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8-34 使命

「スクード。ちょっと話があるんだ」

『どうした、スズキ。そんなに改まって』


「ああ、ちょっとな……」

 そして彼は気づいたように、少し冴えない顔色の俺達を見回した。


『ん、今日はメンツが足りないな。確か、もう二人いたはずだが。あの賑やかな若い女性もいないな。確かカワシマと言ったか』


「あ、ああ。その事もあってね」

 俺達はスクードに促されて二階へと上がった。


 池田はラオと自主的に残るようだったので、うちのペットの世話は奴に一任した。もっとも、マリエールが奴に夢中で離さないで指を咥えて見ていたようだが。


 せっかく川島がいないというのに、ライバルとなる強力な伏兵がいたようだ。サリアも残っていて、うんこ座りしている池田が「よしよし」をされていた。


『まあ座れ』

 俺達四人は勧められるままに、執務室の上質なソファに腰かけた。


 いつの間にかやってきたアンリさんがお茶を出してくれたので俺達は会釈をしてそれを受取り、彼女もギルマスの隣に腰を下ろす。


「ああ、実は先日、初めていくダンジョンで待ち伏せを食らってな。うちの隊員が一人重傷を負った。本当に危ないところだった」


『そうか、それでお前達も妙な雰囲気だったのか。それは、どこのダンジョンだ』


「わからないんだ。それを知る前に、こちらの世界に出てすぐに、いきなり奇襲攻撃を食らってしまって。ぎりぎりの状態で撤退した。死人が出なかったのが不思議なくらいさ。


 小さなダンジョンではなく中規模のダンジョンだと思う。少なくとも、このクヌードのような大型ダンジョンとは違う。俺達の世界側からだと、このクヌードへくるダンジョンの隣にあるんだがな。こちら側では、どこに出たものやら」


 スクードの顔にも苦い物が広がっていった。アンリさんも複雑そうな表情だ。この世界を包もうとする波乱、それは間違いなくこのクヌードの街にも影響を及ぼす。


 その動きがついに俺達に直接影響を与えるほど大きくなってきたのだ。このクヌードが巻き込まれないとも限らない。もちろん、それはここだけでは済まないのであるが。


『お前がこの世界にやってきて以来、いつかこういう事が起こりうるのかもとは思っていたが。それで、これからどうする』


「もちろん、活動は続ける。残りの連中も復帰する意思は確認した。もうこちらの世界へ来る来ないなどと言っていていい状態は終わった。


 敵さんがどこのどいつなのかもわからない。グニガムの王女の話では直接襲ってきているのは雇われ者らしいし、今度襲ってくる事があっても、黒幕が同じ連中とは限らない。


 この世界全てが入り乱れて騒動になっているようだし。俺達も少し堂々とやり過ぎていたかもしれない。本格的な排除行動の対象になってきているようだ」


 だが、俺達には邦人保護や場合によっては、この世界と地球の双方に深刻な被害を与えかねない相手を排除せねばならない。


 このクヌードのあるラプシア王国は、はっきり言って世界の隅っこにある田舎の王国のようなので、本格的に頼りになる存在はエルスカイム王国くらいだ。


『そうか。選ばれし者、そしてその使命。はたしてこの騒動は収まるものなのか。通常、主神交代騒ぎはそれなりに長く続く。そして大概は何事もなかったかのように穏やかに終焉を迎え、次代の主神の名のもとに世界は緩やかな時を過ごすのだ。


 今回はその平穏を享受する事は難しいようだな。しかも、まったく終わりが見えんような話だ。もしこの件に終わりがあるとするならば、それは肇、お前達が使命を果たし終えた、その時なのだろう』


「使命……か」


 世界を覆う闇。それを振り払う事が俺達にできるのだろうか。当事者である俺達にもさっぱりわからないのだ。


 別に俺達自身が神様のお告げなんかを聞いた訳じゃない。他の連中が、選ばれし者とその仲間だとか勝手に呼ぶだけなのだ。


 だが、俺達にも日本で待っている家族がいる。友人も知己も家族も。この世界にも愛すべき人達、守りたい大切な人たちはいる。


 そして、望まずしてこの世界へとやってきた、俺達が救出を頑張らないと日本に帰れない人達も。


「あれから、何かわかったのかい」


『そうだな、あのお前達が捕まえた荒くれ者だが、先日牢の中で自害したよ。まあ何も吐かないので、どの道どうしようもないのではあったが。


 奴らはギルドの魔法尋問にすら耐えた。まるで大国の特殊な精鋭兵士でもあるかのようだ。あいつらは、決してそのようなものではないのだが。


 後、この街で不穏な動きをしていた連中もいたが、追及を始めたら皆逃げ出していったようだ。この街で儀式をしようとしていた一派はすべて撤退しただろう。

 

 あるいは、もう一部儀式を終えていないとも限らないが、影響は限定的のはずだ。ああいうのも簡単には発覚しないから困ったものなのだが。


 何せ、今まではこの街なんかでそれほど聖魔法による活動が活発に行われた事はない。この辺境の街でそのような事が行われていた疑惑があること自体が、世界を覆う不穏の、一つの証明でもある』


 アンリさんも、その美しい青を称えた目を瞑り、こう言ってくれた。


『この世界の騒動なのだから、他の世界から来たあなた方に押し付けるような事ではないのだけれど、それでも期待しているわ、肇。


 なんといったらいいのかわからないけれど、あなたのような人ならきっと立派に使命を果たしてくれるような気がするの』


 へへ、こんな美女に期待されちまっているんじゃあ、頑張らないとな。どの道、やるしかないのだから。


 俺は皆の顔を見回したが、それぞれ同じような考えでいてくれるようだった。異世界自衛隊の活動は、これからも続く。ここにいないメンバーもきっとそう思ってくれている事だろう。


 そして、サリア。あの子は俺といる事が運命なのだという。いつか、その事を打ち明けてくれると信じている。


 今は聞かない。あの子がそれを頑なに拒むから。俺もあの子に運命のような物を感じている。


 俺はスクードとアンリさんを見つめた。このように俺達の力になり、言葉をかけてくれる人たちもいるのだ。もうひと頑張りするとしますか。

 

 一通り、この21ダンジョン界隈を回ったら、アレイラにも行かないといけないだろう。なんとか、あのはねっ返り王女様の御機嫌を取らないといけないな。


 その前に、第20ダンジョンへ俺が一人で行ってこなくてはならない。あのような事態となって、今のままでは俺もチームを率いて探索を続ける自信がない。これからもあの第19ダンジョンで起きたような事態は起こりうるのだから。


 俺は選ばれし者として、これからも戦い続けなければならないのだ。スクードと話をしていたら、不思議と気持ちが落ち着いて、俺も先の事へと想いを馳せるのであった。


今まで、ご愛読くださって大変ありがとうございました。

第一部完という形ではありますが、一旦これでお話を終了させていただきます。

また、いつの日か続きを書けたらよいと思っております。

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