(27)得意属性
フアからの助言を受けたカイトは、神域からセプテン号へと戻った。
カイトがセプテン号の船長室へと戻ると、そこには待っていたかのようにアイリスが待機していた。
「あれ、アイリス、どうかした?」
カイトがフアの神域にいるときアイリスは、常に船長室で待っているわけではない。
だが、こうして待っていたということは、何かがあるということだ。
「カイト様が魔法のことを知りたいということをお聞きしましたので、待っておりました」
「え、聞いたって誰に?」
「フア様の天使であるクーアですが?」
当然だという顔をしてそう言ったアイリスに、カイトは少しだけ疑問の表情になって聞き返した。
「もしかして、天使同士はどこにいても会話ができるのか?」
「いつでもというわけではありませんが、可能です」
今回はクーアからアイリスに、そしてクーアはフアから話を聞いたのである。
カイトはクーアとフアが会話をしているところを見ていないが、神とその天使であれば場所など関係なく話ができるのだろうと推測した。
神や天使の能力が突き抜けたところにあることは、既にカイトの中では当たり前のことになりつつある。
そのため、どうやって会話をしたのかという疑問は持ちつつ、そこは突っ込まずに会話を続けることにした。
「そうなんだ。それで、どうなのかな? 俺は、魔法を使える?」
「まずは、使える属性や能力値を見てみましょう」
「わかった。というか、天使でも能力を見るだけじゃ分からないのか」
「現時点でどのくらいの能力があるのかはわかりますが、才能に関してはきちんと見ないと分かりませんね。あとは当人の許可も必要です」
上位の天使になると、目の前にいる人物がどのくらいの魔法の技能を持っているかは、見ることで判別することはできる。
だが、その人物の才能を知ろうとするには、それなりの条件が必要になる。
カイトは、今のところ魔法を使えず、その才能を知る必要があるためちょっとした確認が必要になるというわけだ。
アイリスの言葉に納得したカイトは、そのままパソコンがある机の前に座らされた。
「――それで? これからどうすればいい?」
「既にカイト様からの許可は得ているので、そのままで結構です。あとは、こちらで確認するだけですから」
そう言ったアイリスは、時間にして一分ほどの間、ジッとカイトを見ていた。
普通に会話する分にはもう慣れているが、流石にアイリスほどの美貌の持ち主に見つめられると、そういう意味ではないと分かっていてもドキドキしそうになってくる。
カイトがそろそろ限界だと感じるか感じないかのギリギリのところで、アイリスはようやく口を開いた。
「なるほど。大体のところは分かりました」
「思ったよりも早かったな。それで? どうだった?」
「まず属性ですが、カイト様は全属性持ちです」
「おお」
アイリスの言葉に、カイトは嬉しそうに声を上げた。
魔力の全属性持ちは、ラノベやゲームの世界ではチート持ちになる前提条件ともいえる。
嬉しそうな表情で喜ぶカイトに、アイリスはさらに続けて言った。
「ですが、その全てが伸ばしやすいわけではなさそうです」
「…………というと?」
何やら雲行きが怪しくなってきたと思いつつ、カイトは首をひねりながらそう聞いた。
「確かにカイト様は、全属性の魔法を使うことができます。ですが、上位の魔法を使えるようになるためには、それぞれ習得にかかる時間が違います」
「要するに、得意な属性だと使えるようになるのが早くて、不得意だと時間がかかると」
「そうなります」
納得した表情で聞いてきたカイトに、アイリスがそう言って頷き返した。
たとえ使える属性が全部であっても、魔法そのものを習得しなければ使うことはできない。
魔法を習得するには、その魔法の理屈であったり構造などを覚えたりしなければならないので、そこでかかる時間が変わって来るということだ。
そういう意味では才能という言葉に置き換えてもいいだろう。
カイトは、全属性の魔法を覚えることは可能だが、才能のある属性は限られているということになる。
