(40)発見
セプテン号の新たな一面を知って乗組員たちが驚愕している中、航海そのものは順調に進んでいた。
北大陸と南大陸の間にある内海を行き来した結果、セイルポートの倉庫にある分を除いて、無事にフゥーシウ諸島で仕入れた分をさばき切ることができた。
そして、最後の港で補給を済ませたセプテン号は、予定通りにフゥーシウ諸島に向かうための補給島となるような場所を探す航海に出ていた。
「――――それはいいんだが、何故北に進路を取っているんだ?」
カイトの出した指示に疑問を挟んできたのは、当然というべきかガイルだった。
こういったときは、基本的にガイルが意見をするようになっているのだ。
前回の航海で判明したのだが、フゥーシウ諸島はセイルポートからほぼ東側の少し南寄りに位置している。
そこから考えれば、北側に進んでいる現状を疑問に思うのは当然だろう。
だが、カイトはカイトできちんと考えていることがある。
「あれだけ距離のある諸島に向かうための補給する場所を探すなんて、誰でも考えることだから。素直に東側を探しても見つからないと思ったんだ」
フゥーシウ諸島は、これまで海域内に入れないだけで、存在は知られていた。
そこに到達するまでにかなりの日数がかかると知られているのだから、その途中の補給地を探す者が出て来るのは当然だ。
数が少ないにしても同じような考えを持っている者たちは、基本的に北と南の両大陸から東側を探しているはずである。
それにも関わらず今までそれらしい場所が見つかっていないのは、見落としてきたというだけではなく、本当に存在しない可能性のほうが高いとカイトは考えたのだ。
であれば、多少遠回りになってもまずは北周りのルートで補給できる地点が無いかを探してみようと考えたのである。
ちなみに、南ではなく北を選んだのは、セイルポートが北大陸にあるからだ。
カイトの説明を聞いたガイルは、納得したように頷いた。
「なるほどな。多少遠回りでも、途中で補給できるなら寄るということか」
「そういうことだね。ただし、この船以外は、だけれど」
カイトが肩を竦めながらそう言うと、ガイルは苦笑しながら頷いた。
セプテン号はその大きさと性能のこともあって、フゥーシウ諸島に向かうためにわざわざ補給をする必要はない。
普通なら真水の補給は生命線なのだが、他の船にはない道具などもあるので、そこまで頻繁に補給する必要はないのだ。
海水から真水を作る装置を見た時の乗組員たちは、目玉が飛び出るほど驚いていたくらいだ。
そういう意味においてもセプテン号は既存の船とは一線を画しているので、乗組員たちが別の船に移りたくなくなるというのも当然だろう。
「そういうことなら分かったが、本当に島なんてあるのかね?」
「さて。それこそ運が良ければ見つかるって感じじゃないかな?」
海原しか見えていない光景を眺めながら言ったガイルに、カイトはほとんど期待しない口調で答えた。
実際、カイトはこの航海で島が見つかるとは、欠片も考えていない。
そもそもフゥーシウ諸島周辺は、冒険気質を持った船のオーナーが、様々な方法で調査を行っているのだ。
その上で今まで島が見つかっていないということは、この航海だけで島を見つける可能性など、ほとんどないと考えるほうがただしいのである。
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「――――なんてことを考えていたんだけどな……」
目の前にある光景を見て、カイトは呆然とした表情でそう呟いた。
隣に立っているガイルとメルテはカイトと同じような顔になっているが、甲板にいる他の船員は歓声を上げていた。
両者に温度差があるのは、カイトたちは先ほどまで船内に入って外の光景を見ておらず、船員たちよりもその光景を見るのが遅れたからである。
カイトたちが驚き、船員たちが喜びに沸いているその理由は、言うまでもなく補給地になり得るような大きさの島を見つけたからだ。
ただし、島を見つけたとはいっても、実際には上陸して最低限でも水が湧いている場所を探さなくてはならない。
海原以外に何もないと思われていた航海で、実際に島を見つけたという事実は、カイトを含めた乗組員全員に希望のようなものを与えていた。
勿論、一つ島が見つかったからと言って、それ以上に有益な島がまた見つかるとは限らない。
それでも、もしかしたら他にも……なんてことを考えさせるには、十分すぎるほどの発見だった。
自分も含めてそんな気分になっていることを察したカイトは、島を見つけた喜びから正気に戻ってガイルに言った。
「島が見つかって喜ばしいのは確かだけれど、あまり浮かれないように引き締めておいてね」
「……あ、ああ。確かに、それはそうだな。気を付けるように言っておこう。……俺も含めて」
カイトの冷静な指摘に、浮かれた気分になっていることを気付かされたガイルが、頭を左右に振りながらそう言ってきた。
船乗りとして色々な経験をしてきたガイルだが、新しい島を見つけたというのは初めてだったので、やはり興奮は抑えきれていなかったようだ。
とはいえ、その経験から言っても、現在の乗組員はいささかはしゃぎすぎているように思える。
ガイルが自らも含めて気を引き締めるように言うのは、当然といえば当然のことといえた。
「まあ、それが良いかな。でも、今日くらいはいいんじゃないかな?」
「確かに……な。それで? すぐに上陸するのか?」
「うーん。どうだろう? こんな孤島に魔物がいるかどうかは分からないけれど……一応警戒はしておいたほうがいいんじゃないか?」
「それもそうだな。それじゃあ、まずは船の上から周辺の調査でもしようか」
「それが良いかな」
ガイルの意見にカイトが賛成したことで、セプテン号は新発見した島の調査を開始するのであった。
新しく発見された島は、当然のように無人島のようだったが、しっかりと緑が生えているのは見えている。
大きさ的には五キロ平方メートルもなさそうだが、少し周辺を回ってみた感じでは、十分に補給島としての役目は果たせそうに見えた。
ただ、肝心の水が湧いているかどうかは、実際に上陸して確認してみないとわからない。
これだけの広さがあって、緑もしっかりと生えているとなれば心配する必要はなさそうだが、それらが飲み水がある証拠というわけではないので油断はできない。
まずは水の確保ができるかどうかを確認するために、島に上陸するメンバーを募ってみた。
魔物が出てきた場合は問題になるが、船乗りも冒険者ほどではないにしろ海の魔物を相手に戦うこともある。
少なくとも島の外側から海辺を見た感じでは、すぐに襲ってくるような大型の魔物が出て来るような気配はなかった。
それらのことから、全員が調査隊として希望してきたので、結局カイトも含めて全員で島の調査をしてみることになった。
島の浜辺らしき場所から上陸をしたカイトたちは、すぐに飲み水となりそうな湧水が湧いている場所を発見した。
魔物に関しては全くいないというわけではないが、そこまでの強敵がいるようなかんじではなかった。
周辺に何もない孤島であることが、魔物の発生を抑えているのか、それとも他の理由があるのかは不明である。
それに、今回の調査では島の奥までは探索しなかったので、そこでは強敵となりうる魔物も出て来るかもしれない。
今回は、水を発見したこともあって、そこまでの危険を冒す必要はないと判断したカイトは、軽い調査で引き上げることを宣言するのであった。




