12 拘束の事情
「誰かいますかぁ?」
思い切って声を上げてみたが、反応はない。
犯人は近くにはいないらしい。
どうやら、人家もあまりない場所らしかった。
時々トラックの通り過ぎる音が聞こえるから、高速道路か何かの脇なのかもしれない。
とにかく、その格子越しに見えるのは、廃車ばかりだった。
その格子扉には外から閂がかかっていて、しかも錠もかかっている。
普通の南京錠だが、だからといって内側からどうにかできるものではない。
外側から鉄パイプのようなもので力いっぱい殴れば破壊できるかもしれないが、室内にそんなものはないし、あったとしても鉄格子の隙間は5〜6センチしかないから手首がやっと出る程度だ。
手首だけで振ってみたところで、南京錠を破壊できるほどの力にはならない。
* * *
有羽璃星は、その知らせをスコットランドの彼女の研究室で受け取った。
「日本にいる息子が彼女とともに誘拐された、ですって?」
しょぼい会社を離れられないと言う夫と、英語に自信がないし日本の高校に行きたいと言った中学生の息子一人を置いて、単身イギリスに来てすでに5年。
仕事に没頭して、一度も日本に帰ることがなかった。
籍こそ抜いてないものの、離婚と変わらない。
そうか・・・。5年経ったということは、中学生だった一人も大学生になってるのか・・・。
・・・・・・・・・
あいつ・・・、大学受かったのかな?
「すでに我が社の保安機関が動いていますが・・・まさか、遠く離れた日本でそんなことになるとは・・・。」
セキュリティセンターの担当者は、申し訳なさそうな顔で璃星の顔を見る。
璃星は遠い日本を見ようとするように、目を細めた。
「信じられん。」
あの息子に彼女ができたなんて・・・。(←そこかい!)
「にわかには信じられないでしょうが、誘拐は事実なのです。しかし、すでに日本支社の保安機関員が動いております。必ず無事に息子さんを・・・」
「居場所は?」
「はい?」
「居場所は特定したのか?」
「い・・・いえ、まだですが・・・。犯人はあの夜羽衆太郎です。身代金を我が社に要求してきました。」
あいつか・・・。
と璃星はその顔を思い浮かべた。
軍事AI 部門の技術者で、ギャンブルの借金返済のために重要な情報をR国のスパイに売っていた。
それを見つけた璃星が保安部に通報したのだ。夜羽は懲戒解雇された。
「逆恨みか・・・。」
璃星は本社のAI 開発の統括主任技術者である。
やりがいのある仕事ではあるが、仕事の中には国家の安全保障上機微な内容も含まれる。
MI6とも連携のある保安部が動いている以上、息子のことはあまり心配はないだろうが・・・。
「日本に帰る。航空機の手配を。」
「はい!」
セキュリティ担当が慌ただしく電話をかけ始めた。
息子の彼女が見てみたい。(←おい、こら!)
はい。
お母さん、死んだわけじゃなかったんですね。。(^◇^;)
エネルギー=質量×光速の二乗




