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魂(コン)からのお願い  作者: 早秋
第1章
22/134

(22)ギルドマスターとの話し合い(後)

「すべての依頼を受けるのはそれでいいとして、準備のためにこっちの希望を聞いて欲しいんだが?」

 望み通りとはいかなかったが最低限の目標を達して安堵していたレグロに、ガイルがそう切り出してきた。

「……なんだ?」

「大きく二つあるんだが、まず、第一埠頭を空けてくれ」

「なに……!?」

 思ってもみなかったガイルの要求に、レグロは驚いた表情になった。

 

 ガイルが言った第一埠頭というのは、セイルポートにある埠頭の中で一番大きな埠頭になる。

 そして、普段その埠頭は海運ギルドが占有していて、よほどのことがない限りは他の組織が使うことはない。

 勿論、貴族や王族がセイルポートから移動する際には使われることもあるのだが、大抵そうした貴人たちはセイルポートからではなく軍港を使うことになる。

 ちなみに、セイルポートを治めている公爵家は、専用の埠頭を持っているので第一埠頭が使われることはない。

 

 ギルド専用といってもいい埠頭を使わせてくれと言われて驚くレグロに、ガイルは肩を竦めながら言った。

「仕方ないだろう? あれだけの大きさの船を泊められる埠頭がほかにあるのであれば、逆に教えて欲しいんだが?」

「それは……確かに、そうだな」

 レグロは、ガイルの言い分に納得して頷いた。

 国内最大級の港を所有しているセイルポートだが、ガイルの言う通りにあれだけの大きな船は第一埠頭でしか止められない。

 ギルド員とはいえ、個人所有の船を第一埠頭泊めるのは異例中の異例と言えるが、他に手段がない以上は許可するよりほかにない。

 

 第一埠頭の利用を盾にして再度交渉をしようかとも考えたレグロだったが、意味ないことに気付いて心の中にとどめておくだけにしておいた。

 そもそもガイルたちは依頼を受ける必要性もなく、商業的な取引だけでセイルポートを立ち去るのであれば、わざわざ第一埠頭にこだわる必要はない。

 セプテン号が泊っている場所まで既存の船で荷を運んで、そこで積み替えればいいだけである。

 ガイルが第一埠頭の使用許可を求めたのは、あくまでもギルドの依頼を受けることになったためだ。

 

「わかった。すぐに第一埠頭を空けるように指示を出す。――荷の積み下ろしはどうするんだ?」

「それが二つ目の希望だな。こっちで人員を手配するよりも、そっちにお願いしたほうが早いだろう」

「……いいのか?」

「構わない」

 一瞬間を空けてから確認するような視線を向けてきたレグロに、ガイルは特に問題ないという顔をして頷いた。

 レグロがここで驚いたのは、ギルド側が人員を手配するということは、息のかかった者をあの船の中に入れるということになるからだ。

 そんなことにガイルが気付かないはずもなく、だからこそレグロは確認を取ったのだ。

 

 ガイルがすぐに了承したのは、最初からカイトとの打ち合わせてギルドが手配した人員で荷運びするということを決めていたからだ。

 セプテン号の積み荷部分は、操舵室やその他の重要施設とは離れていて簡単に行き来することができない。

 それに、人員に紛れて船の確認要員を入れようとしても、許可が出ていないものは魔力的に通過できない。

 迷ったふりをして船内を探索しようとしても、出来ないようになっているのだ。

 

