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8-14 サリア、巫女と言う名の少女

 第19ダンジョンも、第20ダンジョンも、ここでは地元のダンジョンだが、向こうの世界ではどこに繋がっているのかわからない未知の世界であったのだ。


 本来であるのなら、もっと警戒してしかるべきだった。不穏な動きは察知していたのだから。


 思えば、今までうまく行き過ぎていたのだ。俺は現地では少し目立っていた。装備や風体、そして武装や能力。


 それらは自然に現地の責任者の目に留まり、今までのところは比較的俺達に都合のいい側に転がっていた。


 だが、グニガムなどはそうではない。あそこでは、この先も相当に不自由を強いられるだろう。バネッサや、あいつを姫と呼ぶような、おそらくは幼少からその世話を焼いてくれていたような一部の者の協力を仰げるくらいだ。


 グニガムなども、まだ積極的に敵に回られないだけ、涙が出るほどありがたいくらいだ。あの向こうの世界で第二のダンジョンが、王都アマラが敵に回ったなんて言ったら。


 何しろ行方不明者の七割が三大ダンジョンの管轄にいるのだからな。おかげで不明者の救助は進みつつあるのだ。


 あと、何よりも友好的なアレイラの存在があるのが心強い。資金の調達ができるのも非常に助かるのだ。


 今回の騒ぎのお蔭で、あまり無闇と派手に動けなくなったからな。油断すると現地で必要な資金が枯渇する。


 人探しも、誰もただではやってくれない。今回の騒ぎで、向こうの敵対する連中にも俺達の存在がはっきりと知れただろうし、へたすると人相その他の情報が漏れた可能性すらある。


 いや、連中が遅滞なく攻撃してきていたのをみれば、元からバレていた可能性すらあるのだが。あるいは、閉鎖区域から出てきた者は攻撃する手はずになっていたものか。


 現地にも魔道具のようなものはある。記録系の魔法や魔道具を奴らが持っていなかった保障などは、どこにもない。


 奴らを全滅させた保証もない。むしろ俺達が命からがら逃げ出したくらいだったのだ。何一つ確認もできずに。


 今まで負傷が無かったのが不思議なくらいだった。師団長も絶対に無理はするなと言ってくれている。


 政府の上の連中は煩い事を言ってくるが、自衛隊は隊員の命を大事にする組織なのだ。ダンジョンの中だって、俺達以外は入っていかないのだから。


 米軍はまた別だ。あいつらは異世界への侵攻は諦めたものの、素材関連は入手に躍起になっている。もう何時ダンジョンが消えてしまうかもしれない、先の見えないご時世だからな。


 むしろ探索というか魔物との戦闘は強化しているくらいだ。魔物は、軍用や医療用などの役に立つことが山のようにあるらしい。地球でも、最新技術や医療素材などを生物の体からあれこれ手に入れているのだから。


 俺に言わせれば、できればこのまま、ダンジョンが静かに消えてくれれば、おおいに助かるくらいなのだ。余計な物が中から出てきてほしくないからな。


 そういう観点においては米軍が引いてしまわなくてよかった。その代わりを自衛隊がやるのは非常にキツイ。PMC、傭兵などを雇う予算も日本にはあるまい。さすがに某国軍やロシア軍に任せるわけにもいかない。連中は大喜びでやるのだろうが。


 俺が、こちら側のただの探索者か何かだというのであれば、もうこれ以上の危ない橋など渡る必要など、これっぽっちもないんだからな。金なら山盛り稼いだのだ。


 むしろどんどん出費が嵩んで目減りするくらいだ。城戸さんじゃあないが、「地球で使う分くらいの金くらい出せ」といいたいくらいだ。


 何しろ、極貧国の国家予算並みの出費を一人で強いられているのだから。世界の危機にも、予算が無いからビタ一文金は出せない。それが今の日本の無様な有様なのだ。


 金なんかケチって四の五の言っていると世界が滅びてしまう危険があるのに。霞が関はそれでも死んでも金は出すまい。城戸の姉御には好きに噛み付いてもらおう。アレイラに杏を置いておけるようになって、本当に助かった。


 それに何よりも、あの騒ぎの中でサリアが無事でよかった。あの小さい体で、あの攻撃を受けたならば絶対に助からなかっただろう。


 あの子も俺の隣にいたのだ。反対側なら死人が出ていた。フリップス少尉の時と同じだ。あれもサリアや俺を守る何かの加護とでもいうのだろうか。


 その帳尻は、今こうして合田が合わせている訳なのだが。俺は、合田のベッドの傍らでパイプ椅子に座っているサリアに、こう言った。


「しばらく、お前を異世界へ連れていけない」と。すると、あいつは両の目にたくさんの涙を溜めて、物凄い勢いで抗議してきた。


「ハジメ! 私はあなたと、選ばれし者と一緒に行かないといけない使命があるの。おいていくのは絶対に駄目!」


「おい、病室で騒ぐな。こら」

「駄目、駄目なの~」


 合田も目を開けて驚いたような顔をしている。何というか、あの子は立ち上がり迫ると、鬼気迫る感じに体を押し付けてきて俺を睨むが如くに。


 その目、あの異世界の魔物が吐くブレス並みの炎を灯すかのような、強力な意思を込めた、その瞳。仕方がない。ここは俺が折れざるを得なかった。この子は訳ありで俺についてきているのだ。


 そうでなければ、俺も今まで危険があるのに連れて行くなどという無謀な事はしない。異世界のアレイラかクヌード、そうでなければ家に置いていく。


「わかった、わかった。そこまで言うのなら、皆と一緒の時は連れていくから。俺が一人で偵察に行く時などは危険だから絶対に駄目だ」


「わかった。それは仕方がないからね。でも絶対に皆と行く時は一緒に行くから。サリアは巫女、選ばれし者と一緒にいないといけないの」

 そう言って、また涙を溜め込むのだった。


 サリアは、その俺の決定について非常に不満そうだったが、俺は決して譲らず、それで納得させた。何故、ああも俺と共に行くことに拘るのか。だが、サリアは頑なにそれを話す事を拒んだ。


「訳は言えない。でも駄目なの。サリアはハジメと一緒に行かないと駄目なの!」


 俺も今は聞きだす事は止めにした。いつか、きっと話してくれるだろう。俺達は家族のようなもの、あるいはそれ以上の運命共同体的な存在であるのだから。


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