っただけの変態が、レベルアップして襲ってくる夢なんて」

 つくづく夢で良かったと思いながら胸をなでおろしていると、

「……ツェーリア」

地獄の底からみたいなひっくーい声が聞こえました。


「うなされているから、起こしてやろうと思って近寄ったら殴られるって、どういうことなんだよ」

 頬を抑えてゆらりと立ち上がるイスラ。鬼気迫るその表情は、ものすごく見覚えのあるもので……その顔は今見せないでほしかった。体が震えるのが抑えられませんでした。


「えーっと、ごめんね。変な夢を見て、寝ぼけちゃったみたい。すぐ回復するから許してね」

無詠唱で回復魔法をかけながら、現実のことではないのに悔恨と共に悲しみが押し寄せて来ます。逃げても逃げても、ゾンビのように追いかけてくる変態。恐ろしすぎる。

元の世界に逃げなかったのは、監禁程度ですまない予感があったからです。足の腱を切るとか、体がうまく動かない程度に毎日凌辱されるとか、最悪、手に入らないのなら一緒に死のうパターンが来ると分かって、どうして逃げられると思いますか?


脂汗が背中を流れて行くのを感じて、体を震わせていると、本当に具合が悪いのかと思ったイスラが心配そうな顔をしました。いや、心配しなくてもいいよ、だから今はその顔見せるな。


さりげなく抱きしめようとしたのを、こちらもさりげない風を装って抵抗すると、イスラはちょっとムッとしたみたいです。手だけは放さないで、

「悪い夢なら、口にすると正夢にならないって言うぞ?」

 と心配そうに言ってきました。


「今は思い出したくもないから」

 勘弁してください。同じ顔の持ち主に言えることじゃありません。

 まさに悪夢でしたけど、そもそも寝不足の原因でもありますし、ちゃんと夜寝る時間をくれないイスラのせいで転寝する羽目になったのだし。


「……思い出したくないのなら、思い出せないようにしてあげようか?」

「……?」

 言っている意味が分からなくて首を傾げると、イスラがひょいと私を抱き上げました。屈辱のお姫様だっこ……ではなく、俵担ぎです。私は物じゃありませんし、この体制は腹部が圧迫されるので苦しいんですけど、一体どこへ連れて行こうって言うんでしょうか?


「……って、この先は寝室じゃないの」

「体を動かせば、変なことを考える余裕もないって」

「何を阿呆なことを言ってるの!」


 本格的に抵抗しましたが、結局は引きずり込まれた寝室で、私は本気攻撃を放って部屋を破壊し、母に死ぬほど怒られる羽目になりました。



 



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