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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
29/134

(29)順調な航海?

 エイリカの港を出たセプテン号は、順調に次の目的地へと向かった。

 二つ目の目的地はエイリカから見れば西にある町で、日数的には翌日に着くくらいの距離である。

 ただし一つ問題があって、その港はセプテン号が入れるほどの大きな埠頭はないので、沖にいたまま荷物の受け渡しをすることになる。

 海上での荷物の受け渡しは、セプテン号にとって初めてのことになるので、一応注意が必要になる。

 相手ギルド側がどれくらいの大きさの船で来るかもわからないので、そこも不安な点ではある。

 

 次の目的地に着けば、カイトにとってはこの世界で三つ目の国に入国することになる。

 ちなみに、国ごとの税金(関税など)の問題は、海運ギルドが対応することになっていて、基本的に船乗り側が対応することはない。

 簡単にいえば、依頼料の中に税金が含まれているという形を取っているのだ。

 ただし、それは依頼を請け負った場合のことで、普通に船を使って商売を行った場合には個別に税を納めなければならない。

 といっても、その場合でもほとんどの国が基本的に現地で取引を行った相手から税を納めるという形を取っているので、船に乗っている船乗りが直接国から取り立てられることはない。

 

 勿論、どこかの町に家を持った場合の資産税のようなものは別で、その払いが滞れば家の差し押さえなど実行する国もある。

 もっとも、カイトもガイルも今のところ家を持っていないので、その辺りのことを気にする必要はないのだが。

 商会や各貴族のようにその土地に根を張っているのであればともかく、個人で船を所有している場合は何年もの間税金を納めるべき国に訪れないなんてことは珍しくない。

 そうした船からの税金のとりっぱぐれが無いように、敢えて土地に根差している個人や組織から徴収するようになっているのだ。

 

 とにかく、今のカイトはほとんど税金のことは意識しなくても船の運用はしていくことができるというわけだ。

「――まあ、商会を作った場合は、そんなことも言っていられなくなるか」

「なんだ。作るつもりなのか?」

 操舵室でカイトの呟きを拾ったガイルが、少し驚いたような顔になってそう問いかけてきた。

 ガイルは、カイトのこれまでの話からてっきりセプテン号に乗りながらあちこちを旅していくものだと考えていたのである。

 

「セプテン号だけで運航していくんだったらそれでもいいけれどなあ。そのつもりはないから、商会を作ってまとめたほうがいいと思う」

「船を増やすんだったらそうだろうが……あまり自由に動けなくなるぞ?」

「そうなんだよな。それが問題で…………どこかに、信用が置けるいい人材はいないかな?」

「そんな当てがあるなら、俺自身で使っているさ」

「だよねえ」

 

 ガイルの言葉に、カイトはそう答えつつ頷いた。

 商会を任せられるような能力があれば、そもそも船の経理を任せるなり色々と使い道はある。

 一つの船に縛っておくのがもったいないと思えるなら、それこそ商会を作るなりしていただろう。

 ガイルが今でも個人で動いているのは、そうした能力を持った人材に恵まれなかったというのも理由の一つなのだ。

 

「船乗りとして優秀な奴なら、何人か知っているんだがな」

「それは、セイルポートに戻ったときに紹介してもらうさ」

「心配するな。わざわざ紹介なんかしなくても、こっちから頼むつもりだった」

 現在のセプテン号は、天使というある意味チートな存在によって運航されている。

 だが、そもそもの目的である『海人の持つ船の知識を広める』ということを考えれば、いつまでもその状態でいいはずがない。

 というわけで、セイルポートに戻って依頼料が入った場合には、きちんと人材を雇ってガイルと同じように知識を教え込むつもりなのだ。

 

 ガイルはガイルで、カイトから教わっている知識は、どの船乗りでも知りたがるようなものだと理解している。

 そのことを考えれば、セプテン号に乗ることを断るような船乗りはいないだろうと考えている。

 それがなくても、セプテン号のような船に乗ることを誘われて、断るような者はいないだろう。

 実際、ギルドから依頼を受ける前に何人かに打診をしていたが、そのほとんどから色よい返事をもらっていた。

 あとは、カイトとガイルの決断次第という者も何人かいるのだ。

 

 カイトとガイルがそんな会話をしている間も、セプテン号は順調に次の目的地に向かって進んで行く。

 勿論、航行する日数が増えれば増えるほど、穏やかな天候の日だけで済むはずがない。

 それはカイトもガイルもわかっているのだが、とにかくゆっくりできる時にはきちんと休息を取りつつ船の進路を定めていった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 二カ所目で行われた海上での荷物の受け渡しも無事に終わり、さらに三カ所目の港でも特に大きな問題が起こることなくセプテン号は出航を果たした。

 ガイルは、どちらの港でも情報収集やら勧誘めいた言葉などをかけられたようだが、そのすべてを断っている。

 もっといえば、ガイルに突撃してきた者たちは本命であるカイトと話をしたかったのだろうが、結局どちらの港でもセプテン号から降りなかったので、当然ながら話はできていない。

 カイトもそうした状態になることが分かっていたので、エイリカの時と同じように港に降りることはしなかった。

 その分ガイルが苦労することになったのだが、当人はそれくらいのことはいくらでも引き受けると笑っていた。

 

 それはそれとして、三カ所目の港でセイルポートの海運ギルドで受けた依頼のすべてを完了した。

 そのためセプテン号は、完了の報告をするためにセイルポートに向かっていた。

 通常の海運ギルドの依頼であれば、着いた先の港にあるギルドで完了をすればいいのだが、今回に限ってはそういうわけにはいかない。

 そもそも、きっちりとそれぞれの荷物を届けたことを、セイルポートのギルドマスターに報告するまでが今回の目的なのだ。

 

 三カ所目の港からセイルポートに戻る間、カイトはこれまでのように魔法の基礎を習ったり、船の設計や蚕の様子を見たりしていた。

 この時の航路は、これまでの行程の中では一番長い距離であり、それだけ日数もかかっていたため悪天候の中を進むこともあった。

 それでも台風のような大きな嵐に会わずに、船自体に大きな破損などが起こることもなく、順調に航路を消化していった。

 船の中にいるとはいえ、カイト自身はやることがたくさんあって、気持ち的にはあっという間に日数が経っていた。

 

 そして、セイルポートに着くまであと一日程の距離まで来たところで、セプテン号はとある問題に遭遇することになった。

 その時はちょうどアイリスから魔法を教わっていたところで、別の天使のひとりから報告を受けた。

「――――――船が海賊に襲われている?」

「はい。ガイルさんの言葉だとほぼ間違いないそうです。それで、どうするか話がしたいそうです」

「うーん。わかった。とりあえず操舵室に行こう」

 船長室にこもっていても仕方ないと判断したカイトは、そう答えながら席を立つのであった。

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