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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
38/134

(38)国神

 カイトとガイルは、海賊を発見してからクリステルたちを助けるまでの話を交互にした。

 その間、公爵は相槌を打つくらいで、基本的には言葉を挟んだりすることはしなかった。

 時折疑問に思ったことを問いかけてきたくらいで、本当に事実の確認を行いたかっただけだとわかった。

 カイトとガイルは、公爵のセプテン号のことを詳しく聞いてこないその態度を疑問に思ったが、敢えて口にすることはなかった。

 下手に口にして、それを逆手に取られることを懸念したのだ。

 

 とにかく、公爵への話は、セプテン号についてのことはほとんど触れずに海賊についてのことだけで終わった。

 ただ、その先もあるのだろうと当然のようにカイトは内心で身構えていたが、公爵は納得した表情で頷き返してきた。

「――なるほど。確かに、こちらの乗組員たちから集めた情報と同じようだな。それにしても、あの海域に海賊が出現するとは聞いたことが無かったが?」

 公爵は、そう言いながら視線をガイルへ向けた。

 カイトはつい最近儀式を受けたばかりの子供で、ほとんど船乗りとしての実績がないことを知っているのだ。

 だからこそ、カイトが船長と知っていても、ガイルに問いかけたのである。

 

 公爵に視線を向けられたガイルは、少しだけ考えるような表情になってから頷いた。

「確かに、私も聞いたことがありませんでした。ただ、他の二隻も引き連れていたことから、それなりに名の知れた海賊だと思うのですが……」

「ふむ。こちらの船長もそのようなことを言っていたな。ついでに、残念ながら覚えのある旗ではなかったということも」

 ほとんどの船は、所属を明らかにするために船舶旗を掲揚している。

 船が旗を掲揚せずに航行すると、国によってはそのまま拿捕なり撃沈なりされてしまうという所もあるくらいだ。

 

 海賊が旗を掲揚するのは、示威行為のためであることが多く、有名どころであれば多くの船乗りたちに知られるだけではなく、恐れられている。

 このことから海賊にとっての海賊旗は、仕事をやりやすくするという面もあるのだ。

 船乗りたちが知名度のある海賊旗を覚えておくのは、基本的なことだったりする。

「私も聞いたことのない旗でしたね。もしかしたら、新興の勢力ということも考えられますか」

「かも知れないな。――こちらから直接調べることができないのは残念だが」

 海賊たちがいた海域は、ロイス王国の統治下にあるところではなかった。

 そのため、公爵が下手に口を出せば、外交問題に発展する可能性もある。

 公爵ができることといえば、せいぜいがこれこれこういう海賊に出会ったので対処して下さい、と言うことしかできない。

 もっとも、どの国も自国の海域に海賊がのさばっていれば体面的にも商業的にもよろしくないことなので、全力で対処することになるのだが。

 

 問題は、対象の国が得た海賊についての情報をこちらが得ることができるかどうかといったところだが、そこは国同士の外交になってくるので一船乗りが口を出せることではない。

「一介の船乗りとしては、海賊についての情報はできるだけ詳しく知っておきたいところです」

「そうであろうな。まあ、その辺については海運ギルドがどうにかするだろう」

 海運ギルドでは、ランクによって開示するべき情報を切り分けている。

 それに、各国に窓口がある海運ギルドのほうが、国が持っている情報よりも多いということもあり得る。

 また、だからこそ、情報の制限をかけているという面もあるのだ。

 

 海賊についてはこれ以上話をすることが無くなったので、一瞬話が途切れた。

 ここで、これまで黙って話を聞いていたクリステルが、一瞬カイトを見てから公爵を見て聞いた。

「あの、お父様……よろしいのですか?」

「うん? 何がだい?」

「……あの船のことを聞かなくても」

「あ。ああ、そうか。クリステルには言っていなかったか。そうだ、ちょうどいいからここで話してしまおうか。そちらの君も疑問に思っているようだからな」

 公爵は、最後にそう付け加えながらカイトを見た。

 

