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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(27)フゥーシウ諸島での暮らし

 クリステルの問題を話し合った後は、フゥーシウ諸島から持ち帰った交易品についての話をした。

 ただ、話し合いといっても、ほとんど決められた内容を確認するだけで終わった。

 もっと具体的にいえば、公爵はきちんと目録を用意してくれていたので、それを見て細かいところを決めただけである。

 公爵が提示してきたそれぞれの個数は、ほとんどがカイトの予想を超える者ではなかったので、交渉らしい交渉も発生しなかった。

 この辺りは、交易品を独占するよりも商人同士で自由にやらせたほうがいいという、代々の公爵家の家訓に沿ったものである。

 公爵としては、自分が直接他の貴族とやり取りする分だけを貰えればいいという考えなのである。

 とにかく、公爵の分が正確に決まったことで、あとは残りの分を出来るだけ高く各商会に卸すようにしなければならない。

 セプテン号がフゥーシウ諸島から戻ったということは、既に各商会にも伝わっているはずなので、出来るだけ早くその交渉を始めたいとカイトが考えるのは当然のことである。

 

 公爵との話し合いを終えたカイトは、一度セプテン号へと戻って待機していた部下に話を通した。

 これから船に積んだままの荷物を、公爵の屋敷へ運んでもらわなければならない。

 正確には人を雇って運ばせることになるのだが、そこはカイトは関知せずに、部下にお任せ状態だ。

 そして、カイトはガイルとメルテを伴って、再び公爵家へと戻った。

 今度は海運ギルドを始めとした各商会を回らなければならないのだが、先ほどの公爵との約束を果たさなければならない。

 ちなみに公爵は、今回の件を借りと考えているようで、カイトに何かあればいつでも公爵の名を出して良いとまで言っていた。

 

 そして今、クリステルを加えて移動している馬車は、とある商会へと向かっている。

 カイトたちが乗っているその馬車は、公爵家の家紋が掲げられたものではなく、一般でも借りることができるものだ。

 このことからも、クリステルはあくまでも見届け人くらいの扱いであることが商会にも伝わるはずである。

 また、相手にそう考えてもらえるように、わざと普通の馬車に乗ることにしたのだ。

 

 

 そして、カイトたちがまず向かったのは、当然というべきか海運ギルドであった。

 公爵は立場上最初になるのが当たり前として、その次に後ろ盾になってくれているギルドを優先したのである。

「――ようやく来てくれたか」

「いや、ようやくって、まだ入港してから一日しか経っていないじゃないですか」

「俺にしてみれば、一日しか(・・)じゃなく、一晩()だがな」

「無茶を言わないでください。公爵様の所に行っていたことは、言ってあったじゃないですか」

「まあ、そうだがな。それに、何やら面白いことになっているみたいだからな」

 レグロはカイトに向かってそう言いながら、クリステルには目礼だけで済ませた。

 普通に考えれば無礼だと言われてもおかしくはないが、普通の馬車で来たという事実をしっかりと理解しているからこその対応である。

 そのため、カイトは勿論、クリステルもそれに対して文句を言うことはなかった。

 

「面白いって……他人事ですか」

「何を言っている、他人事に決まっているじゃないか」

 ため息交じりに言ったカイトに、レグロはニヤリとした笑みを浮かべた。

「はあ。もういいです。それよりも、話を進めましょうか。……といっても、言葉で話せるようなことは、もうほとんどありませんが」

 カイトがそう言って一緒に着いてきた部下を見ると、その部下が紙を数枚取り出して、それをレグロへと渡した。

 

 渡されたその紙に書かれている内容を一瞥だけしたレグロは、さらにその紙を後ろに立っていたギルドの職員へと渡す。

 その紙に書かれているのは、今回の交易で持ってきた公爵の取り分を除いた目録が書かれていているのだ。

「公爵に渡っているのに、結構な量が残っているな。初回の割には随分と持ってこれたんじゃないか?」

 流石に海運ギルドのギルドマスターをやっているだけあって、これまで交易をしていなかった相手からの買い付けがどんなものかは、きちんと理解しているのだ。

 

「多少、無理を通したところもありますが、それでも住人たちにとってはあり得ない値段で買い付けたので、向こうも大分儲けているようですよ」

「ほう。そうなのか」

「元々、嗜好品の類が少ない場所みたいでしたから。どちらかといえば、そちら方面よりも生産に関わる商品をお願いされたくらいです」

「なるほどな。まだまだ生活をしていくだけで精一杯……というわけでもなさそうだが?」

 レグロは、そう言いながらメルテをちらりと見た。

 毛に覆われている顔では他の人族のように表情を読むことは難しいが、メルテが口減らしのような形で送られてきたわけではないことは分かる。

 

「そうだなあ……。こっちの田舎暮らしとほとんど変わらない……と、言いたいところだけれど、考えてみれば俺、港町くらいしか知らないや」

 カイトはそう言いながらガイルを見た。

 この話に関しては、あまり役に立てないと分かったのだ。

「いや、カイトが言っていることは間違っていないぞ。確かに、こっちの田舎暮らしと変わらない……というか、人獣たちとさほど変わらないと思うぞ?」

「ほう。そうなのか?」

「ああ。勿論、諸島内で全部を賄っている分、こっちにあって向こうにない物とかはあるようだったが、全体が貧困に喘いでいるというようには見えなかったな」

 少なくともセプテン号で見て回った集落や村の中で、極端に貧しそうだった場所はなかった。

 ただし、セプテン号という大きな船が入れるような港がある村となると、そこまで極貧にならないということもあるかも知れない。

 

 そのことを確認するために、カイトとガイルがメルテを見ると、メルテはジッと考えるように言った。

「確かに、一部を除けば大体は皆、同じような暮らしぶりではないでしょうか」

「一部を除くと……?」

 その言い方に興味を覚えたのか、レグロが視線をメルテへと向けた。

「開拓されたばかりの開拓村とかですね。ですが、それはこちらも同じなのでは?」

「確かに、そうだな」

 メルテの言ったとおりに、大陸側でも新たに入植されているような開拓地は、基本的に貧しいところが多い。

 国や領地の貴族が潤沢な予算を使って開拓をしているならともかく、大抵はそんな予算を使っているようなところはない。

 

 メルテの言葉に何度か頷いていたレグロだったが、その途中で何故か首を傾げた。

「それは分かるんだが、何故嗜好品の類が少ないんだ?」

「ああ、それは簡単ですよ。そもそもあちらには、国という大きな枠組みがありませんから」

「何……?」

「いや、そこは驚くところではないでしょう? 大陸にいる人獣たちも同じではありませんか」

 そもそも人獣たちは、ヒューマンのように人が集まって大きな集団を作るという習性(習慣?)がない。

 そのため、国家のような大きな組織を作って纏まるということも無いのだ。

 国のような形がないということは、せいぜいがその集落をまとめるような長がいるくらいになり、貴族や王のような金と時間に余裕のある者は生まれにくい。

 そうなると、娯楽に費やすための時間もあまり作れないということになり、そうした関係の物が発展しないのも道理である。

 

 フゥーシウ諸島では、思った以上に素朴な暮らしがされていると理解したレグロは、半ば感心、半ば呆れたような表情になっている。

 例の結界があるために外敵が無かったおかげだろうが、もしどこかの国が集団で攻め入れば、簡単に落ちてしまうと考えたのだ。

 だが、これにはちょっとした誤解があるのだが、レグロから聞かれなかったカイトとガイルは、それを話すことはなかったのである。

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