表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/232

7-11 巫女の血

『ふう。なんとか撒いたな』

「ここは一体?」


『ああ、王族だけが使える避難用のシェルター通路だ』

「こんな路地裏に、そんな物まで用意してあるのですか……」


 平民、いや一般国民である自分には想像もつかない、この世界の王族の厳しさに思いを馳せたが、その割にはこのお姫様と来た日には。


 これも王族の御忍び用の設備だよね。このお姫様の事が、何かちょっと好きになってしまった川島だった。


『しかし、弱ったな。あの連中がうろうろしているから、すぐには出られないぞ』


「ご安心を。こういう時の通信手段があります。今頃準備してくれているはずだけれど」

 そう言いながら、川島が取り出したものはスマホだった。今は圏外。じーっと見つめる川島。


『何だ、それは』

「通信の道具です。今、設備を展開してくれているはずなので待っています」


『ほーお』

 珍しそうに覗き込むバネッサ。


「あ、来た来た」

 アンテナが3本立ったのを確認して、嬉しそうに着信記録から肇に電話する川島。


「おーっす、肇ー」

「おい、どこにいるんだ。気配を追っていったら、行き止まりだったし。取り急ぎ携帯電話中継車を引っ張り出してきたとこさ」


 これが今回持ち込んだ、目玉の新兵器だ。震災などで携帯会社が使用したりするものだ。


「こっちは全員無事よー。その行き止まりの中に隠し扉があったんだよ」

「うわ。忍者屋敷かよ!」

 さすがに呆れたようだ。どう見ても下町の汚い小路なのに、何故そんなものがあるのか。


「迎えに行こうか?」

「うん。さっきの奴らがまだ血眼になって探してるわ」


「じゃあ、そこを動くなよ」

「了解ー」

 スマホを仕舞い、一息吐く川島。


『なんだって?』

「ここで待ってろって」


『そうか。ところで、お前。名前は?』

『サ、サリアです。助けてくれてありがとう』

 これが、彼らとサリアの出来事であった。偶然か、あるいは運命に引き寄せられたものなのか。


        ◆◇◆◇◆


「さってと、どうする肇」

 うろうろしている、あの連中を見ながら山崎が聞いてきたが、俺は間髪を入れずに答えた。


「ぶちのめす。どの道大立ち回りはやらかしちまったんだ。これが済んだら撤収だ。一旦引くぞ」

「まあ、しょうがないな。じゃ青山、お前はバックアップを頼む」


「わかった」

 愛用のライフルを片手に、手頃な場所を見繕って陣取る青山。殴りこみ担当は、なんでもありの俺と武闘派の山崎だ。援護が青山。


「おい、いい天気だな」

 例の壁の前でうろうろしている見張りの連中に声をかけた。


『何だ、お前らは』

「こういうもんさ」


 そういって、俺は跳びかかり、そいつをのした。もう1人もさっさと殴り倒す。携帯を取り出すと、川島を呼び出した。


「おい、いるのか?」

 返事の代わりに、壁がグルっと回って3人が姿を現した。だが、俺を見るなり、その少女は言った。

『あなたは、選ばれし者?』


「どういう事だ? 説明してくれ。君は何故俺達の事を知っている」

 俺達の宿で、バネッサを含めて全員が集まっていた。


『わかりません。一目見ただけで、そう思った、いやわかったのです。理屈ではなく、私の体に流れる血がそうさせるのです』


「君の?」

 どういう事だ。


『私の家系は、代々神々に使える巫女の家系でした』


「神々という事は、特定の神に仕えるのではなく、関係なしに巫女の役割を果たすという事かい?」

 少女は頷いた。


『正確には、巫女なのは私の母で、私自身はそういう教育は受けていません。でも母から話は聞いていたし、ただわかるのです』

 なんという。そんな話は聞いた事がなかったぜ。


「バネッサ」

『いや、私もそんな話は聞いた事がないが。なにぶん、私も若い。王女などというものは、いずれ他国に出してしまうものだからな。そうたいした話を知らされるわけではないのだし』


「そうかあ」

 どうしたもんかな。俺はチラと山崎を見たが、奴も思案顔だ。その沈黙を破ったのはバネッサだった。


『なあ、肇。その子はお前達の国へ連れていってやってはどうだ? その方が安全だ。この子は親が死んでしまって、今は1人だそうだし。しばらくほとぼりを冷ましたほうがいいだろう。その間に、あの連中の事を調べさせよう』


 それも確かに一考だな。もし、この子が俺達と係わり合いがあるというなら、日本に移動は可能かもしれない。迷宮神使は、この子の有用性を認めるだろう。


「わかった。そうするか。山崎、予定通り撤収しよう」

「了解。じゃあ、みんな撤収準備だ」


「じゃあバネッサ、行方不明者の捜索は頼んだぜ」

『わかった。1か月ほど経ってから来い。それくらいが丁度いいだろう。ほとぼりも冷める』


「そうしよう。魔物達の世話を頼むよ」

『ふふう。それは頼まれなくてもな!』

 一応、ラオに必要な物はもう渡してあるので心おきない。守山にラオを連れて帰るのはお預けだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