別に時間がかかってもいいから全属性の魔法を覚えたいというのであればそれでも構わないのだが、魔法使いとして能力を伸ばしたいのであれば、やはり属性を絞って覚えた方がいいというのがアイリスの説明だ。
「ちなみに、どのくらい時間がかかるんだ?」
「そうですね。多少の前後はあるでしょうが、得意属性ですと初級から中級に上がるのに数日から数か月。不得意属性ですと早くても年単位といったところでしょうか。それもほとんどの時間を魔法の習得に費やすとすれば、です」
「そんなに違うのか」
ちなみに、不得意属性で数年というのも相当に上手くいった場合を想定している。
それくらいに得意属性と不得意属性の間では、習得時間に差が出て来る。
勿論、不得意属性であっても時間をかければ覚えることはできるが、効率がはるかに悪いことには変わりがない。
「得意属性を極めた後に、他の属性魔法を覚えることはできる?」
「勿論です」
「そう。それだったら、あまり深く考える必要はないな。まずは得意属性から覚えていこうかな」
アイリスの答えを聞いたカイトは、あっさりとそう決断をした。
カイトには、創造神と大地神から頼まれていることがある。
それらにかかる時間を考えれば、平均的に全属性伸ばしていくよりも、まずは得意属性から進めていったほうがいいと考えたのだ。
「それで、俺が使える得意属性というのは?」
「そうですね。大きく二つになりまして、一つは契約系になります。分かり易く言えば、召喚と従属でしょうか」
「ああ、なるほど」
既にデキス、シニスとの間に契約を結んでいるカイトは、納得の表情で頷いた。
デキスとシニスの契約はクーアが仲立ちしてくれたお陰でできたというのもあるが、フアとクーアもそちら方面に才能がありそうだと言っていた。
「あともう一つは?」
「そちらは、内気系になります。こちらもカイト様に分かり易く言えば、身体強化と言ったほうがいいでしょうか」
「身体強化か」
契約系とは全く違った内容に、カイトは思わず目をパチクリとさせた。
前世でもそうだったが、カイトは肉体系でバリバリ動くような性格ではなかった。
そのため、身体強化に才能があると言われてもピンとこなかったのだ。
戸惑った表情になっているカイトに、アイリスが付け加えるように言った。
「身体強化といっても色々ありますから。単に筋力を増強するものから視力を上げるといったものまで。それらのすべてを極めるとなると、かなりの時間がかかります」
「なるほどね。そういうものか」
今のところカイトは、魔法そのものに詳しくないといってもいい。
カイトがイメージする魔法というのは勿論あるが、それはあくまでも前世の想像の世界で作られた産物である。
それらとどう違うのか、実際に身に着けながら色々と比較しなければならないだろう。
そもそも、前世のそうした知識がどれくらい役に立つのか、それすらも今のカイトは分かっていないのである。
ここで、納得顔で何度か頷いているカイトに、肩の上に乗っていたフアが何故か尻尾を揺らして頬に当てて注意を向け始めた。
「うん? どうかしたのか?」
その行動の意味が分からなかったカイトはそう聞いたが、フアを見ながらアイリスが頷いた。
「そうですね。その方がよろしいかと思います。――カイト様、サモンとテイムに関しては、私からよりもクーアから教わった方がよろしいかと思います」
「あ、そうなんだ」
「ええ。フア様は獣たちをまとめている神でもありますから。そちらについては、クーアのほうが詳しいでしょう」
「なるほどね。ということは、身体強化系はアイリスが?」
「そうですね。といっても、基礎に関してはどちらも共通していますから、まずはそちらを教えましょう」
「わかった。よろしくお願いします」
アイリスが教師になると決まったことで、カイトは敢えて態度を改めることにした。
普段も別に尊大な態度を取っているつもりはないが、教わる以上は相応しい態度があるということをきちんと分かっているのである。
ちなみに、世間一般では属性持ちというだけで才能があるとみなされます。
その上で魔法使いたちは、自分が得意なものを見極めて魔法を習得する形です。
そのため、場合によっては不得意属性で頑張り続ける場合も……。