 そんな事情を知らないレグロは、内心で訝りながらガイルを見た。

 あれだけの船の秘密を探ろうとしないはずがないのだが、簡単にギルドが選んだ人員を船内に入れる意図を探ろうとしたのだ。

 とはいえ、ガイルはニヤニヤ笑っているだけで、表情からは探れそうな情報は何も得られなかった。

 レグロは、一応子供の方に視線を向けたが、こちらは最初と変わらず何やら嬉しそうな表情をしただけで、特に何かを知っているようには見えない。


「――そうか。それなら手配はするが……出発はいつだ?」

「さて、それもそちら次第だろうな。まずは、第一埠頭を開けてもらわないことには何もできない」

「そうか。とにかく、荷を運び込み次第、出発する」

「わかった。ほかの荷は?」

 あれだけ巨大な船なので、依頼以外の荷物も積みこむだろうと考えてのレグロの問いかけだったが、ガイルは首を左右に振った。

「今回は何も積まずに出ようと考えている。……どうせ、胡散臭がられてろくな客はつかないだろうしな」

「ああ、なるほど。そういうことか」


 巨大な船というのは見た目だけで考えれば威圧感を与えることができるが、船の常識を知っている者であれば、まずはまともな航行ができるとは考えないだろう。

 それが、今の大陸内での常識なのだ。

 もし、簡単に船の大きさを巨大化できるのであれば、とっくに国なり大商会なりが開発しているはずだ。

 にもかかわらず、セプテン号ほどの巨大な船が唐突に出てくれば、まずは沈没――とまではいかないまでも、まともな航行ができるとは考えないだろう。

 だからこそガイル(とカイト)は、まずギルドの依頼を受けて実績を積もうと考えたのだ。

 

 ガイルのその意図を察したレグロは、少しだけ欲を出して聞いてみた。

「こっちが用意するのは荷運びようの人員だけでいいのか? 何だったら船員も用意するが?」

「それは、こっちで用意するから気にするな」

 あからさまに諜報要員を押し込もうとしてきたレグロに、ガイルはそっけなく答えた。

 ふたりのやり取りを見ていたカイトは、内心で少しうざったくなってきていたが、そもそもこの世界ではこういったやり取りもありえるものだと考えて黙っていた。

 それに、折角ここまで年相応の子供のふりをして黙っていたのに、ここでそんな突っ込みをしてしまえば計画が台無しになってしまう。

 

 カイトがそんなことを考えているのを余所に、ガイルとレグロの話し合いは続いていた。

「そうか。そっちがそれでいいのなら別に構わないが」

「ああ。――ただ、送り先でも荷下ろし用の人員は用意してもらわないと駄目だな」

「確かにそうか。それでは、それもこちらで手配しておこう」

 今回の依頼が全て期限内に果たせるのであれば、それくらいの経費はギルドが持っていもいいとレグロは考えている。

 それくらいに、レグロが用意した依頼は、ギルドにとっては重要なものなのだ。

 もっと正確にいえば、期限内に届けられるのを諦めていた依頼ともいえる。

 もしくは、期限を犠牲にした上で冒険者ギルドと協力して陸路で目的地に運び込むか、だ。

 

「それは話が早くて助かる」

 海運ギルドには、遠距離間でも通話ができる魔道具がある。

 それを使って目的地の港町にある海運ギルドに連絡をすれば、人員の手配もやってくれるはずだ。

「何。きちんと依頼をこなしてくれるなら、これくらいは大したことではない」

 本心からそう言ったレグロに、ガイルは「そうか」とだけ言って頷いた。

 

 

 これで、話し合うべきことは全て話し合った。

 そんな空気が流れたところで、ガイルが切り出してレグロもそれを了承した。

 ここでレグロが、何とはなしにこれまでほとんど言葉を出すことなく、ただ黙って座っていた少年カイトへと視線を向けた。

 レグロが子供に視線を向けたのは、本当に何気なくで何かを意図してのことではない。

 

 そんなレグロに、カイトはニコリと微笑み返した。

 そしてそれを見たレグロの中に、何故だか突然これまでの話し合いはこの少年が考えたものではないかという考えが浮かんだ。

 だが、そんな考えはすぐにレグロの中にある常識で打ち消された。

 あどけない笑顔を浮かべている子供が、そんなことを考えられるはずがないと思ってしまったのだ。

 

 結局この時のレグロがある事実を知らないまま、この時の話し合いが終わった。

 その事実とは、ガイルが話していたことは、ほとんどがカイトが考えていた内容であり、どう対処するかも事前に決められていたのだ。

 そのことをレグロは後に知ることになりその時に改めて頭を抱えることになるのだが、今のレグロはそんな未来が来ることなど露ほども思いつかないのであった。

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