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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(37)これからの予定

 セイルポートから離れると決めたカイトは、レグロに他の乗組員に連絡を取ってもらうようにお願いした。

 休日などの関係もあるので、流石に今日決めて明日出発というわけにはいかないが、四、五日中には出発するつもりでいる。

 レグロのいるところでガイルと今後の予定を話していると、ふとそのレグロが話しかけてきた。

「セイルポートを出るのはいいんだが、目的地は決まっているのか?」

「それなんですが、ちょっと思いついたことがありまして」

「ほう?」

「折角なので、フゥーシウ諸島に向かう際の中継地になりそうな場所を探してこようかと思います」

「なるほど。それは興味深いな」

 カイトの言葉に、レグロが面白いという顔になって頷いた。

 セプテン号でもそうだが、フゥーシウ諸島に向かうには長い間補給もせずに航海をしなければならないので、普通に交易するにはハードルが高すぎるのだ。

 途中で水だけでも補給ができる場所があれば、航海が随分と楽になるのは間違いない。

 海運ギルドのギルドマスターであるレグロが興味を持つのも当然のことだ。

 

 少しの間顎をさすって何やら考えていたレグロは、確認するような視線を向けてきた。

「島を見つけた場合は、領有権を主張するのか?」

「そこが問題なのですよね。どうすればいいと思いますか?」

 ここ最近ではほとんどないのだが、航海の最中に新しい島を発見することがある。

 その場合は、船のオーナーが領有権を主張できるようになっている。

 

 問題なのは、新しい島(陸地)を見つけたのが個人のオーナーだった場合で、基本的には発見・報告後にどこの国に所属するかを決定しなければならないことだ。

 もしそれをしなかった場合には、必ずどこかの国が軍事的に攻めて来ることになる。

 陸地を発見したばかりのオーナーが、一国の軍を追い返すほどの力を持っていることなど稀で、結局はその国に領有権を明け渡すことになってしまう。

 それならば、最初から国に渡してしまって、金銭なり領主としての権限を貰うなりした方がいいのだ。

 

 カイトの場合も、いくらセプテン号が防御に優れる船だとしても、数の暴力にはかなうはずがない。

 そもそも陸地に上陸された時点で、負けが決定になってしまう。

 そうなることが分かっているのだから、最初から国を相手に交渉することを前提に考えるのは当然のことだ。

 もし、国に対抗できるくらいの船団を作っているのであれば別の道を選ぶこともできるのだが、いきなりそんな船団など作れるはずもなくどうすることもできない。

 

「さて。どこかの国に渡すということを前提に考えていいんだよな?」

「勿論です。出来る限りいい条件のところに渡したいですね」

「ロイス王国にはこだわらないのか?」

「確かにロイス王国は生まれた国ですが……それを建前にして、足元を見て来るようなところには譲りたくはないです」

「それもそうか」

 当たり前といえば当たり前の主張に、レグロは納得の表情で頷いた。

 時に国家というのは、その国民に対して傲慢な態度に出ることがある。

 そんな国に対して、最初から頭を下げるような真似をしたくないと考えるのは、当然の感情だろう。

 選択肢がない場合は仕方ないと諦められるが、今回の場合は選ぶことができるので無理をする必要はない。

 

「まあ、ロイス王国の今代の王は、拡張的じゃないから変に足元を見て来ることはないと思うがな」

「そうなのですか?」

「たぶん、だが。なんだったら公爵にも動いてもらったらどうだ? ……って、まだ見つかっていないのにこんなことを話しても仕方ないか」

 事前に考えうることは考えておいても損はないのだが、先走って考えすぎてもあまり意味はない。

 

 そもそも、フゥーシウ諸島に向かったことがある船はセプテン号が初めてというわけではなく、それらの船からも途中で島などが見つかったという報告はない。

 そのことから考えても、カイトたちが新しい島を発見するという確率はほとんどないとレグロは考えている。

 今この場で権利云々の話をしたのは、この先セプテン号がより遠くの場所へ向かったときのことを考えてのことだ。

 それもまだまだ先のことなので、とりあえずはカイトの意思を確認しておくという意味もある。

 

 生まれた国の政治的な立ち位置などこれまで暮らしてきてほとんど情報が入っていなかったカイトとしては、レグロからの話はありがたい限りだ。

 カイトも少しずつ乗組員たちから話を聞いたりしてはいるのだが、それでも偏ってしまうのは否めない。

 特にセプテン号は各所から注目を浴びているので、カイトがきちんとした知識を持って立ち回る必要がある。

 そういう意味では、きちんと学園に通うということは、必要だということだろう。

 

 セイルポート以外でもう一つか二つくらいは拠点となりそうな港町を見極めてから学園に通い始めるのも視野に入れようと考えるカイトに、レグロは少し訝し気な表情を向けてきた。

「――何か考え事か?」

「いえ、大したことではないです。船の運航が安定してきたら、きちんと学園に通うことも考えないとなと思っただけです」

「ああ、なるほど」

 魂使いであるカイトが学園に通うことを考えるのはごく自然なことで、レグロも特に不思議がることなく頷いた。

 平民が学校に通える機会などそうそう多くはないので、基本的には行きたがるのがほとんどなのである。

 カイトが学園に通うとなると、その間セプテン号の運航はガイルに任せることになる。

 といっても、例の能力でセプテン号がどこにいてもカイトは船長室に戻ることができるので、あまり心配はしていないのだが。

 

「――それにしても学園か。お前さんが大人しく一学生をやっている姿は、想像できないんだがな」

「いや、それは失礼でしょう。私は、正真正銘の十二歳ですよ」

 最近自分でもあまり信じられなくなってきていることを言ったカイトに、レグロだけでなくその他二名の視線が突き刺さってきた。

「これほど説得力のない十二歳という言葉を始めて聞いたな」

「カイトさんは、いい意味で十二歳には見えませんから」


 フォローになっているのかいないのかいまいち判別がつかないメルテの言葉を頂戴したカイトは、知らんぷりをするように横を向いた。

 ちなみに、話の流れでこんな態度を取っているカイトだが、前世の記憶があるせいかあまり自分自身でも十二歳という年齢にはこだわりはない。

 外見詐欺(?)を利用して話を上手く誘導することはあるが、絶対に十二歳に見られたいという考えは全くない。

 だからこそ、ネタのように話題にされるのは、面白く思っても不快に思うことはないのだ。

 

 中継地的な島探しの話から何故かカイトの年齢の話になったところで、レグロとの話し合いは終わった。

 特に話題も無くなったので、レグロがカイトの年齢の話を出したということでもある。

 とにかく、しばらくの間変な騒ぎが収まるまではセイルポートから離れて行動することが決まった。

 それがまた新たな騒動の種になるということは、この時点でカイトを含めて誰も想像していないのであった。

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