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8-29 楽しい日々

 翌日には皆で草野球場に出かけた。今日は土曜日だったが、野球の予定はない。結構平日にもやってたりするので、休日に使っていない事も少なくない。


「兄ちゃん、広場でラオと何をするの?」

「え、そんな物は決まっているじゃないか、これだよ」


 そう言って取り出したものは、フライングディスクだ。最も大きいタイプで、直径三十八センチもある。それでもラオには小さめなのだが、小器用な奴なので大丈夫だろう。


 こいつは人の考えをよく読むので、道すがら説明してやっておいたから、いきなりでも遊べるはずだ。


 通りすがりに会った人が、こちらをガン見していたが、笑顔で手を振って、ラオも尻尾を振りつつ「にゃあん」をやっておいたので大丈夫なんじゃないだろうか。


 通報しても警察は来ずに説明してくれるだろう。来たくないだろうから。草野球場は一応柵というか、元々ゴルフ練習場だったので、ネットは張ったままにしてある。


 もっとも俺のパワーだとホームランボールがネットを突き破りかねないし、上の空いた部分から場外に飛んでしまいそうな感じだ。


 外からネット越しに覗いても、ラオがいるのがよくわからないだろうな。まあ色合いは思いっきり派手な生き物なのだが。


「じゃあ僕が一番ね~」

 今日は美樹ちゃんも一緒に来ているし、ラオがお気に入りになったとみえて、淳の奴は大張り切りだ。


「行くよー、ラオ」

 奴の方も一声鳴いて、まるで「さあ、坊ちゃん、よしこい」といったような雰囲気で、三十メートルほど離れた場所に陣取り自然体で構えるラオ。


 我が家の人間は運動神経がいいので、見事に正面に飛んで行く大型フライングディスク。パクっと見事に咥えて、体を一回転させながら器用に投げ返す? ラオ。これがまた見事に淳の正面に飛んでいった。


「うわあ、凄いラオちゃん、上手ー」

 初めて遊ぶゲームでここまでやれるとは、さすが選ばれし者のペットだけの事はある?


「たいしたもんねえ」

 亜里沙が感心したように唸る。こいつは体を使う遊びは淳には敵わないので一番手は弟に譲ったようだった。


 二番手は美樹ちゃんだが、これがまたひょろひょろと二十メートルくらいで落ちそうなのだが、ラオは見事なダッシュで守備のファインプレーを決めた。そして、今度は顎の力だけで、同じくひょろひょろと投げ返してきた。


「ひゃあ、ひょろひょろなところまで真似をしなくてもいいのよお」


「はっはっは。それが美樹ちゃんのお気に入りのプレーだと思ったんだよ。さあ、ラオ。俺達のコンビを見せてやろうぜ」

 そして俺は思いっきりディスクを投げた。もちろん得意のホームランコースで。


「馬鹿馬鹿、兄ちゃんったら、そんな物が捕れるわけがないじゃないのさ」

「これだから、元自衛隊の脳筋兄貴は」


「はっは。まあ見ていろよ」

 ラオはまるで予測していたかのように、既に走り出して自分を追い越していったディスクを追い越した。


 というか、単に俺の考えを読んでいただけなのだが。そして、俺が思考で指示した通りのプレーを実行してみせた。


 なんと奴は風にたなびくペラペラな緑のネットを蹴って、アルプスのような山岳地帯の岩山を駆け上る立派な角を生やした山羊のように、ネットの壁を登っていった。しかも、ネットには何も損傷を与えたりはせずに。


 ギャラリーはそれこそ目を飛び出さんばかりにして、そのありうべからず光景に目が吸い寄せられ、そして口をあんぐりと開けた。


「な、なんて運動能力なの!?」

「極彩色の大きな山羊さんがおる……」


 そして、あわやホームランになりかけたフリスビーを見事にジャンピングキャッチ。空中でくるくると回りながら落ちてくる途中で、体を捻って投げ返し、俺はその場を一歩も動かずに捕球した。


「よしよし、えらいぞ、ラオ」


 そして奴は『キャット空中二十回転』くらい、くるくると回りながら高さ三十メートルから無事にしなやかに着地を決めて、その足でダイレクトキックして地面を蹴り、俺の前まで瞬時にやってきて「褒めて褒めて」と言わんばかりに頭を差し出す。


 俺は思いっきりその可愛らしい奴を撫でまわしながら褒めた。

「どうだい、みんな。これがパイラオンという生き物なのさ。そこのクヌードの、第21ダンジョンにはいないけれど、初めて会った魔物がこいつだったら、きっと俺は勝てなかっただろう」


 いや、それはどうだったろう。おそらくラオが俺に懐くのは『選ばれし者』の力にもよるのだから、雑魚の魔物ならいざしらず、この子なら案外と右も左もわからなかった俺の力になってくれたかもしれない。


 そんなパターンを思って思わず頬が緩む俺だった。ラオも、そんな俺の心を読んだものか、初めて会った時のようにペロっと手を舐めてくれた。


「うわあ、凄い」

「これが魔物なのかあ」

「ラオちゃん、凄い!」


 口々に皆から褒められて、それはもう有頂天な、うちの猫。こんな楽しい日があってもいいよな。


 この間は本当に酷かったのだ。もう立ち直れないかと思っていたが、そうはならなかった。案外と人間はタフなものだ。


 そして俺はもう一度ダンジョンに行く前に行っておきたい場所があった。クヌードだ。グラヴァスで話を聞いてきたい。


 というわけで、久しぶりにあいつらを引っ張り出すか。その前に合田の見舞いに行ってこなくっちゃあな。川島がラオに会いたがるだろうが、さすがに一般の病院にラオは連れていけないから無理だけど。


 それから、またしばらく皆で遊んでから家に帰った。どんなコースに投げられても捕ってしまうラオは野球でもきっと名守備を見せる事だろう。あいにくと、あの草野球場では彼を上回る名選手は一人もいないだろうがな。


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