異世界召喚のセオリー 1
他の連載を優先なんて書いておいて、何をやっているんだと罵倒が聞こえそうな予感がしつつも、投下。
!注意!
R15 コメディ パラレルです!
異世界召喚のセオリーと言えば、魔王討伐。まあそれは当たっていましたけど、勇者は男と相場が決まっているのに、なんで女の私なんでしょう?
普通の社会人をやっていた私、桂木美和、26歳。
会社からの帰り道、気が付いたら淡い緑色の光を放つ複雑な文様の魔法陣の真ん中で、呆然としていました。
周りには、王様っぽい頭に冠を載せた人やら、王様の護衛と思しき騎士?やらがいっぱいいて、王様っぽい人が進み出て言ったのは、テンプレ中のテンプレ。
このヨルグ国の王女が魔王にさらわれたので、魔王を倒して姫を取り戻してほしい、というものでした。
魔法陣には異世界語翻訳と、魔法の知識、この世界の知識などが組み込まれてあるから、すぐに出発してもらっても大丈夫なんだそうです。
……でも、こんなことができるんでしたら、王国の誰でもいいから王女を助けに向かわせたらいいんじゃないんですか?戦うことに関しては完全に素人の私に依頼するより、それこそ騎士団長を筆頭に、職業軍人の方がいらっしゃるじゃないですか。
疑問が顔に出ていたのか、王様は丁寧に説明してくれました。
この魔法陣が呼び寄せるのは、あくまで異世界からのみで、界を超えるその時に各種魔法を体になじませるために、この世界に生きるものには使用できない魔法なのだそうです。
「魔王の力は強く、そうやって強化した者でないとおそらく対処できんだろう。呼びつけておいてこんなことをお願いするのは、誠に申し訳ないと思うておる。だか、そなた以外に適任者はおらぬのだ。無事に姫を助け出して連れ戻った暁には、何でも褒美を取らせよう。もちろん、元の世界に還す方法はあるから安心してほしい」
魔法の知識は確かにありました。最下級の小さな炎をつける魔法から、最上級の火の玉を降らせる広域殲滅魔法まで、問題なく使えそうです。もちろんその他の補助魔法や回復魔法まで、手足のように使えると感覚でわかりましたし、すごく分かりやすくレベルとステータス表示も見えます。勇者チートとでも言うべきか、レベルは1ですがステータスが高いですね。MPも今の段階で4ケタ行ってます。
魔王の城までの道も、ちゃんと分かるから一人でも問題なくたどり着けるでしょう。
「……わかりました。王女奪還の命を受けましょう」
そう言うと、目に見えて王は安堵したような微笑みを浮かべました。きっと王女のことが心配だからなのでしょう。
「ありがとう。感謝する。──誰か、武具をこれへ」
侍従たちが数人がかりで持ってきたのは、いわゆる全身鎧と剣です。まさか、これを着ろと?私の身長には、大きすぎて装備不可のような気がしますけど。首と頭のつなぎ目あたりに辛うじて目が来る感じですし、兜をかぶせたら、まるっきり動く鎧ですね。
「その、まさかだ。これが我が国のいわゆる伝説の武具一式なので、国の威信を示すためにこれを着てほしいのだ。なに、王宮から出て船で出発するまでの間で十分だ。ここから馬車へ乗るまでは輿に乗ってもらい、港までは馬車で移動する。乗り降りさえごまかせれば、何とかなるのではないか?」
ステータスが上がっているので重くて動けないってことはなさそうですが、そのままだと文字通り地に足がついていないので、動かすことはできなさそうです。
「これを私に着せるよりは、誰かを身代りにして盛大に目立ちつつ船に乗り、私はこっそり先回りしておくか、道案内人として途中まで付いていく従者とかに変装した方がよくありませんか」
「……そうか、その手があったな」
ぽん、と手を打つ王様。
慌てるあまりに、ちゃんとした思考ができなくなっていたんでしょうか。すぐに騎士見習いが着るような男物の服と、顔を隠せるフードつきのマント等、男装用衣装が用意され、私が着替える間に準備は順調に進んだようです。
立派な体格の騎士に全身鎧を着せて盛大に壮行会モドキをやっている間に、私は先回りしてこっそり船に乗り込み、無事に魔王の城があるレグエス大陸に渡ることができました。