 カイトとしては、セプテン号のことを聞いてこないことについて表情や態度には現していたつもりはなかったのだが、海千山千の貴族たちを常に相手にしている公爵にはしっかりと見抜かれていたらしい。

 少しだけ恥ずかしく思って視線をずらしたカイトに、公爵は笑いながら続けて言った。

「まあ、それは置いておくとして、私があの船のことを詳しく聞こうとしない理由だったな。これは簡単なことだ。上からの命令だ」

 さらりと言った公爵に、その他の者たちの視線が集まった。

 

 公爵も上の立場となれば、数名の人間しかいない。

 敢えて挙げるとすれば、国王陛下その人か、あるいは既に公式に発表されている王太子くらいだ。

 ロイス王国に公爵家は五つあるが、少なくとも表向きの立場は平等となっているので、公爵が言ったような命令を出来る立場にはない。

 となれば、やはりそんな命令を出したのは最初の二者ということになるわけだ。

 

 そのことはすぐにクリステルにもわかったのか、驚いたような表情になっていた。

「な、なぜ、王家が?」

 クリステルがセプテン号に乗っていた数日間で、何度かカイトと話もしていたがそんな繋がりがあるとは聞いていない。

 それに、カイトとガイルも同じような表情になっているので、そこから王家に話が通っているとは思えない。

 

 そんなクリステルの疑問を見抜いたのか、公爵は三人の顔を交互に見ながら首を左右に振った。

「いや、恐らく王家ではないな、あの反応は。これは私見だが、国神辺りが関わっていると考えている」

 国神というのは、初代王が契約していた神のコンのことである。

 その神は、初代王が亡き後も国神として代々の王と特殊な契約をして国の行く末を見続けている。


 まさかここで国神が出て来るとは考えてもいなかったクリステルとガイルが驚いた表情になる。

 それに対してカイトは、ちらりと自分の右腕にまとわりついていたフアを見た後、納得した表情で頷いた。

 国神が関連しているとなれば、神同士で何らかのやり取りがあったのだと推測ができる。

 そうであるならば、公爵を相手に隠していても仕方ないと考えたのだ。

 もっといえば、公爵を巻き込んでしまったほうがいいという思惑もある。

 

 そんなことを考えていたカイトを見て、公爵はやはりかという顔で頷いた。

「どうやらそなたには心当たりがあるようだな」

「そうですね。私のコンは、神の一柱ですから」

 カイトがあっさりそう告げると、今度はクリステルとガイルの視線がフアへと向かった。

 二人はカイトが常に連れている狐が、コンであることは知っている。

 ごく普通の狐のコンだと考えていたフアが、実は神の一柱だったと分かれば、そういう反応になるのも仕方がない。

 

「……なるほど。二人の態度を見れば、そなたが隠していたということはわかる。――私を後ろ盾にでもするつもりか?」

「なってくれるのですか?」

 そうだとも違うとも答えずに、敢えて質問に質問で返したカイトに、公爵は大きくため息をついた。

「そなたは、本当にクリスと同じ年かね? クリスも年の割には大人のような(・・・)対応ができていると思っていたが、そなたはそれ以上のようだ」

「勿論です。何でしたら、私が所属している孤児院に問い合わせていただければよろしいかと思います」

 カイトが暮らしている孤児院には、公爵も寄付をしていたはずである。

 もっとも、セイルポートを治めている公爵は、町に存在している孤児院すべてに寄付をしているのだが。

 

「そうか。それはどうでもいいことだな。それから、そなたの質問に対する私の答えだが、どちらでも構わない、だ」

「……と、仰いますと?」

「私が王家からそなたに関することで言われたのは、『不用意な干渉はするな』だ。というわけで、そなたが望めば後ろ盾になることはやぶさかではない。だが、貴族としての立場を無理に押し通すことはしない」

 あっさりと貴族としての特権を放棄することを宣言する公爵に、カイトはなるほどと頷きつつ、内心で先手を打ってくれたフアと創造神に感謝をしていた。

国神は造語ですが、読みは「くにかみ(がみ)」か「コクシン」どちらがいいでしょうね?

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