君で世界は回ってる ─ 魔王視点 レベル0-1 ─
!注意!
R15 シリアスです。流血表現があります。
ツェーリア。直接は言えないから、こっそり謝っておく。ごめん。
お前が死んだのは、俺のせいだ。
後もう一つ。嘘もいっぱいついてる。……いつか、この事実を口にすることが出来るだろうか。
「ゲームの設定をパクった?」
あっけらかんと言ったのは、時の神だというやたら綺麗な顔した男だった。
「そう。面倒くさかったから。根幹の設定が同じだから、ちょうどいいやーって」
光の神と闇の神が世界を創った後、力尽きて溶けたという設定は、確かにプレイしたことのあるゲームのものだったが、俺は容赦なく叱り飛ばした。
「一言で済ますな、ちゃんと確認しろ!大体、あれは途中で一回世界が崩壊するぞ」
「え?そうなの?」
一瞬でシナリオを確認したらしい。のんきに「あ、ほんとだね」とかへらへら笑いながら言っている。本当に分かっているのか?
俺は死んでいるのに頭が痛む気がして、こめかみをぐりぐりと押して溜息をついた。
──────何でこうなった。
心からの叫びだった。
俺がなんで死んだのかといえば、刺殺されたから。いや、死体検案書には出血多量と書かれるのか?専門家じゃないから良くわからんが、とにかくあの日はサイテーの連発だった。
「うわー、すごい綺麗な人がいる……けど、隣の人って彼女かな?すっごい不釣合いなんだけど」
「えー?ありえないでしょ、あの程度で。私があの娘だったら恥ずかしくて死ねるレベル」
「だよねー」
押して押して押しまくって、ようやく恋人になった相手、桂木美和と、初めてデートらしいデートをした帰り、家まで送っていく途中の交差点で、こっちを見ながら聞こえるように騒ぐ女達に俺は顔をしかめた。
まったく自慢にならないが、小さな頃から顔の出来が良かった俺は、変態遭遇率が異常に高かった。
幼稚園時代は同じ組の女の子達が、あんたを取り合って喧嘩をしていたよ、と母親に言われた程度だったが、年を重ねる毎に異性は目の色を変えて俺に纏わりつき、同性からはやっかみの視線と嫌がらせを受けるようになった。
社会人になる頃には俺は完全に人間不信になっていて、とりあえず見た目で寄ってくる輩は男女問わず、無視するか拒絶するようにしていた。愛想笑いなんぞした日には、ストーカーが繁殖して追いかけてくる羽目になる。
そして、この女達の言動は、俺を付け回したストーカーと同じ匂いがしたのだ。
嫌な予感がして、牽制のためにわざと普段よりも大きな声を出した。
「恋人を貶せば男が自分に靡くとでも思ってるのかねー、ああいう女って。俺だったら金を貰っても無理。相手を貶めないと気が済まない奴等って、見苦しいから視界に入んなってカンジ。それに、大口たたくからどんな美人かと思えば大したことねぇし」
酷い言い草だが、まともな相手なら俺もこんな態度はしない。憎むのが俺の方ならいい。美和の方に向くのだけは阻止しないと。
────俺の嫌な予感は、その日のうちに的中した。
彼女のマンションの玄関で、物陰から金槌を手にして現れたのは、交差点で会った女のうちの片方だった。
エントランスはオートロックなのにどうやって入ったとか、先回りできたのはなぜだとか頭をかすめたが、とりあえず頭のいかれた女を蹴り飛ばした。そこまでは良かったが、問題はいかれた頭の持ち主が女一人じゃなかった点だった。
死角から出てきたごつい男。こいつが女の何かは知らないが、同じように美和を狙ってきたので庇って……刺された。
腰のあたりに突きささった包丁に、悲鳴を上げたのは美和と女で、女が男を罵り始めたので、その隙に美和が俺を担いで逃げようとしたが、今度は美和が俺を庇って金槌で殴られた。
そのあたりからかなり記憶が曖昧だが、多分階段から落ちそうになった美和を支えようとして、俺も一緒に踊り場に落ち、かろうじてスマホの防犯ブザーを鳴らした所で……暗転。
で、目が覚めた時には、目の前に自称時の神が胡散臭い顔をして笑っていたのだ。
「やあ、死んだ気分はどう?」
そんなことを口にして。
で、最初に戻るわけだ。
「基本的に私は人間が嫌いだし、動物も嫌だしー、正直、どうでもいいんだよね」
青年と少年の間くらいの年齢に見えていた男は胡散臭い笑みを、血が滴り落ちるような、背筋が寒くなる凄惨な笑みに一瞬で変える。
「───私はね。世界が憎い。憎くて憎くてたまらないんだよ。あの子達がいなくなった元凶のくせに、夢の中に引きこもっていてもぼろぼろになるし、ちょーっと嫌いって思っただけで魔物が生まれるし。一々面倒見ないと存在できない世界なんて、滅びてしまえと何度思ったことか。あの子達がそこにいるって思わなければ、本当にやってられなかったよ。一応、本当に滅びない程度に手は入れたけど、全然発展しないんだよね」
世界の根幹の設定が同じだっただけのゲームをコピーして、世界に反映させた。
ゲームの内容がどうであろうと、その世界のシステムはちゃんと機能している。ただそれだけで、十分価値がある。
「ここのところの検案事項は、ゲームみたく巻き戻すのに力が足りないような弱い神じゃないせいか、封印の駒の持ちが凄く悪いってこと。……だから、君がやってくれない?『魔王』を」




