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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(38)セプテン号の乗組員

 レグロとの話し合いが終わったカイトとガイルは、すぐに今後の予定を話し始めた。

 といっても、フゥーシウ諸島に向かうための中継地を探すという方向性は決まっているので、あとは具体的にどう動くのかを決めていくだけだ。

 カイトは、レグロの話から商会の誰かから恨まれている可能性があるので、迂闊に外をうろうろするわけにはいかない。

 元々セプテン号か神域で作業をするつもりだったのでそれはいいのだが、問題はどうやって他の乗組員に予定を伝えるかがカイトにとっての一番の悩みどころだった。

 ただ、これはすぐにガイルが解決案を出してきた。

 というのも、ガイルは翌日に乗組員の何人かと話(飲み会)をする予定があったそうで、その時に各メンバーに伝えるように手配することになった。

 これまた急な出航になるので、都合がつかない乗組員がいるかも知れないが、それはその時で仕方がない。

 月給での契約にはなっているが、他の仕事をしてはいけないという縛りもしていないので、可能性が無いわけではないのだ。

 

 そんなこんなで出航当日。

「――急な出航なのに、全員がきちんと集まるのか」

「何を言っているんでさ、船長。ちゃんと給料もらっているんだから、集まるのは当然だ」

「そうそう。こんな条件のいい職場何か他にないからなあ。首にならないように必死だ」

 口々にそんなことを言ってくる乗組員たちに、カイトは内心で気の毒に思いながら頷いた。

 この世界での船乗りは、突然その日の内に次の就航予定が入るなんてことは、当たり前にあるのだ。

 それに比べれば、きちんと数日空けて計画をしているカイトは、最良の雇い主ということになる。

 そもそも、カイトが彼らに渡している月の給料は、一家族が余裕をもって暮らせるくらいの額なので、不満など出るはずもない。

 ちなみに、ガイルを始めとした役職持ちは、給料面ではもっと高額になっている。

 

 いずれにしても、自分が出している条件が破格すぎるということが理解できたカイトは、安心したように頷いた。

「まあ、それならいいか。――ああ、安心してよ。条件が良すぎると分かったからといって、いきなり下げたりはしないから」

 カイトがそう言うと、乗組員たちは一様に安心した表情になった。

 給料が高くて喜んでいることを知ったオーナーが、次からは金額を下げることも普通にある世界なのだ。

「だが、そろそろ見習いも雇う予定だからな。お前たちには、そいつらを見てもらうこともある。頼んだぞ」

 カイトに代わってガイルがそう言うと、乗組員たちは頷いた。

 今のところセプテン号には見習い扱いの者はいないのだが、大抵どの船にも一人や二人の見習いは存在している。

 そうすることによって、船乗りとしての技術を継承していくことが当たり前なのである。

 

 そんな雑談をした後は、しっかりと各々が持ち場について船の出港準備を整え始めた。

 フゥーシウ諸島への航海も含めて、既に数回の航海を経ているので、それぞれの動きにも迷いが取れてきているように見える。

 そして、各商会の恨みの対象となっているカイトは、かれらの思惑を外すように、セイルポートの港から離れて行くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 セイルポートの港を出航したセプテン号は、真っ直ぐにフゥーシウ諸島への中継地点を探す航海に出たわけではない。

 商会の思惑を外すためにも色々な場所へといった方がいいというのもあるが、何よりも船内に残っているフゥーシウ諸島産の交易品を売りさばかなければならない。

 セイルポートで卸す予定だった最低限の量はギルドの倉庫に確保してあるので、あとは気兼ねなく他の港で売ってしまえばいい。

 フゥーシウ諸島があるということは、セイルポート及びロイス王国以外にも知られているので、十分に希少品として売ることができるはずだ。

 

 セイルポートで暗躍(?)していた各商会は、他の港町にまで手を伸ばしているわけではない。

 中には支部を用意している商会もあるのだが、カイトはそこには近づかないようにするつもりでいた。

 そして、最初の港町に入ったカイトとガイルは、主計係であるアルティモと一緒に目ぼしい商会を訪ねた。

 そこではセイルポートで起こったような騒ぎが起こることもなく、お互いに納得のいく形で交易が成立することになる。

 

「――やれやれ。何事もなく終わって良かったなあ……」

 交渉が終わって、船に戻ってきてからしみじみとした様子で言ったカイトに、アルティモが笑いながら返してきた。

「普通はこんなもんですぜ、船長。初回であんなのに当たったことが、運が悪すぎですわ」

「いや、むしろ初回だからああなったのかもしれんぜ?」

「確かに、それはあるかもしれないですなあ」

 真面目腐った表情で言ってきたガイルに、アルティモはそうだろうなという様子で頷いた。

 

 フゥーシウ諸島の交易品を売ったのは、一つの商会だけではなく、複数の商会に分けて売っている。

 あるいは既にセイルポートでの騒ぎを知った上での対応だったのかもしれないが、それでも何事もなく終わったのはありがたいことであった。

 公爵と海運ギルドに卸した分はあるが、それを除けば一般に流れる品としては初めてということになったのも交渉が上手くいった理由の一つとなっていた。

 今回の交渉で良かったことは、フゥーシウ諸島の交易品を売ることができただけではない。

 しっかりと現地の特産品を確保することができていた。

 今回得た交易品を他の地に売り払って利益を得ることができれば、乗組員たちの給料は勿論、次の航海のための費用に充てることができる。

 さらに、交易で得ることができる利益はそれだけでは収まるわけではなく、新しい船を買って交易を拡大することも可能になる。

 

 資金が増えれば色々夢が広がるというのは、どこの世界でも同じだなあと思いつつ、カイトはふと思い出したように言った。

「そういえば、他の船乗り間でフゥーシウ諸島の話はどう広まっているんだ?」

「そらもう、えらい勢いで広まっていますぜ。船長」

「あのでっかい船が、あの不可侵領域に入って、さらに帰って来るできたらしい! ってな。俺も色々聞かれて苦労した」

 うんざりという顔になって言ったガイルに同意するように、アルティモも実感の籠った表情で何度も頷いていた。

 それだけフゥーシウ諸島に関する話題は、船乗りにとっては興味が惹かれる対象なのだ。

 

 アルティモは、さらにガイルの言葉を捕捉するように言ってきた。

「船乗りはどうやってあの結界を越えたのかが話の中心だが、商人どもはどんな商材があるのかが気になるみたいですぜ。特に魔物の素材系は、ほとんどの商人から聞かれましたわ」

「魔物の素材か。そういえば、前の時はその辺はほとんど確認しなかったな」

「回るべきところが多かったから、それも仕方ないがな」

 カイトが反省するように言った言葉に、ガイルは肩を竦めながらそう言ってきた。

 細かいところまで調査を行っていれば、一週間やそこらの滞在では全く足りない。

 そこまでのんびりするつもりはなかったのと、フゥーシウ諸島に住んでいる住人たちの警戒度もあったので、適度な話し合いだけで切り上げる必要もあったのだ。

 

 今回の航海もそうだが、フゥーシウ諸島への訪問が増えれば徐々に住人たちの警戒度も下がっていくはずである。

 それに合わせて、現地調査の範囲を広げて行けば、色々な商材を見つけることができるはずだ。

 今回は突発的にフゥーシウ諸島へ行くことになったので、せっかくだから魔物の素材系を中心に調べてみればいいかもしれないと、そんなことを考えるカイトであった。

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