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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
42/134

(42)それぞれの話し合い

 部屋から出て行ったカイトとガイルを見送ったクリステルは、そっと父親モーガンの顔を窺った。

「――――お父様?」

「やれやれ。とんでもない者との縁をつないだものだな、クリス。良いのか悪いのかは、こちらの対応次第といったところだろうな」

「は、はい」

 首を振りながらため息交じりに言ってきたモーガンに、クリステルは慌てて首を縦に振る。

 

 そして、未だ自分たちに探るような視線を向けている母と姉を見てから、再度モーガンを見る。

 だがモーガンは、もう一度首を左右に振ってから言った。

「今はまだ、言わないほうがいいだろう。ただ、ある程度のあたりはついているであろうが」

 アリアンヌもオレリアも、先ほどまでの話の流れでいずれかの神が関わっているのではないかと予想はしている。

 ただし、ロイス王国の王族を通して国神までもが関わっていることは知らないままだ。

 

 父親の言葉を聞いて不安そうな表情をするクリステルに、モーガンは微笑みながらさらに続けた。

「そこまで心配することはない。もし、強引に事実確認に迫ってくる者がいれば、しっかりと私が対処する。もしくは、さっさと王の名前を出してしまえ」

 いささか投げやりな調子で言ったモーガンに、クリステルは戸惑った表情になった。

「それでいいのですか?」

「実際、私も王家から言われたこと以外は何も知らないからな。何か強く問われた場合は、私が王家から何かを言われたと返せばいい。それしか知らないともな」

「わ、わかりました」

 ヨーク公爵であるモーガンが、平民であるカイトとほぼ対等に近いような条件で話をしたことは、遅かれ早かれ貴族内に広まるはずである。

 その際に最も矢面に立たされるのは、この場にいた中で一番年が下であるクリステルになるだろう。

 

 そのときの対処方法まで教わったクリステルは、内心で安堵しつつ申し訳なさそうに母と姉を見た。

 自分はある程度のことは教えてもらっているのに、二人は状況が分からないままに話し合いに参加して、さらにその中途半端な状態なままなのだ。

 そんなクリステルに、アリアンヌが微笑みながら言った。

「クリス、そんな顔をしないで。わたくしたちに知らせないほうがいいと、お父様が判断したのよ。わたくしたちはそれに従うだけよ」

「すまないな」

 クリステルが何かを言うよりも先に、モーガンがそう応じた。

「構いませんわ。それに、いずれはお話しくださるのでしょう?」

「ああ、それは間違いないな。今はともかく、いずれは明らかになる時がくる。……できるなら、それが悪い知らせではないことを願うな」

 感慨深げにそう言ったモーガンに、クリステルは同意するように頷いた。

 

 カイトの連れているあのコンが神の一柱だと知られれば、今以上の注目を浴びるはずである。

 それがなくても、あの巨大帆船のお陰で注目されそうになっているのだ。

 今はまだ巨大帆船とカイトは結び付けられてはいないが、それも時間の問題である。

 もし、カイトと巨大帆船の関係が世間にばれたときに、強硬手段に出る輩がまったくいないわけではない。

 いくらギルドの後ろ盾を得て、さらに公爵家の一つと関係を持っていたとしても、強引な手段に出る者は必ずいると断言してもいいだろう。

 

 そう考えたクリステルは、不安そうな顔になって父親を見た。

「彼の身を守ることは、考えなくてもいいのかしら?」

 セプテン号がセイルポートに戻ってからここに来るまでの間、カイトは割と気楽に町の中を歩き回っていたという報告は聞いている。

「さてな。そこはまだ私が口を出すことではないだろう。それに、海運ギルドも何らかの手を打っていると思うがな」

「……そうですね」

 納得した表情で頷くクリステルの顔を見ながら、モーガンは思考をカイトのことから先ほどの会話のことに戻した。

 

 カイトから提案された内容は、モーガンにとっても得難いものであることには間違いない。

 そのためにも、出来ることは先んじて手を打っておく必要がある。

 まずは、神との契約を果たすために、下準備を色々と進めておかなければならない。

 モーガンの頭の中は、すでにそのための具体的な手段をどう取っていくかでいっぱいになっていた。

 そして、それを見ていた母娘三人は、彼の思考を邪魔しないようにそっと部屋から出ていくのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 公爵の家を出たカイトとガイルは、その足でそのままセプテン号へと向かった。

 内緒の話をするのには、今のセプテン号ほど向いている場所はない。

 そして、笛の能力を使ってセプテン号に入るなり、ガイルがカイトに向かって言った。

「全く……。お前には驚かされてばかりいるな」

 公爵相手に対等どころか、想定以上の結果を出したカイトに、ガイルは話し合いの最中には態度にほとんど見せていなかったものの驚きまくっていたのだ。

 それでも顔に出すのをある程度抑えられていたのは、どういった話をするのかを事前に聞いていたためである。

 

「国神に関しては予想外だったが、お陰でいい方向に話が進められたからよしとしようか」

「そういう問題じゃないんだがな……」

「まあまあ。終わり良ければすべてよしというじゃないか」

「……ハア。まあ、いいか。確かに、これ以上言ってもどうしようもないからな。それよりも、これからどうするんだ?」

「うん? きちんと予定通りに進むつもりだけれど?」

「公爵の返事は待たなくてもいいのか?」

「ああ。あれは、どう考えてもすぐにまとまるような話じゃないから。短期間なら離れても問題ないと思う」

「そうか」

 カイトに答えに、ガイルはそれだけを言って頷いた。

 

 先日セイルポートに戻ってきたカイトとガイルだが、実はすぐに港を出る計画を立てていた。

 といっても、今回の旅は一週間にも満たない短いものになるはずだ。

 前回の依頼でどうにか人を雇うだけの資金を得ることはできたが、ぎりぎりであることには違いない。

 それを考えると、今度は効率を考えた割のいい仕事をするというのが理想だ。

 

 セプテン号は、他の乗組員がいなくても動かすことができるが、いつまでもその状態のままにさせておくつもりはない。

 であるならば、乗組員を雇うのは早ければ早いほうがいいのである。

 ただ、次の航海もカイトとガイル、それと天使たちだけで行うつもりでいた。

 ここで乗組員を雇用すると資金がぎりぎりになってしまうからというのもあるが、ガイルが航海術をもう少し習熟したいと言ったからというのもある。

 

 そこで、ガイルの習熟度の向上と、資金を増やすための手段として、短めの航海で済む依頼を受けることにしたというわけである。

 そのための依頼を探すのは、ガイルに一任されている。

 カイトが選んでもいいのだが、まだまだこの世界の常識になれていないからということがある。

 

 それに、カイトはカイトで別にやること増えてしまった。

 先ほどの公爵との話し合いで、神々が裏で何やら話をしていたことがわかった。

 それについて、きちんとフアに確認を取らなければならない。

 そう考えていたカイトは、ガイルを外に送ってから再びセプテン号へと戻り、そのままフアの神域へと向かうのであった。

あと数話で第一章は終わりになります。

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