身代りの騎士さんには、無事王女を助け出すことができたら帰り道、王女の護衛をして貰わなければなりません。さらに考えたくないですが、失敗した時に城へ連絡に行ってもらわなければなりませんからね。この大陸で唯一人の住むオルド村にて待機してもらうことにして、村で改めて準備を整え、魔王の城に向かって出発しました。
ゲームでもそうですが、ラスボスに一番近い場所で売っている物というのは、汎用品でもかなり高品質ですよね。王様から持たされた支度金を使って買い込んだ防具には、全異常状態無効の効果が付いていたので、かなり気分的に楽になりました。ソロで特攻というのは不安でしたが、一番まずいのは状態異常系をかけられて動けなくなっている所を、タコ殴りにされることですから。
武器は、杖。自動MP回復効果付き。魔法の威力を上げてくれる効果があり、殴ってもそこそこのダメージを与えられるものです。剣なんて触った事ありません。どうせ扱えないですから、自分の足を切る前に、とっとと諦めました。
戦うのは初めてですけど、順調に魔法で倒しながら魔王の城の入り口までたどり着きました。
レベルが1だったのが、すごい勢いで上がって現在52。ステータスもかなり上がっています。レベルが上がるとHP・MPが全快する仕様だったので、買ってきたポーション類はすっかり不用品扱いですが、王女がどのような状態なのか不明なので、これはあくまで保険です。
さらわれたお姫様というのは、ゴムタイなことをされずにただ閉じ込められているパターンが多いですから、今回もそうであることを切に望みます。魔王は超絶美形が多いのもテンプレパターンですけど、顔がよければ女が靡くなんて思っていたら、私が成敗してやりますよ。
王様たちの態度がちょっとおかしかったような気もしますが、万が一、魔王と王女が相思相愛で今回の件が駆け落ちならば、家に帰るためにはそれなりの努力が必要でしょうが、まあ、何とかなるでしょう。
さて、これからが本番です。
魔王の城の入り口を開けると、外とは比べ物にならないくらい強力な魔物が襲ってきました。動物型で群れて襲ってきた今までと違って、人型で単独です。
魔王の部下のイベント戦なのかな?と思いながら、叩きのめしました。なかなかの強さでしたが、身体強化した上の魔法連発にはなす術もなかったようです。
やはり中ボスだったようで、魔物が気を失って倒れた時、レベルが一気に10くらい上がりました。
それから先は雑魚が多くて、私は特に問題がなく城の最奥までたどり着きました。壮麗なレリーフが刻まれた漆黒の巨大な扉。間違いなく、ここを開けたら魔王がいるのでしょう。
私は減ってしまったHPを回復してから扉を開けました。
どこからか差し込む薄明るい光の中で、広い謁見の間の最上段の玉座に座る人影が見えました。長く真っ直ぐな射干玉の髪に、濡れたように輝く黒い瞳。女性的な要素は全くないのに、見ているだけで吸い込まれそうな美貌の持ち主がけだるそうに玉座に座っていました。
あれが魔王に違いありません。実に非人間的に整いすぎた美貌の持ち主です。
広い謁見の間には彼の他には誰もいませんでした。静かに扉を開けたとはいえ、無音ではなかったのにこちらを見向きもしません。
私は勇気を出して、玉座の方へ歩き出しました。
玉座の近くまで行くと、さすがに気配がしたのでしょう。茫洋としていた眼差しが、ゆっくりと私の方に向けられました。
魔王は少し驚いたように目を見開き、目を瞬かせました。ここまで誰も来るとは思っていなかった?それとも来たのが絵に描いたような平凡な容姿の女だから、びっくりしているんでしょうか。
幻でないことを確かめる様に、こちらを食い入るように見詰めて来て……。っていうか、なんだか全身をなめまわすような視線?取って食われそうな気配と言ったらいいのでしょうか、何かの感情が混ざった視線が投げかけられ、私の体は自然とこわばりました。
ゆらりと玉座から立ち上がる魔王。
いよいよ、ラスボス戦ですね!




