15 俺だって少しは頑張る
格子扉を開けて外へ出てみると、俺たちの閉じ込められていたのはやっぱりタイヤを外された輸送トラックの荷台だった。
「あ・・・の、涼子。これ・・・」
俺は涼子の下着を手に持っている。
「もう1回着替える時間が惜しいから、お兄ちゃんポケットにでも入れといて。」
見回すと、すぐ近くに高速道路の高架が見える。
それ以外は3メートルはありそうな鋼板の塀と、その向こうの木々だけだった。
山の中だろうか?
「あそこ、出入り口かな?」
鉄骨製のゲートに、菱形の格子状になったシャッターが付いている。
これも3メートルくらいの高さがあって、取っ手のところには4桁のナンバーを合わせる南京錠がかけてあった。
その外は田舎道路で、人通りも車の通りもない。
涼子はさっきの鉄パイプを格子の穴から外に出して、数歩下がった。
「もう1回やるから。すぐ服渡してね。」
「いや、待て! そんなに何回もやって、体に悪影響が出たらマズイだろ? さっきだって変な縦縞の日焼け跡みたいなの付いてたし。」
「あれはただの干渉縞だよ。波がスリットや格子を潜り抜けるとできるやつ。腕にも出てたし。もう消えたし。ほら。」
涼子はTシャツを胸のふくらみの下までめくり上げて見せる。
あ、きれい。
素肌にデニムって、いいな・・・。
いやいや、今はそういうんじゃなくて・・・!
「俺が登って、向こう側へ行く。菱形の格子だから、足を掛けて登ることができる。」
涼子にばかり負担をかけさせるわけにはいかない。
なにしろ体が物体を抜けたんだ。どんな変化が体の中で起こってるかわからない。たて続けにリスクを冒させるわけにはいかない!
「お兄ちゃん、高いとこ怖いんじゃなかった?」
「それは子どもの時のことだ。」
俺は格子の穴に足を掛けて登り始めた。
実は今だって高所恐怖症は治ってなんかいないのだ。
しかし・・・。
大きな危険を避けるためには多少のリスクは冒さなくては!
下を見るな。
下を見るな。
俺は手を掛ける部分だけに意識を集中した。
ゲートの梁を乗り越えるときが、いちばん怖かった。
股間のモノが縮み上がって、冷や汗が出てきた。
でも・・・!
涼子のためだ!
涼子のためなんだ!
頑張れ俺!!
下まで降りると、脚の力が抜けそうになったが、俺は恐怖心を隠そうと歯を見せて涼子に向かって笑って見せた。
南京錠は、鉄パイプで叩くと割と簡単に壊れた。
格子のシャッターを横に引いて、涼子を外に出す。
「お兄ちゃん。ほんとは怖かったんでしょ。」
「な・・・そんなことは・・・!」
「あたし・・・、お兄ちゃんが登り始めるまでと、てっぺんにいる時と、向こうに降りてる時以外、意識飛んでたもん。必死で手元だけ見てたんだよね?」
俺は顔が熱くなった。
しかし・・・。
涼子は少し涙ぐんでいる。
「あたしの・・・あたしの体のこと心配して、必死で戦ってくれたんだよね?」
「いや・・・そ・・・」
「お兄ちゃん。」
はい?
「カッコいいよぉ!」
涼子は俺にしがみついて、俺の肩に顔をうずめた。
いや・・・これ・・・。なんか・・・。
ちょっと嬉しい・・・。




