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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第2章
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(5)今後の方針と豆知識

 ギルドでの話を終えたカイトとガイルは、その足でセプテン号へと戻った。

 今日は出航の予定ではないが、先の予定を確認するために最初から戻る予定だったのだ。

 他の船員たちは、出航しないと言ってあるので全員が上陸している。

 そのため、最近は賑やかになっていた船内だったが、今は妙に閑散としているように見える。

 アイリスを中心にした天使たちは、荒くれ者に近い海の男たちとは違って、基本的に静かに動き回っているので尚更そう感じるのかもしれない。

 

 それはともかく、二人が戻るとそれを待っていたかのように、アイリスが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま。何か、問題はあった?」

「特にございません。いつものように侵入を試みた者がいたくらいでしょうか」

「そう」

 セプテン号が港に近付けば必ず起こる問題として、侵入者のことは軽く無視されている。

 船長カイトの許可がないと入ることができないセプテン号には、それこそ神のような力を持っていなければ侵入することなど不可能なのだ。

 

 普通なら顔色を変えて慌てそうなところをあっさりとやり過ごしたカイトは、ガイルと共に船長室に入った。

「さて。これから先のことだけれど……」

「なんだ。例の不思議海域に行くんじゃないのか?」

 あっさりとそう返してきたガイルに、カイトは苦笑してから頷いた。

「いや、出来るならそうしたいところなんだけれどね。他の人たちの確認はしなくてもいいのか?」

「何を言っているんだ。船に乗ったら長期間戻ってこれないなんて、当たり前のことだろう?」

「いや、そうなんだけれどね。今回はいつもと違って、長期間陸に上がれない可能性もあるぞ?」

「なるほど。そういうことか」

 ガイルもようやくカイトの不安点が分かって、納得したように頷いた。

 

 不思議諸島の探索は、片道だけでも五日程かかると言われている。

 セプテン号であればもう少し短くなるだろうが、初めて行く海域で他の船の往来もない所なので実際は分からない。

 さらに、その海域にある島々に上陸できなければ、さらに陸に上がれる期間が延びてしまうことになる。

 一応カイトとしては、最大でも二十日程度とみてはいるが、それでもそれだけの期間陸に上がれないことで不満に思う船員は出て来てもおかしくはない。

 

 ――と、そんなことを考えてのカイトの言葉だったのだが、一度は頷いたガイルは笑みを浮かべながら首を左右に振った。

「そんな心配はいらないぞ。そもそも、陸に上がろうが船の上にいようが、同じ町に長く居られないのが船乗りだ。今の休みを縮めたら怒るやつはいるだろうが、そうじゃない場合は大した問題じゃない」

「そんなものか」

「そんなもんだ。それに、長期航海が駄目な場合は休みのうちに確認を取っておけばいいしな」

「ガイルは、皆がどこで暮らしているのか分かるのか?」

「いや、流石に分からないな。ただ、大抵どこかの酒場にいるだろうから、そこで話をするさ」

「そう。それじゃあ、お願いしていいか?」

「勿論だ。――それで? 肝心の答えを貰っていないが、本当に目指すんだな?」

「そのつもり。これだけフラグが建っているのに、無視するのも気持ちが悪いからな」

 フラグという言葉に首を傾げたガイルだったが、カイトは苦笑いをしながら何でもないと首を左右に振った。

 つい記憶の名残で口から出てしまった言葉だったが、こちらの世界で通じないのは当たり前だ。

 

 カイトの様子に首を傾げていたガイルだったが、すぐに切り替えるように言った。

「まあ、いいか。とりあえず、例の海域を目指すのであれば、他の奴らにも言っておく」

「うん。頼むよ」

「了解した。それで、いないとは思うが、もし予定があると言われた場合は別のメンバーを探すのか?」

「それは悩みどころだよな。別に、いないならいないでどうにかなるし」

 

 そもそも現在のセプテン号は、天使たちの運用によって動いているも同然である。

 新しく乗った船員たちも徐々に慣れてきてはいるが、まだまだ危なっかしいところもある。

 そういう意味では、別に全員が乗ってこなくても問題はない。

 というわけで、わざわざ新しい船員を乗せる必要があるわけではない。

 

「そうか。それじゃあ、今回は募集は止めておくか」

「そうだね。ガイルが必要ないと思うんだったらしなくていいさ。ただ、いずれは彼女たちの手助けなしに動かせるようにしたいけれどね」

「それはそうだ」

 現在は、天使たちの力を借りて半自動で動いているようなものだ。

 カイトの最終的な目標は、天使たちの力を借りなくても動かせるようにすることだ。

 精霊機関という未知の動力源を使っている以上は必ず天使の手は必要になるが、風の力だけで動く分には天使の力は必要ない。

 

「それで、一応確認だけれど、嵐は?」

 ガイルの魂使いとしての一番高い能力は、嵐の先読みである。

 数日の休日を挟んでから長期の航海に出ることになるので、カイトが嵐を確認するのは当然だ。

「さてな。俺が断言できるのは五日先くらいまでと、この辺りの海域に関してだけだ。その先になるとさすがに分からんよ」

「それもそうか。先走りすぎたわ。ごめん」

「いや、いいさ。謝ってもらうようなことでもない」

 そう言いながら軽く右手を振ったガイルに、カイトは下げていた頭を上げるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ガイルとの打ち合わせを終えたカイトは、養蚕小屋へと向かった。

 フアであれば、一連の流れが作為的なものかどうか確認するためだ。

 公爵やギルドマスターの所では素知らぬ風を装っていたが、神域であれば答えてくれると考えたのである。

 

 そんなカイトの考えを見抜いていたのか、神域へと転移するなりフアが機先を制して言ってきた。

「言っておくが、吾が確認している限りは、介入しておらんからの」

「あ。やっぱりか」

「なんじゃ。やっぱりということは、分かっておったのか」

「まあ、フアの態度とか見ていればね」

 恐らくそうだろうと考えてはいたので、それに関して特に思うところはない。

 

 それに、わざわざ会話ができる神域にまで来たのは、別に聞きたいことがあったからだ。

「それはまあいいとして、神様ってこういうことは出来るのかな?」

「こういうことは?」

「要するに、フラグを一杯建てて人を思い通りに動かすようなこと?」

「何故疑問形なんじゃ。まあ、それはいいとして、出来る出来ないで言えば出来ると思うがの? 吾はやったことが無いが」

「出来るんだ」

「うむ。だが、非常に手間がかかって面倒じゃから、やろうと思う神のほうが少ないのではないか? 創造神クラスになれば分からんがの」

 手間がかかるというのは、真面目に人の世界に神が介入しようとすると、複雑な条件などが必要になって来るためだ。

 むしろ、そうであるからこそ、この世界では魂使いという海人の視点からすれば特殊なシステムが存在しているのである。

 

 魂使いは、神々が自身の意思を人の世界に通じやすくするためのものと説明されたカイトは、納得した表情で頷いた。

「なるほど。そう考えれば、確かに便利だろうな」

「勿論それだけではないがの。そういう一面があるというくらいに覚えておけばいいのではないか」

「分かった。そうしておく」

 今後必要になるかどうかはわからないが、覚えておいても損はない。

 そう考えたカイトは、頭の片隅に今聞いた話を置いておくことにするのであった。

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